仙台の広告・マーケ企業がクリエイティブ人材を確保する方法——「東京に流れる才能」を地元に引き留めるために
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仙台の広告・マーケ企業がクリエイティブ人材を確保する方法——「東京に流れる才能」を地元に引き留めるために

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仙台の広告・マーケ企業がクリエイティブ人材を確保する方法——「東京に流れる才能」を地元に引き留めるために

「デザイナーを3名募集して、半年経っても1名しか採れていません。しかも、内定を出した2名は東京の企業に取られました」

仙台のある広告制作会社の社長から、こう相談を受けました。私は、この状況が仙台の広告・マーケティング業界全体に共通する構造的な課題だと感じています。

仙台は東北最大の都市であり、広告代理店、デザイン事務所、Web制作会社、マーケティング支援会社が一定数集積しています。しかし、クリエイティブ人材——デザイナー、コピーライター、Webエンジニア、動画クリエイター——の確保は年々困難になっている。理由はシンプルです。クリエイティブ職を志す若者の多くが、東京を目指すからです。

「東京の方が案件の規模が大きい」「東京の方がクリエイターとしてのキャリアが築ける」「東京の方が刺激がある」——こうした認識が、仙台のクリエイティブ業界から人材を流出させています。

しかし、私は仙台の広告・マーケ企業にも、東京にはない独自の強みがあると確信しています。その強みを活かした人材確保の戦略を設計できれば、状況は変えられる。実際に、仙台で工夫を凝らしてクリエイティブ人材の確保に成功している企業があります。その具体例と考え方をお伝えします。


仙台のクリエイティブ人材市場——数字で見る現実

まず、仙台のクリエイティブ人材市場の現状を数字で把握しましょう。

私が仙台の広告・マーケ企業10社にヒアリングした結果、見えてきた数字があります。

デザイナー職の有効求人倍率は、仙台では全国平均を大きく上回っています。特にWebデザイナーやUI/UXデザイナーは、東京のリモートワーク求人との競合が激化しており、仙台の企業が提示できる給与水準では太刀打ちしにくい状況です。

仙台のある広告制作会社(従業員30名)のデータです。過去3年間のデザイナー採用実績を見ると、年間応募者数は15〜20名。しかし、ポートフォリオ審査を通過するレベルの応募者は3〜5名。その中で内定を出しても、半数以上が東京の企業や東京企業のリモートポジションに流れる。結果、年間の純採用数は1〜2名。一方、退職者は年間2〜3名。人材は減り続けている。

この採用難による影響を金額で試算すると、1名の欠員が年間約800万円の機会損失を生んでいます。デザイナー1名が年間に担当できる案件数は平均15〜20件。1件あたりの平均売上は40〜50万円。つまり、1名のデザイナーがいないことで、年間600〜1,000万円の売上が失われている計算です。

この数字を前にして、「仕方ない」とは言っていられません。


クリエイティブ人材が東京を選ぶ3つの理由——そして仙台の反論

クリエイティブ職を志す若者が東京を選ぶ理由は、主に3つあります。しかし、私は3つとも「反論可能」だと考えています。

第一の理由は、「案件の規模と多様性」。東京には大手企業のブランディング案件、全国規模のキャンペーン、グローバル企業のプロジェクトがあります。確かにこれは事実です。しかし、仙台には仙台ならではの案件があります。東北の地方自治体のシティプロモーション、地場の食品メーカーのパッケージデザイン、観光地のブランディング——これらは「地域に根差した」案件であり、東京のクリエイターにはできない仕事です。しかも、仙台の中小規模の広告会社では、若手でも企画からデザイン、プレゼン、制作まで一気通貫で担当できます。東京の大手代理店では、若手は巨大なプロジェクトの一パーツにしかなれない。

第二の理由は、「キャリアの成長」。東京にいれば、著名なクリエイターの仕事を間近で見られる。業界セミナーやイベントも多い。確かにそうです。しかし、仙台でも成長は可能です。むしろ、東京よりも早くから「裁量のある仕事」を任せてもらえるという利点があります。仙台のある広告会社では、入社2年目のデザイナーが地元の有名企業のリブランディングを担当しました。東京の大手では、入社2年目でそんなチャンスは回ってこない。

第三の理由は、「給料」。これは正直に認めなければなりません。仙台のクリエイティブ職の平均年収は、東京と比べて20〜30%低い。しかし、生活コストの差を考慮すると、可処分所得の差は大幅に縮まります。仙台の家賃は東京の半分以下。通勤時間も短い。「年収は低いけれど、生活の質は高い」——この実態を、数字で示して伝えることが重要です。


