
東北の企業がリーダーシップ開発を「研修頼み」にしない方法——日常の仕事の中でリーダーを育てる仕組み
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東北の企業がリーダーシップ開発を「研修頼み」にしない方法——日常の仕事の中でリーダーを育てる仕組み
「管理職研修に毎年100万円かけています。でも、研修を受けた課長たちの行動が変わったかと聞かれると、正直よくわかりません」
福島のある製造業の人事部長から受けた相談です。私はこの言葉を聞いて、東北の多くの企業が抱えている「リーダーシップ開発のジレンマ」を感じました。
リーダーシップ研修は、東北の企業にも広がっています。外部の研修会社が提供する管理職向けプログラム、仙台や東京で開催されるセミナー、オンラインの管理職研修——投資額も年々増えている。しかし、「研修で学んだことが現場で実践されているか」と問えば、首をかしげる経営者が大半です。
なぜ研修だけではリーダーシップが育たないのか。私はその原因を、「研修で学ぶ知識」と「現場で発揮するリーダーシップ」の間にある大きなギャップに見ています。
研修で「傾聴が大事です」と学んでも、翌日の現場で納期に追われながら部下の話を聴く余裕がなければ、学びは活かされません。「ビジョンを語りましょう」と教わっても、自分自身がビジョンを持てていなければ、語る言葉がありません。
リーダーシップは、教室で学ぶものではなく、仕事の中で育てるもの。私がこれまで東北の企業で実践してきた「研修に頼らないリーダーシップ開発」の方法をお伝えします。
東北の企業がリーダーを育てられない構造的理由
東北の中小企業でリーダーシップ開発が進まない理由は、研修の質だけの問題ではありません。構造的な原因があります。
第一に、「プレイングマネージャー問題」。東北の中小企業の管理職の多くは、マネジメントだけでなくプレイヤーとしての業務も担っています。営業課長が自らトップ営業をしている。工場長が自ら機械を操作している。「マネジメントに専念する余裕がない」のが実態です。リーダーシップを発揮する時間と心の余裕がそもそもない。
第二に、「ロールモデルの不在」。東北の中小企業では、「優れたリーダー」の手本を身近に見る機会が少ない。社長がワンマンで動いている会社では、「リーダーシップ=社長のようにすること」になりがちですが、社長のスタイルは必ずしも再現性がない。
第三に、「失敗を許容しない文化」。リーダーシップは試行錯誤の中で育ちます。しかし、人手不足で余裕がない東北の中小企業では、管理職の「実験的な取り組み」を許容する余裕がない。「失敗したらどうする」というプレッシャーが、挑戦を阻んでいます。
これらの構造的原因を踏まえた上で、「日常の仕事の中でリーダーを育てる」具体的な方法を見ていきましょう。
リーダーシップ開発の新しいアプローチ——「70:20:10の法則」
リーダーシップ開発の世界で広く知られている「70:20:10の法則」があります。人の成長の70%は「仕事上の経験」から、20%は「他者からの学び(フィードバック、メンタリングなど)」から、10%は「研修や読書などの座学」から得られる——という考え方です。
つまり、研修(10%)だけに投資しても、リーダーシップの成長の大部分には手が届かない。70%を占める「仕事上の経験」をどう設計するかが、リーダーシップ開発の本丸なのです。
私が東北の企業に提案しているリーダーシップ開発は、この法則に基づいて「経験70%」「他者からの学び20%」「座学10%」のバランスで設計します。
「経験」でリーダーを育てる——5つの「修羅場経験」
リーダーシップを育てる「仕事上の経験」には、特に効果的な種類があります。私はこれを「修羅場経験」と呼んでいます。日常業務では得られない、一段高いレベルの判断と行動を求められる経験です。
私が東北の企業で効果的だと感じている「修羅場経験」を5つ紹介します。
第一に、「新規プロジェクトのリード」。既存業務ではなく、新しい取り組みを任せる。仙台のある建設会社では、30代の中堅社員に「新規顧客開拓プロジェクト」のリーダーを任せました。メンバー3名、期間6か月、目標は新規顧客5社の獲得。初めてチームを率い、自分で計画を立て、進捗を管理し、メンバーのモチベーションを維持する——この経験が、1年間の管理職研修よりもリーダーシップを伸ばしました。
第二に、「部署横断タスクフォース」。自部署以外のメンバーと協力して課題を解決する経験。自部署では通用する「上下関係」がない場では、リーダーシップの本質——「人を動かす力」が試されます。
