
東北の中小企業が地域の大学と連携して新卒採用を成功させる方法——「知ってもらう」から始まる採用革命
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東北の中小企業が地域の大学と連携して新卒採用を成功させる方法——「知ってもらう」から始まる採用革命
「うちみたいな中小企業は、大学生の選択肢に入っていないんです」
岩手のある部品メーカーの人事担当者が、ため息まじりに語った言葉です。従業員80名、地元では知られた会社。でも、大学の就活ガイダンスでは、大手企業のブースに学生が集中し、自社のブースはほぼ空席だった。
この状況は、東北の中小企業の多くが共有する悩みです。そして、この悩みの根本にある問題は「自社に魅力がない」ことではなく、「自社を知ってもらう機会がない」ことなのです。
東北には、東北大学をはじめ、弘前大学、岩手大学、秋田大学、山形大学、福島大学、宮城大学、東北学院大学など、多くの大学があります。これらの大学と「連携」することで、中小企業でも新卒採用を安定させている会社が存在します。その方法は、意外とシンプルです。
なぜ大学連携が中小企業の新卒採用に効くのか
まず、大学連携がなぜ効果的なのかを整理してみましょう。
中小企業の新卒採用が難しい最大の理由は「認知度の低さ」です。東北の学生は、就活を始める段階で知っている企業の数が限られている。大手ナビサイトに登録しても、膨大な企業の中に埋もれてしまう。つまり、「知られていない」が最初のハードルなのです。
大学連携は、このハードルを低コストで越える手段です。なぜなら、大学のキャリアセンターや教授は、学生にとって「信頼できる情報源」だから。ナビサイトの広告よりも、キャリアセンターのスタッフが「この会社、面白いから見てごらん」と言う一言の方が、学生を動かす力は大きい。
また、大学連携はミスマッチを減らす効果もあります。インターンシップや共同プロジェクトを通じて、学生と企業の双方が事前にお互いを知ることができる。「入社してみたら想像と違った」という理由での早期離職を防ぐ効果は、数字にも表れます。
ある山形の食品メーカーでは、大学連携を始める前の新卒3年以内離職率が40%だったのが、連携を始めてインターンシップ経由の採用に切り替えたところ、離職率が10%に下がりました。1名の早期離職コストが150〜200万円と考えると、この改善がもたらす経営インパクトは非常に大きい。
大学連携の第一歩——キャリアセンターとの関係構築
大学連携を始めるにあたって、最初にやるべきことは「キャリアセンターへの訪問」です。
東北の大学のキャリアセンターは、地元企業との連携に前向きなところが多い。なぜなら、キャリアセンターにとっても「学生の地元就職率を上げる」ことは重要な指標だから。つまり、中小企業が「地元で活躍できる人材を求めている」とアプローチすれば、利害が一致するのです。
ただし、訪問のタイミングと内容が重要です。
よくある失敗は、3月の採用シーズンになってから突然キャリアセンターに求人票を持ち込むこと。キャリアセンターのスタッフは、その時期はすでに多忙を極めている。新しい企業の話をじっくり聞く余裕はありません。
効果的なのは、採用シーズンの半年前——つまり前年の9〜10月頃に訪問すること。この時期に「来年の採用に向けて、大学との連携を考えています」と相談すれば、キャリアセンターも時間を取って話を聞いてくれます。
訪問の際に持参するのは、求人票だけではなく「会社のストーリー」です。「創業の経緯」「事業の強み」「社員の成長事例」「地域への貢献」——こうした情報をA4一枚にまとめた資料を持っていくと、キャリアセンターのスタッフが学生に説明しやすくなります。
秋田のある精密機器メーカーは、キャリアセンターに「会社紹介シート」を置いてもらっています。そのシートには、「当社は秋田に本社を置く社員60名の精密機器メーカーです。世界3カ国に製品を輸出し、国内シェアは業界5位。入社3年目の社員が主力製品の改良プロジェクトをリードしています」と書いてある。この一枚のシートを見た学生が「面白そう」と思って応募してくる。年間2〜3名の新卒採用の半分以上が、このルートから来ているそうです。
インターンシップは「体験」ではなく「仕事の本気度」を見せる
