
管理職育成、「なれる人」を待つより「なれる環境」をつくる
目次
管理職育成、「なれる人」を待つより「なれる環境」をつくる
「うちにはそういうタイプの人がいなくて」——管理職育成の話をすると、こういう言葉をよく聞きます。
「マネジメント適性がある人がいない」「リーダーになりたがらない」「昇進を断られた」。東北の中小企業で人事をしていると、こうした悩みは決して珍しくないと思います。でも、少し立ち止まって考えてみると、「そういうタイプの人がいない」のではなく、「そういうタイプの人が育つ環境がなかった」という可能性はないでしょうか。
管理職育成は、人材のスカウトではなく、環境の設計だと思っています。
東北ならではの管理職育成の文脈
東北の製造業・食品加工・農業関連企業では、職人的な技術者が多く、「現場の達人」が管理職になるパターンが多いのではないでしょうか。技術力は高いのに、マネジメントになった途端に苦労するというケースをよく聞きます。
また、中小企業では「管理職=プレイングマネジャー」が当たり前で、プレーヤーとしての仕事をこなしながらチームを見るという二重負荷が続くことも。高齢化が著しい医療・福祉業界では、現場の熟練者が管理職を担いながらも、自分自身が次の世代に何を伝えればいいか分からないという声もあります。
東北の管理職育成には、「現場を知りながら組織を見る」という独特の難しさがあります。
なぜ今、管理職育成が重要なのか
管理職の質は、チームのパフォーマンスと離職率に直結します。「直属の上司に問題がある」ことが離職理由の上位に挙がるのは、業種を問わず共通した傾向です。
仮に管理職1人の問題で、チームメンバー1名が離職したとすれば、その採用・教育コストは数十万〜百万円超になります。さらに、チームの生産性低下を売上換算すれば、その影響はさらに大きくなります。
管理職育成は「人材教育の話」ではなく、「組織コストと事業継続性の話」です。その視点で取り組まないと、育成に投じる時間と費用の意義が経営に伝わりにくくなります。
実践に向けた3つの視点
視点1:「管理職になりたくない」の裏にある不安を聞く
管理職候補者が昇進を断る理由を、丁寧に聞いたことがあるでしょうか。「責任が重い」「給料がそんなに変わらない」「メンバーとの関係が変わりそう」——それぞれに異なる不安があります。
それを「本人の覚悟が足りない」で終わらせると、何も変わりません。「給料がそんなに変わらない」なら制度の問題かもしれない。「責任が重い」なら管理職の役割定義が曖昧なのかもしれない。不安の言語化から、育成設計の課題が見えてきます。
視点2:「任せる前に支える」仕組みをつくる
管理職育成で失敗しやすいのは、「いきなり任せて、うまくいかなかったら本人の問題」という流れです。管理職に登用した後、最初の6ヶ月が最も支援が必要な時期です。
1on1の仕組み、他の管理職との横のつながり、人事担当者との定期的な対話——こういった「内側からの支援」がなければ、どんなに優秀な候補者も潰れることがあります。特に東北の中小企業では、管理職同士が孤立しやすい環境があるかもしれません。
視点3:「管理職像」を自社の言葉で定義する
外部研修で「リーダーシップとは」「マネジメントの基本とは」を学んでも、自社の管理職が何をすることを期待されているか分からなければ、学んだことは活かしにくい。
「うちの会社で管理職として活躍している人は、何をしている人か」を具体的に言語化することが出発点です。理想像ではなく、自社で実際に機能している姿を描くことで、育成の方向性が明確になります。
ある東北の企業では
山形県の製造業(電子部品)では、技術職から管理職に上がった人が短期間で現場に戻ってしまうというサイクルが続いていました。「管理職が育たない」という悩みを抱えた人事担当者が取り組んだのは、管理職研修ではなく「管理職へのヒアリング」でした。
話を聞くと、「何を期待されているのか分からない」「メンバーとの対話の仕方が分からない」という声が多かった。そこで人事担当者が月1回の「管理職との対話時間」を設け、悩みを聞きながら役割定義を一緒につくっていきました。
2年後には、管理職の定着率が大きく改善し、チームの売上目標達成率も向上。育成プログラムの追加ではなく、「対話の場をつくった」ことが転機になったといいます。
管理職の「なりたくない理由」を丁寧にほぐす
「管理職になりたくない」という声は、東北の中小企業でも増えています。でも、その理由は一つではありません。
ある岩手の食品加工会社で、管理職候補者へのヒアリングを実施したところ、「責任が重くなるのが怖い」という声が多かった一方で、よく聞いてみると「責任を取らされたとき、会社がサポートしてくれるのか不安」という意味だった、ということがあります。つまり、孤立して責任を負わされることへの恐怖であり、「チームで乗り越える仕組みがある」と分かれば、管理職への意欲が出てきた——そういう例もあります。
また、「給料がそんなに変わらない」という声には、「管理職の仕事量に見合う処遇になっていない」という訴えが隠れています。これは制度の問題として取り組める課題です。管理職手当の水準、残業代の扱い、時間外の仕事への対応——これらを見直すだけで、「管理職は損だ」という感覚が和らぐことがあります。
「メンバーとの関係が変わりそう」という不安には、「今の仲間から遠ざかることへの寂しさ」が含まれていることが多い。これは東北の職場特有の「人間関係の近さ」から来るもので、悪いことではありません。ただ、「管理職になってもチームの一員であることは変わらない」というメッセージを、先輩管理職が体現して見せることが大切です。
