
東北の企業が「人事担当者自身のキャリア」を考える方法——「誰のキャリアも支援する人事が、自分のキャリアだけは後回しにしている」問題
目次
- 東北の一人人事が持つ「希少な強み」
- 強み1:人事業務の幅広い経験
- 強み2:経営者との距離の近さ
- 強み3:少人数で成果を出す力
- 人事担当者のキャリアパスを描く
- 方向性1:自社での成長——「人事のプロ」として経営に貢献する
- 方向性2:他社への転職——人事の経験を活かして次のステージへ
- 方向性3:専門家への転換——社労士・コンサルタントとして独立する
- 方向性4:人事以外の管理部門への拡張——総務・経理・経営企画へ
- 専門性を高めるための具体的な方法
- 方法1:資格の取得
- 方法2:外部の勉強会・コミュニティに参加する
- 方法3:書籍やセミナーでの継続学習
- 方法4:自社での実践を「実験の場」にする
- キャリアの棚卸しを定期的に行う
- 一人人事の「燃え尽き」を防ぐ
- 経営者へのメッセージ——人事担当者のキャリアを支援すること
東北の企業が「人事担当者自身のキャリア」を考える方法——「誰のキャリアも支援する人事が、自分のキャリアだけは後回しにしている」問題
「社員のキャリア面談をしながら、自分自身のキャリアについては何も考えていないことに気づきました。採用、評価、給与計算、社会保険——日々の業務に追われて、自分がどこに向かっているのかわからない」
仙台のある製造業の人事担当者(入社8年目、一人人事)から聞いた言葉です。私はこの言葉に、東北の中小企業で人事を担当している方々の孤独と迷いが凝縮されていると感じました。
人事担当者は、社員の採用、育成、評価、キャリア支援——「人のキャリア」に深く関わる仕事をしています。しかし、自分自身のキャリアについては驚くほど無頓着であることが多い。「人事の仕事は好きだけど、この先どうなるのかが見えない」「一人人事で相談できる人もいない」「人事の専門性を高めたいが、何をすればいいかわからない」。
東北の中小企業の人事担当者のキャリアには、特有の課題があります。まず、人事の専門部門がない企業が多く、先輩人事がいないため、ロールモデルが見えない。次に、一人人事または兼務のため、日常業務に追われて学びの時間が取れない。そして、東北という地域の中で、人事の専門家としてのキャリアパスが限られている。
しかし、私はこれらの課題を悲観的に捉えてはいません。むしろ、東北の中小企業で人事を経験することは、非常に希少で価値の高いキャリアの土台になると考えています。
東北の一人人事が持つ「希少な強み」
まず、東北の中小企業で一人人事をしている方が、すでに持っている強みを確認します。自分の強みは、自分では気づきにくいものです。
強み1:人事業務の幅広い経験
大企業の人事部門では、採用担当、労務担当、研修担当——業務が細分化されています。一人人事の場合は、採用から労務、評価、育成、制度設計まで、人事のすべてを経験しています。
この「幅広さ」は、人事のプロフェッショナルとして非常に価値が高い。人事の全体像を理解している人材は、大企業にも少ない。
強み2:経営者との距離の近さ
東北の中小企業の人事担当者は、経営者と直接対話する機会が多い。「社長が何を考えているか」「経営の課題は何か」を肌で感じている。これは大企業の人事部員にはない経験です。
人事は経営の一部です。経営の視点を持った人事担当者は、どの企業でも求められる人材です。
強み3:少人数で成果を出す力
限られたリソースの中で、工夫しながら成果を出してきた経験。外部の力を借りながら自社に合った方法を見つけてきた経験。これは「問題解決力」と「実行力」の証明です。
人事担当者のキャリアパスを描く
人事担当者のキャリアには、大きく4つの方向性があります。
方向性1:自社での成長——「人事のプロ」として経営に貢献する
現在の会社で人事の専門性を高め、経営に不可欠な存在になる。一人人事から人事チームのリーダーへ、さらに経営幹部(CHROに相当する役割)へとステップアップする道です。
この方向性を目指すなら、「人事業務の遂行者」から「経営のパートナー」へと自分の役割を進化させる必要があります。日々の事務作業をこなすだけでなく、「人と組織の課題を経営視点で捉え、解決策を提案できる人材」を目指す。
秋田のある製造業の人事担当者は、入社時は給与計算と社会保険の事務だけを担当していましたが、10年間で採用戦略の立案、人事制度の設計、管理職研修の企画まで担当するようになり、現在は取締役管理本部長として経営に参画しています。
方向性2:他社への転職——人事の経験を活かして次のステージへ
東北の中小企業での人事経験は、転職市場で高く評価される可能性があります。特に、「一人人事として人事業務の全領域を経験した」「経営者と直接対話しながら制度を設計した」という経験は、他社の人事部門でも管理職候補として求められます。
転職先としては、同じ東北の中小企業(より大きな規模の企業)、東北に進出している大手企業の東北拠点、仙台の成長企業などが考えられます。
方向性3:専門家への転換——社労士・コンサルタントとして独立する
人事の実務経験を基盤に、社会保険労務士やHRコンサルタントとして独立する道です。東北の中小企業の人事課題を深く理解している専門家は、地域で非常に重宝されます。
山形のある社労士は、もともと地元の中小企業で10年間一人人事を務めた後に独立しました。「自分が経験した一人人事の苦しさがわかるから、中小企業の人事担当者に寄り添った支援ができる」と語っています。
方向性4:人事以外の管理部門への拡張——総務・経理・経営企画へ