大学連携の中で最も強力な採用チャネルが、インターンシップです。ただし、インターンシップの設計によって効果は天と地ほど違います。
東北の中小企業でよく見る失敗パターンは、「会社見学+簡単な作業体験」で終わるインターンシップです。学生が1〜2日来て、工場を見学して、ちょっとした作業を体験して、お土産をもらって帰る。学生の感想は「楽しかった」で終わり、入社意欲にはつながらない。
成功しているインターンシップには、「本気度」があります。
宮城のある建設会社は、5日間のインターンシップを設計しています。1日目は会社説明と現場見学。2〜3日目は、実際の現場で施工管理のアシスタント業務を体験。4日目は、その現場の「改善提案」をグループワークで考える。5日目は、社長の前で改善提案をプレゼンテーションする。
このインターンシップの特徴は、「本物の仕事」に触れさせていること。お客様遊びではなく、実際の現場で実際の課題に取り組む。学生は「自分がこの会社で働いたらどうなるか」を具体的にイメージできる。
さらに、5日目のプレゼンテーションを社長が聞くことで、「この会社は学生の意見を真剣に聞いてくれる」という印象を与えている。実際、学生の提案がそのまま採用されたケースもあるそうです。
この建設会社では、インターンシップ参加者の約40%がその後に応募してくる。そして、入社者の3年以内離職率はゼロ。「インターンで会社のリアルを見ているから、ギャップがない」というのが離職率の低さの理由です。
ゼミ・研究室との連携——教授との信頼関係が鍵
キャリアセンター以上に強力な採用チャネルが、個別のゼミや研究室との連携です。
教授は学生一人ひとりの特性を理解している。だから、「この学生は御社に合うと思います」という教授の推薦は、非常に精度が高い。しかも、教授の推薦を受けた学生は、「先生が勧めてくれるなら」という安心感から、中小企業にも前向きに応募してくれます。
教授との関係構築は、すぐにはできません。最低でも1〜2年はかかる。でも、一度築いた関係は5年、10年と続く。
福島のある化学メーカーは、福島大学の工学部の特定のゼミと10年以上の関係を持っています。きっかけは、社長が大学の公開セミナーで教授と知り合ったこと。その後、工場見学の受け入れ、学生の卒業論文への技術データの提供、教授を招いた社内勉強会の開催——こうした交流を重ねる中で、「この会社は技術に真剣に向き合っている」という信頼が教授の中に生まれた。
今では、そのゼミから毎年1〜2名の就職希望者が出ている。しかも、化学の専門知識を持った学生が来るので、入社後の戦力化が早い。教育コストの削減効果を含めると、年間で数百万円の価値があると社長は語っています。
ゼミ連携のポイントは、「採用のため」という下心を前面に出さないことです。まずは学術的な貢献——データの提供、工場見学の受け入れ、ゲスト講義——を通じて、教授と学生に「この会社の技術は面白い」と感じてもらう。採用は、その結果として自然についてくるものです。
産学共同プロジェクトで「課題解決力のある人材」を見極める
もう一歩進んだ大学連携として、「産学共同プロジェクト」があります。企業が抱える実際の課題を、大学の研究室やゼミと共同で解決するプロジェクトです。
これは採用の観点から見ると、「仕事に近い環境で学生の力を見極められる」という大きなメリットがあります。面接やグループディスカッションでは見えない「本当の仕事力」——課題の発見力、論理的思考力、チームワーク、粘り強さ——を、数ヶ月のプロジェクトを通じて観察できる。
山形のある精密機器メーカーは、山形大学の工学部と「地域企業のIoT導入に関する実証実験」という共同プロジェクトを立ち上げました。テーマは、自社工場の生産ラインにセンサーを設置し、稼働データを収集・分析して改善提案を行うこと。
このプロジェクトに参加した大学院生4名のうち2名が、プロジェクト終了後に同社に入社しています。「プロジェクトを通じて、この会社の技術レベルの高さと、改善に対する真剣さを実感した。ここで働きたいと思った」という入社理由は、求人広告からは決して生まれない、本物の動機です。
共同プロジェクトは、大学にとっても「実社会の課題に取り組む教育機会」として価値があります。つまり、企業と大学の双方にメリットがある。この「Win-Win」の構造が、持続的な連携の基盤になるのです。