「なりたくない理由」を一つひとつほぐしていくことは、手間のかかる仕事です。でも、その作業をせずに「上からの辞令」で管理職にしてしまうと、後で大きな問題になることも。入口の丁寧さが、管理職の成功率を大きく変えるのです。
管理職候補者を見極める「経験の設計」
「管理職適性がある人がいない」と感じているなら、「適性が出る前にあきらめている」可能性があります。
管理職適性は、管理職の仕事を経験することではじめて明らかになることが多い。そのため、管理職に登用する前に「管理職の仕事の一部を経験させる機会」をつくることが有効です。
具体的には、プロジェクトリーダーを任せてみる、新入社員のOJT担当にする、チームミーティングの進行を任せる——こうした「小さなマネジメント体験」を積ませることで、本人の適性や意欲を本登用前に確認できます。失敗しても修正できる範囲での経験は、本人にとっての学びにもなります。
山形の精密機器メーカーでは、「準管理職」という非公式のステップを設けています。特定の業務においてリーダーシップを発揮する役割を与え、その実績を見て正式な管理職への昇進を判断する。このやり方で、「管理職に向いていないかもしれないと思っていた人材」が実は優れたマネジャーだったというケースが出てきたといいます。
人は「経験の中で育つ」——この原則は、管理職育成においても同じです。「適性を見てから育てる」ではなく、「育てる過程で適性を引き出す」という発想の転換が、管理職不足を解決するヒントになるかもしれません。
よくある失敗パターン
「外部研修を受けさせれば育つ」という期待:研修で知識を得ることと、職場で機能するマネジャーになることは別です。研修後のフォローと実践の場がなければ、学んだことは定着しません。
「適性がある人だけを登用する」という選別主義:適性は環境によって開花します。「向いていない」という判断を早まると、育てられる人材を見落とします。
「管理職は自分で何とかするもの」という放任:プレイングマネジャーとして二重負荷を抱える管理職を放置すると、燃え尽きのリスクがあります。
管理職の「孤立」を防ぐ仕組みをつくる
東北の中小企業の管理職が燃え尽きる理由のひとつに、「孤立」があります。
プレイングマネジャーとして現場の仕事もこなしながら、チームの課題も抱え込む。相談できる同僚管理職が社内にいない。人事や経営には「弱音を見せてはいけない」という空気がある——こうした状況が続くと、優れた管理職候補者でも疲弊します。
管理職の孤立を防ぐシンプルな方法の一つが、「管理職同士の横のつながりの場」を定期的につくることです。月に1回、30分でも「最近チームで困っていること」を管理職同士で話し合う場があるだけで、「自分だけじゃない」という感覚が生まれます。情報共有が進むことで、他部署でうまくいった対処法が横展開されることもあります。
また、人事担当者が定期的に管理職と1on1の対話をする習慣も効果的です。評価のためではなく、「管理職の仕事がうまくいっているか、何か困っていないか」を聞くための時間です。管理職自身が「誰かに聞いてもらえる場がある」と感じられることが、燃え尽きの予防になります。
岩手の建設会社では、人事担当者が月に一度「管理職ランチ会」を設けています。業務の指示ではなく、「最近どう?」という雑談の場です。この場を通じて、「部下のメンタルが心配」「評価の基準が自分には難しい」という声が上がるようになり、人事が早期に課題を把握できるようになったといいます。管理職支援は「研修」だけでなく、「日常の対話」から始まります。
管理職育成を経営数字と結びつける
管理職育成の投資を経営に説明するためには、数字が必要です。
たとえば、管理職1名の機能不全によってチームメンバー1名が離職した場合、採用・教育コストで100万〜200万円のコストが発生します。管理職が5名いて、そのうち1名が毎年「問題管理職」による離職を生んでいるとすれば、年間100万〜200万円のコストが管理職育成の課題から生まれていることになります。
逆に言えば、管理職育成に50万円投資してこの問題が解消されれば、投資対効果はプラスです。こういう試算を経営に持っていくことで、「管理職研修の費用はもったいない」という反応が「それは必要な投資だ」に変わることがあります。
また、管理職の質と現場の生産性の関係を数字で捉えることも有効です。「管理職が変わった後、部門の残業時間がどう変化したか」「管理職研修の前後で、チームの欠勤率・離職率がどう動いたか」——こうしたデータを継続的に取ることが、育成施策の評価と次の打ち手の設計につながります。
東北の中小企業では、こういったデータを取る仕組みがまだ整っていないケースも多い。でも、完璧なデータでなくても構いません。「管理職の状態」を定期的に観察し、言語化して経営に届けること——その習慣が、管理職育成を「感覚的な取り組み」から「投資対効果を語れる取り組み」に変えていきます。
「事業を伸ばす人事」を東北から
管理職育成は、時間のかかる仕事です。でも、管理職の質が変わることで、チームの生産性・離職率・現場の活性度が変わる。それは長期的に事業の数字に表れます。
「なれる人がいない」という言葉を、「なれる環境がなかった」と読み替えることから、東北の管理職育成は変わっていけると思っています。
管理職育成をもっと深く考えたい方へ
経営視点で人材育成に取り組む実践的な講座です。
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人事図書館 https://hr-library.jp/?utm_source=note&utm_medium=article&utm_campaign=library_tohoku_kanrishoku
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