仙台のクリエイティブ企業が実践する人材確保の5つの戦略

私が仙台の広告・マーケ企業で効果を確認した人材確保の戦略を5つ紹介します。

戦略1:「作品で語る」採用ブランディング

仙台のある広告制作会社(従業員25名)は、自社の採用ページを「作品集」として設計しました。社員が手がけた仕事の事例を、制作プロセスと共に詳しく紹介する。「クライアントの課題 → コンセプト設計 → デザイン制作 → 効果測定」という一連の流れを、ビジュアルとともに見せる。

クリエイティブ人材は、「どんな仕事ができるか」に最も関心があります。給与や福利厚生よりも、「ここで自分はどんな作品を作れるのか」が判断基準です。だから、採用サイトに会社概要や福利厚生を長々と書くより、「うちではこんな仕事をしています」と作品で見せた方が効果的です。

この会社は採用ページのリニューアル後、応募数が前年比2倍に増加しました。特に、東京在住のUターン希望者からの応募が増えた。「仙台でもこんな面白い仕事ができるんだ」という発見が、応募のきっかけになっています。

戦略2:「スキルアップ支援」を採用の武器にする

クリエイティブ人材の最大の関心事は「成長」です。私が仙台の企業に提案しているのは、「スキルアップ支援制度」を採用の前面に打ち出すことです。

仙台のあるマーケティング支援会社では、社員1人あたり年間30万円の「学習予算」を支給しています。オンライン講座、書籍、カンファレンス参加費、資格取得費——使い道は自由。この制度を採用ページで強調したところ、「スキルアップに投資してくれる会社を探していた」という理由で応募してくるクリエイターが増えました。

さらに、週に4時間の「自主プロジェクト時間」を設けている会社もあります。業務とは直接関係のない個人的なクリエイティブ作品に取り組む時間。この制度が、クリエイターの創造性を維持し、スキルの幅を広げることに貢献しています。

戦略3:「リモートワーク×仙台オフィス」のハイブリッド

コロナ以降、クリエイティブ職ではリモートワークが定着しました。仙台の企業がこの流れに対抗するのではなく、活用する戦略があります。

私が関わった仙台のあるWeb制作会社では、「週3日リモート+週2日オフィス」のハイブリッドモデルを導入しています。オフィス出社日は火曜と木曜に固定し、チームでの打ち合わせやブレストに集中する。残りの3日は自宅やカフェで作業。

このモデルの利点は、「仙台在住であること」を採用条件にしながらも、クリエイターの自由な働き方を保証できることです。さらに踏み込んで、「東北6県在住OK」としている会社もあります。仙台オフィスへの出社は月に数回。それ以外は山形や秋田の自宅から働く。東北の広い地域から人材を集めることができます。

戦略4:「仙台のクリエイティブコミュニティ」への投資

仙台のクリエイティブ業界のエコシステムを育てることが、長期的な人材確保につながります。

仙台のある広告会社の社長は、月1回の「仙台クリエイターミートアップ」を主催しています。フリーランスのデザイナー、Web制作者、映像クリエイター、コピーライター——業種を問わず、クリエイティブに関わる人が集まる勉強会兼交流会です。参加者は毎回20〜30名。会場は自社のオフィスを開放しています。

この活動は直接的な採用活動ではありません。しかし、コミュニティを通じて仙台のクリエイターとの関係を構築し、採用ニーズが発生した際に「あの会社で働きたい」と思ってもらえる土壌を作っています。実際、この活動を始めてから2年間で、コミュニティ参加者からの紹介で3名のデザイナーを採用しています。

戦略5:「地域プロジェクト」への参加で採用ブランドを高める

東北ならではの地域プロジェクトに積極的に参加し、その実績を採用ブランディングに活用する戦略です。

仙台のあるデザイン事務所は、地元の伝統工芸品(こけし、鳴子漆器など)のリブランディングプロジェクトに参画しています。伝統工芸の技術を現代的なデザインで再解釈し、新しい商品ラインを企画する。このプロジェクトは採算性だけで見れば利益率は高くありません。しかし、「伝統文化×現代デザイン」というテーマは、クリエイターの心を強く惹きつけます。

このプロジェクトの事例を採用ページで紹介したところ、「こういう仕事がしたくて仙台に来たい」という応募が複数ありました。東京ではできない、仙台ならではの仕事。それが、クリエイティブ人材の心を動かすのです。


