東北の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——「今いる人をどこに置くか」ではなく「事業に必要な機能は何か」から考える
組織開発

東北の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——「今いる人をどこに置くか」ではなく「事業に必要な機能は何か」から考える

#採用#組織開発#経営参画

東北の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——「今いる人をどこに置くか」ではなく「事業に必要な機能は何か」から考える

「組織図? あるにはありますけど、5年前に作ったきりで更新していません。実態とも合っていないし、社員もたぶん見たことがないと思います」

青森のある卸売業の総務課長から聞いた言葉です。私はこの状況が東北の中小企業では非常に一般的であることを知っています。

組織図を「ただの社内の座席表」だと思っている経営者は多い。しかし、組織図は本来「事業を動かすための設計図」です。どの機能を、どの順序で、どのように配置すれば事業が最も効率的に動くか——これを示すのが組織図の役割です。

東北の中小企業の組織図に多い問題は、「人ありき」で組織を作っていることです。「Aさんがいるからこの部署を作る」「Bさんが退職したからこの部署をなくす」——個人の存在に依存した組織設計は、人が変わるたびに組織が揺れます。

戦略的な組織図の設計は、「人」から出発するのではなく、「事業に必要な機能」から出発します。「この事業を推進するために、どのような機能(部門・チーム・役割)が必要か」を先に設計し、その機能に人を配置する。この順序が重要です。


組織図が形骸化する3つのパターン

東北の中小企業で組織図が形骸化するパターンを紹介します。

パターン1:社長直轄型

すべての部門が社長に直接報告する「フラットすぎる」組織図。従業員30名以下の企業に多い。

この組織図の問題は、社長がすべての意思決定のボトルネックになることです。社長が不在のときに何も決まらない。社長一人の処理能力を超えると、意思決定が遅れ、事業のスピードが落ちます。

パターン2:人ありき型

特定の社員の能力や要望に合わせて部署を作る。「Aさんは営業が得意だから営業部長」「Bさんは事務が得意だから管理部長」——個人の得手不得手で組織を設計する。

AさんやBさんが退職したら、その部署の機能が一気に低下する。個人に依存した組織は脆弱です。

パターン3:歴史的経緯型

過去の経緯で作られた部署がそのまま残っている。「10年前に新規事業として立ち上げた部署だが、今はその事業はほとんど動いていない。でも部署だけは残っている」——こうした「化石化した部署」が組織図を複雑にしています。


戦略的な組織図の設計プロセス

組織図を戦略的に設計するためのプロセスを、私が東北の企業で実践している方法に基づいて紹介します。

プロセス1:事業戦略から必要な機能を洗い出す

まず、「自社の事業を推進するために必要な機能は何か」を整理します。

例えば、製造業であれば「製造」「品質管理」「営業」「購買」「管理(経理・人事・総務)」が基本的な機能です。サービス業であれば「サービス提供」「営業」「マーケティング」「管理」が基本機能です。

さらに、今後の事業戦略から「新たに必要になる機能」を加えます。「3年後にEC事業を始めるなら、デジタルマーケティングの機能が必要」「海外展開を視野に入れるなら、海外営業の機能が必要」。

秋田のある建設会社(従業員50名)では、「今後3年間で住宅リフォーム事業を強化する」という経営方針に基づき、従来は営業部に含まれていたリフォーム担当を「リフォーム事業部」として独立させました。組織図の変更が、経営方針を具体化する手段になった例です。

プロセス2:機能をグルーピングして部門を構成する

洗い出した機能を、関連性の高いもの同士でグルーピングし、部門を構成します。

グルーピングの基準は3つあります。

基準1:業務の関連性。日常的に密接に連携する機能は同じ部門にする。 基準2:専門性の共通性。同じ専門知識やスキルが求められる機能は同じ部門にする。 基準3:管理のスパン。一人の管理者が適切に管理できる人数(5〜8名程度)を超えないようにする。

プロセス3:報告ラインを設計する

各部門が誰に報告するかを設計します。報告ラインは「意思決定のスピード」と「管理の質」のバランスで決めます。

報告ラインが社長に集中しすぎると意思決定のボトルネックになる。かといって、中間管理職を増やしすぎると、伝達のロスが増え、コストも増加する。

私が東北の中小企業に推奨しているのは、「社長の直属は3〜5名」の原則です。社長の直属は各部門の責任者(部長級)3〜5名に限定し、それ以下は部門の責任者が管理する。

プロセス4:人を配置する

機能と部門が設計できたら、最後に人を配置します。この順序——「機能→部門→人」——が戦略的な組織設計の核心です。

「この機能を担当できる人がいない」場合はどうするか。3つの選択肢があります。「社内で適任者を育成する」「外部から採用する」「外部に委託する」。どの選択肢を取るかは、その機能の戦略的重要性と緊急性で判断します。


東北の中小企業に適した組織パターン

東北の中小企業の規模と事業特性に適した組織パターンを紹介します。

パターンA:機能別組織(従業員30〜80名向け)

「製造部」「営業部」「管理部」のように機能別に部門を構成する。最もシンプルで、東北の中小企業に最も多いパターンです。

この組織の強みは、各機能の専門性を高めやすいこと。弱みは、部門間の連携が弱くなりがちなことです。

パターンB:事業部制組織(従業員80名以上、複数事業を展開する企業向け)

「事業A部」「事業B部」のように事業ごとに部門を構成し、各事業部が製造・営業・管理の機能を持つ。

岩手のある食品会社(従業員120名)では、「水産加工事業部」「農産加工事業部」「通販事業部」の3事業部制を採用しています。各事業部が独立して意思決定できるため、事業のスピードが速い。

パターンC:プロジェクト型組織(変化の速い事業向け)