人事で培った「組織を理解する力」と「人を動かす力」は、総務や経営企画の仕事にも活かせます。人事から出発して、管理部門全体を統括するゼネラリストになる道です。
専門性を高めるための具体的な方法
人事担当者が専門性を高めるための具体的な方法を紹介します。
方法1:資格の取得
人事に関連する資格は、専門性の証明と知識の体系的な習得の両面で有効です。
「社会保険労務士」:人事・労務の最も包括的な資格。取得の難易度は高いが、キャリアの幅を大きく広げます。
「キャリアコンサルタント」:社員のキャリア支援に直接活かせる国家資格。人事面談やキャリア研修の質を高められます。
「衛生管理者」:50人以上の事業場で必要な資格。労務管理の基本知識が身につきます。
福島のある企業の人事担当者は、仕事をしながら2年かけて社労士資格を取得しました。「資格の勉強を通じて、今まで感覚的にやっていた労務管理の根拠がわかるようになった。自信を持って仕事ができるようになった」と語っています。
方法2:外部の勉強会・コミュニティに参加する
一人人事の最大の悩みは「相談できる相手がいない」ことです。外部の勉強会やコミュニティに参加し、同じ立場の人事担当者とつながることは、知識の習得以上に精神的な支えになります。
仙台を中心に、人事担当者のための勉強会やネットワークが存在します。オンラインで参加できるコミュニティもあります。「他社の人事担当者がどうやっているか」を知るだけでも、大きな学びになります。
盛岡のある企業の人事担当者は、月1回のオンライン勉強会に参加しています。「同じ悩みを持つ人事担当者と話せるだけで、孤独感が和らぐ。具体的なノウハウも共有してもらえるので、自社の改善にも役立っている」と話しています。
方法3:書籍やセミナーでの継続学習
人事の専門書を年間10冊読む、四半期に1回はセミナーに参加する——こうした継続的な学習習慣が、専門性の蓄積になります。
学ぶべき分野は「労務管理」「採用」「人材育成」「組織開発」「人事制度設計」の5つが基本です。これらの分野を順番に学んでいくことで、人事の全体像が体系的に理解できるようになります。
方法4:自社での実践を「実験の場」にする
学んだ知識を自社で実践する。一人人事は、自分の裁量で新しい施策を試せる立場です。メンター制度を試してみる、1on1面談を導入してみる、評価制度を簡素化してみる——自社を「実験の場」として活用することで、実践知が蓄積されます。
キャリアの棚卸しを定期的に行う
人事担当者こそ、定期的に自分のキャリアの棚卸しを行うべきです。
私が東北の人事担当者に推奨しているのは、年に1回、以下の5つの問いに向き合うことです。
問い1:「この1年間で、自分はどんなスキルや知識を身につけたか?」 問い2:「今の仕事で、自分が最もやりがいを感じるのはどの部分か?」 問い3:「今の仕事で、自分が最も苦手・負担に感じるのはどの部分か?」 問い4:「3年後、自分はどんな仕事をしていたいか?」 問い5:「そのために、今から何を始めるべきか?」
この5つの問いに年に1回向き合うだけで、自分のキャリアの方向性が少しずつ見えてきます。
一人人事の「燃え尽き」を防ぐ
人事担当者のキャリアを考える上で避けて通れないのが、「燃え尽き」の問題です。
一人人事は、すべてを自分で背負っています。採用がうまくいかなければ自分の責任。社員が辞めれば自分のせい。制度が機能しなければ自分の力不足。この自責の念が積み重なり、心身ともに疲弊する人事担当者を私は何人も見てきました。
燃え尽きを防ぐためのポイントを3つ挙げます。
第一に、「完璧を目指さない」。すべての人事課題を一人で解決しようとしない。優先順位をつけ、「今やるべきこと」に集中する。手が回らないことは「今はやらない」と割り切る勇気が必要です。
第二に、「社外の仲間を持つ」。先に述べた外部の勉強会やコミュニティへの参加は、スキルアップだけでなく、精神的なサポートにもなります。同じ立場の人事担当者と悩みを共有し、「自分だけではない」と実感できることが、燃え尽きの予防になります。
第三に、「経営者に現状を正直に伝える」。「一人では限界があります」「このままでは○○の業務に手が回りません」——経営者に自分の状況を正直に伝え、サポートを求める。BPOの活用やパートタイム人事の採用など、経営者と一緒に解決策を考えることが重要です。
経営者へのメッセージ——人事担当者のキャリアを支援すること
最後に、経営者の方へのメッセージを述べます。
人事担当者は、社員のキャリアを支援する役割を担っています。しかし、人事担当者自身のキャリアを支援する人は、多くの企業にいません。
経営者が「人事担当者の成長」に投資することは、組織全体への投資です。人事担当者のスキルが上がれば、採用の質が上がり、制度の運用が改善し、社員のエンゲージメントが向上します。
具体的には、「資格取得の費用を会社で負担する」「外部セミナーへの参加を勤務時間内に認める」「人事の勉強会への参加を奨励する」——こうした支援が、人事担当者のモチベーションと専門性を高めます。
東北の中小企業で人事を担っている方は、自分の仕事に誇りを持ってほしいと私は思います。一人で人事の全領域をカバーし、経営者と向き合い、社員の人生に関わる仕事をしている。それは、とても価値の高いキャリアの経験です。その経験を土台に、自分自身のキャリアも大切にしてほしい。それが、東北の企業の人事の質を高めることにもつながると私は考えています。
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