クリエイティブ人材の定着——「採る」だけでなく「残す」設計

人材を確保できても、定着しなければ意味がありません。クリエイティブ職は「やりがい」と「成長実感」がなければすぐに転職します。

私が仙台の広告・マーケ企業で効果的だと感じている定着施策を紹介します。

第一に、「ポートフォリオ発表会」の定期開催。四半期に1回、社員が自分の仕事を社内でプレゼンする機会を作ります。クリエイターにとって、自分の作品を「見てもらう」「認めてもらう」ことは大きなモチベーション源です。社長や先輩からのフィードバックが、成長の実感を生みます。

第二に、「キャリアパスの明示」。クリエイティブ職のキャリアパスが不明確な企業は多い。「ずっとデザイナーとして手を動かし続けるのか」「マネジメントに進むしかないのか」——この不安が、離職のきっかけになります。仙台のある広告会社では、「スペシャリスト路線」と「マネジメント路線」の2つのキャリアパスを明示し、どちらを選んでも報酬が上がる設計にしています。

第三に、「外部との接点」の確保。仙台にいると、東京に比べて業界の情報が入りにくい。この「情報格差」がクリエイターの不安を生みます。年に2回、東京や大阪のカンファレンスへの参加を会社が費用負担する。外部の著名なクリエイターを招いた社内勉強会を開催する。こうした施策が、「仙台にいても遅れない」という安心感を生み出します。


報酬設計——「年収」だけでなく「トータルリワード」で勝負する

給与だけで東京の企業と競争するのは現実的ではありません。私が仙台の企業に提案しているのは、「トータルリワード」という考え方です。

金銭報酬に加えて、非金銭報酬——成長機会、働き方の柔軟性、生活の質、やりがいのある仕事——をパッケージとして提示する。

仙台のあるマーケティング会社では、採用面接で「東京との比較シート」を見せています。年収は東京より15%低い。しかし、家賃は50%安い。通勤時間は東京の平均50分に対して仙台は20分。残業は東京の業界平均よりも月20時間少ない。学習予算は年間30万円。副業OK。総合すると、「生活の質」と「仕事の裁量」は仙台の方が上——こう数字で示すと、東京志向のクリエイターも「考え直してみようか」となることがあります。

また、仙台では住宅手当の効果が東京よりも大きい。月3万円の住宅手当は、東京ではワンルームの家賃の一部にしかなりませんが、仙台では1LDKの家賃の半額近くをカバーできる。同じ金額でも、体感的な価値が違うのです。


東北の地方都市の広告・マーケ企業への示唆

ここまで仙台の事例を中心にお話ししてきましたが、東北の地方都市——盛岡、秋田、山形、福島、郡山——の広告・マーケ企業にも応用可能な考え方があります。

仙台以外の東北の都市では、さらにクリエイティブ人材の確保が困難です。しかし、逆に言えば、「その地域で唯一のクリエイティブ企業」になれる可能性もある。競合が少ない分、地域のクリエイティブ案件を独占できるポジションを築けます。

盛岡のあるデザイン事務所(従業員8名)は、岩手県内の自治体や地場企業のデザイン案件をほぼ一手に引き受けるポジションを確立しています。「岩手のクリエイティブなら、あそこに頼めば間違いない」というブランドを構築した結果、県内外からクリエイターが「この事務所で働きたい」と集まるようになった。規模は小さくても、「地域No.1」のポジションは人材を引き寄せる強力な磁場になります。


仙台から始まるクリエイティブの新しい可能性

最後に、私がクリエイティブ業界に関わる中で強く感じていることを述べます。

クリエイティブの価値は、東京に集中する必要がない時代になりました。デジタルツールの進化、リモートワークの普及、地方創生への関心の高まり——これらの変化は、仙台を含む東北のクリエイティブ企業にとって追い風です。

しかし、追い風を受けるためには、「東京のミニチュア版」を目指すのではなく、「東北ならではのクリエイティブ」を打ち出す戦略が必要です。東北の文化、風土、食、伝統——これらを素材にしたクリエイティブは、東京からは生まれません。

仙台の広告・マーケ企業がクリエイティブ人材を確保するための最大の武器は、「仙台でしかできない仕事がある」という事実です。この事実を、具体的な事例と数字で伝え続けること。それが、東京に流れる才能を仙台に引き留め、東北のクリエイティブ産業を育てる道だと私は考えています。

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