固定的な部門に加えて、期間限定のプロジェクトチームを柔軟に編成する。IT企業やコンサルティング企業に適しています。

仙台のあるIT企業では、「基盤チーム(インフラ・セキュリティ)」と「プロジェクトチーム(案件ごとに編成)」のハイブリッド型を採用。固定と柔軟のバランスが取れた組織です。


組織図の見直しで注意すべきこと

組織図の見直しで注意すべきポイントを紹介します。

第一に、「社員への説明を丁寧に行う」。組織変更は社員にとって「自分のポジションがどうなるか」という不安を伴います。変更の目的(なぜ変えるか)と影響(何が変わるか)を丁寧に説明する。

第二に、「段階的に変える」。一度に大幅な組織変更を行うと、現場が混乱します。まず一つの部門を変え、効果を確認してから次の部門に進む。

第三に、「見直しを定期化する」。年に1回、組織図が事業戦略と実態に合っているかを確認する機会を設ける。

第四に、「組織図を社員に見えるようにする」。組織図は社長の引き出しにしまっておくものではありません。全社員がいつでも参照できる場所に掲示し、「自分がどの位置にいて、誰と連携し、誰に報告するか」を全員が理解している状態にする。


兼務・兼任をどう扱うか

東北の中小企業では、一人が複数の役割を兼務していることが一般的です。「営業部長が人事も兼務」「工場長が品質管理も担当」——この兼務をどう組織図に反映するかは実務的に重要な問題です。

私が推奨しているのは、「主務」と「兼務」を明確に区別することです。組織図上で主務のラインは実線で、兼務のラインは点線で表記する。これにより、「この人の本務はどこか」「兼務はどの範囲か」が一目でわかります。

さらに重要なのは、兼務が常態化している場合に「本来は専任の担当者が必要な機能なのか、それとも兼務で十分な機能なのか」を判断することです。兼務している業務量が増え、本来の業務に支障が出ているなら、それは「組織図上は兼務だが、実態として破綻している」ということです。

宮城のある製造業では、組織図の見直しの際に全社員の「業務負荷分析」を行いました。兼務している業務のうち、どの業務にどれだけの時間を使っているかを可視化。その結果、営業部長が人事業務に全体の35%の時間を費やしていることが判明し、パートタイムの人事担当者を新たに採用するという判断につながりました。


組織図と事業継続計画(BCP)の連携

東北の企業にとって、事業継続計画は東日本大震災の経験からも重要な課題です。組織図の設計は、BCPとも密接に関連します。

「この人がいなくなったら、この機能が止まる」——組織図を見て、各機能のバックアップ体制を確認する。重要なポジションに「代行者」を定め、代行者が最低限の業務を遂行できるよう、日頃から情報共有と権限委譲を行っておく。

福島のある電機メーカーでは、組織図上の全管理職ポジションに「代行者」を明記しています。管理職が不在の場合に誰が意思決定を行うかが明確であるため、災害時や急な欠勤時にも組織が停滞しません。


組織図は「生きた設計図」である

最後に、組織図についての私の考え方を述べます。

組織図は「完成して終わり」ではありません。事業環境が変わり、人が入れ替わり、戦略が変わる中で、組織図も進化し続ける必要があります。

東北の中小企業は、規模が小さいからこそ組織変更のハードルが低い。大企業では組織変更に年単位の準備が必要ですが、中小企業であれば数週間で実行できます。この機動性を活かして、事業戦略の変化に合わせて組織図を柔軟に更新していく。

組織図の設計は、「人をどこに配置するか」という目先の問題ではなく、「事業を成長させるための機能をどう配置するか」という経営戦略の具体化です。経営者と人事担当者が年に1回、組織図を広げて「今の組織は事業戦略に合っているか」を話し合う。その対話の中から、次の組織の形が見えてくるはずです。

「今いる人をどこに置くか」ではなく「事業に何が必要か」から考える。この発想の転換が、東北の中小企業の組織力を高める鍵だと私は考えています。

0

経営視点で考える人事の実践力を磨きませんか?

書籍『「人事のプロ」はこう動く』著者による実践講座。現場で使える経営視点の人事力を身につけます。

関連記事

東北の中小企業が組織サーベイの結果を「施策」に変える方法——データの山を前に立ちすくまないために
組織開発

東北の中小企業が組織サーベイの結果を「施策」に変える方法——データの山を前に立ちすくまないために

組織サーベイのレポートが80ページ届きました。グラフも表もたくさんある。でも、これを見て何をすればいいのか、まったくわかりません。レポートを読むだけで半日かかって、読み終わった頃には疲れ果ててまあ、来期考えようとなってしまう

#1on1#エンゲージメント#研修
東北の製造業が「安全文化」と人材育成を結びつける方法——「安全はコスト」ではなく「安全は投資」という発想
組織開発

東北の製造業が「安全文化」と人材育成を結びつける方法——「安全はコスト」ではなく「安全は投資」という発想

安全教育は大事だとわかっているんです。でも、現場は人手不足で毎日の生産を回すのが精一杯。安全教育に時間を割く余裕がないんです

#採用#評価#組織開発
東北の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——「うちの会社はこういうものだから」を問い直す
組織開発

東北の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——「うちの会社はこういうものだから」を問い直す

うちの会社は昔からこうなんです。社長が決めて、上が言ったことに従う。意見を言っても変わらないから、みんな黙って仕事をしている。それが当たり前になっています

#採用#評価#研修
東北の企業が「心理的安全性」のある職場を作る方法——「何も言わない」は「問題がない」ではない
組織開発

東北の企業が「心理的安全性」のある職場を作る方法——「何も言わない」は「問題がない」ではない

うちの会社は平和ですよ。社員から不満の声は出ていませんし、会議でも特に反対意見は出ません

#1on1#評価#組織開発