大学連携の効果を「経営数字」で可視化する
大学連携は、効果が出るまでに時間がかかります。1年目で目に見える成果が出ないことも珍しくない。だからこそ、連携の進捗と効果を「数字」で経営に報告することが重要です。
報告すべき数字は、大きく3つあります。
第一に、「パイプラインの数字」。キャリアセンターとの面談回数、インターンシップへの応募者数、参加者数、参加後のエントリー率——こうした数字を追うことで、連携の広がりを可視化できます。
第二に、「採用の質の数字」。大学連携経由の採用者と、一般ルートの採用者を比較して、内定承諾率、入社後の離職率、配属後の評価——こうした差分を示す。
第三に、「コストの数字」。大学連携にかかる年間コスト(キャリアセンターへの訪問、インターンシップの運営費、共同プロジェクトの費用など)と、大手ナビサイトへの掲載費や人材紹介手数料を比較する。
岩手のある部品メーカーでは、大学連携経由の新卒採用1名あたりのコストが約30万円。一方、ナビサイト経由では約80万円、人材紹介経由では約120万円。しかも、大学連携経由の社員は3年以内離職率が15%(全体平均は35%)と大幅に低い。
この数字を経営者に見せたところ、「大学連携にもっと時間と予算を使ってくれ」という判断が即座に下りたそうです。数字は経営者の第一言語。人事がその言葉で話せるようになると、意思決定のスピードが変わります。
中長期的な視点——「地域に人材を還流させる」という発想
大学連携の価値は、自社の採用だけに留まりません。東北の大学で学んだ若者が東北の企業に就職し、地域に根を下ろす——この「人材の地域還流」は、東北経済全体にとっての重要なテーマです。
現状では、東北の大学を卒業した学生の多くが首都圏に流出しています。東北大学でさえ、卒業生の地元就職率は決して高くない。これは個々の企業の努力だけでは解決できない構造的な問題です。
しかし、東北の中小企業が大学との連携を深め、「東北で働くことの価値」を学生に伝え続けることが、少しずつでもこの流れを変えることにつながると私は考えています。
大学連携は、「自社の採用を改善するための戦術」であると同時に、「地域の未来に投資する戦略」でもある。この二重の意味を理解している経営者は、短期的な成果にとらわれず、10年スパンで大学との関係を育てています。
東北の中小企業と大学が手を組むことで、学生は「東北でも面白い仕事がある」と気づき、企業は「地域の大学には優秀な人材がいる」と気づく。この相互発見が、新卒採用の風景を変えていく。
地道な活動です。華やかさはありません。でも、東北の中小企業の採用を根本から変える力を持っている取り組みだと、私は確信しています。
まず明日からできる3つのこと
最後に、大学連携を始めたいと思った方に、明日からできる3つのステップをお伝えします。
第一歩は、近くの大学のキャリアセンターに電話すること。「来年の新卒採用に向けて、連携の可能性を相談したい」と伝えるだけでいい。多くのキャリアセンターは、地元企業からのアプローチを歓迎してくれます。
第二歩は、自社の「会社紹介シート」をA4一枚で作ること。事業内容、強み、若手社員の活躍事例、入社後の成長モデル——これを簡潔にまとめる。キャリアセンターの担当者が学生に渡しやすい形にしておく。
第三歩は、インターンシップの企画を練ること。最初は1日でも構いません。「自社の仕事のリアル」を学生に体験してもらうプログラムを作る。座学だけでなく、現場を見せ、社員と話す時間を設ける。
この3つを今年中に実行すれば、来年の新卒採用は確実に変わります。
東北の中小企業の採用力は、地域の大学と手を組むことで、大きく伸びる余地がある。その可能性を、ぜひ試してみてください。
もし「大学連携を含め、戦略的な採用力を身につけたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。経営と採用をつなぐ実践的な力が身につくプログラムです。
また、東北で新卒採用に取り組む仲間と情報交換したい方は、人事図書館へ。
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