山形のある食品メーカーでは、品質改善タスクフォースに各部署の若手リーダーを参加させています。製造、品管、営業、物流——異なる視点を持つメンバーの意見をまとめ、合意形成を行う経験が、リーダーシップの成長を加速させています。
第三に、「トラブル対応の指揮」。クレーム対応、設備トラブル、納期遅延——こうした「想定外の事態」への対応を任せる。秋田のある機械メーカーでは、課長候補の社員に「トラブル対応の一次判断」の権限を与えています。「まず自分で判断し、対応を開始してから上に報告する」というルール。この経験を通じて、「自分で決める力」が鍛えられます。
第四に、「社外への発信」。業界の勉強会での発表、取引先へのプレゼン、採用イベントでの会社説明——社外に向けて「自社を語る」経験が、リーダーとしての視座を高めます。自社を外部に説明するためには、会社の事業戦略や強みを理解しなければならない。この過程で、経営者の視点が養われます。
第五に、「後輩の育成責任」。新入社員のメンターやOJTリーダーを担当させる。「人を育てる」経験は、リーダーシップの根幹です。岩手のある商社では、入社3年目の社員に「新入社員の6か月間のOJTリーダー」を任せています。「教えることで自分が学ぶ」体験が、リーダーとしての成長を促しています。
「他者からの学び」でリーダーを育てる——メンタリングと1on1
「70:20:10」の20%にあたる「他者からの学び」。私が東北の企業に推奨しているのは、「メンタリング制度」と「1on1ミーティング」の2つです。
メンタリング制度は、リーダー候補に対して、自部署とは異なる部署の上級管理職がメンターとなり、月1回の対話を行うものです。直属の上司には話しにくい悩み——「マネジメントの方法がわからない」「部下との関係に困っている」「自分がリーダーに向いているか自信がない」——を、メンターに相談できます。
宮城のある物流会社では、課長候補6名にそれぞれメンター(部長クラス)をつけ、月1回1時間のメンタリングを実施しています。1年間の実施後、課長候補全員が「メンタリングがなければ、管理職になることに不安しかなかった。メンターとの対話で、自分なりのリーダー像が見えてきた」と回答しました。
1on1ミーティングは、直属の上司と部下の間で行う定期的な対話です。リーダーシップ開発の文脈では、上司が部下に「フィードバック」を提供する場として特に重要です。「先週のプレゼン、結論が先に来ていて分かりやすかった」「チーム会議での発言がもう少しあるといい」——具体的なフィードバックが、リーダーとしての行動を少しずつ改善していきます。
「座学」の効果的な活用——研修を「無駄」にしないために
「70:20:10」の10%にあたる座学。研修が無駄だと言いたいのではありません。研修を効果的に活用するための設計が重要なのです。
私が東北の企業に提案している研修設計のポイントは3つです。
第一に、「経験の前後に研修を配置する」。新規プロジェクトを任せる前に「プロジェクトマネジメントの基礎」を学ぶ。プロジェクト完了後に「振り返りワークショップ」で経験を言語化する。経験を挟む形で研修を配置することで、座学の吸収率が格段に上がります。
第二に、「自社の課題を題材にする」。一般的なケーススタディではなく、自社が実際に直面している課題を研修の題材にする。「来期の売上目標を達成するために、あなたのチームで何をするか」——こうしたテーマで議論すれば、研修の学びがそのまま業務に直結します。
第三に、「研修後のアクションプラン」。研修の最後に必ず「明日から実行するアクション」を3つ書かせる。2週間後にフォローアップの場を設け、「アクションを実行したか、その結果はどうだったか」を共有する。このフォローアップがなければ、研修で学んだことは2週間で95%忘却されます。
福島のある電機メーカーでは、管理職研修を「座学2日間 + 現場実践3か月 + 振り返りワークショップ1日」の半年プログラムに変更しました。以前の「座学2日間で完結」の研修と比べて、行動変容の実感がある管理職の割合が20%から75%に上昇しました。
リーダーシップ開発の効果測定
リーダーシップ開発への投資効果をどう測るか。私が東北の企業に提案している指標を紹介します。
定量指標としては、「管理職候補の内部昇格率」「管理職のチームの業績」「管理職のチームの離職率」「エンゲージメントサーベイにおける『上司への信頼』スコア」の4つを追います。
定性指標としては、「管理職本人の自己評価」「部下からの360度フィードバック」「経営者の観察所見」を収集します。
青森のある建材メーカー(従業員70名)では、リーダーシップ開発プログラムを導入して2年後に効果を測定しました。管理職候補からの内部昇格率が40%から70%に向上。管理職のチームの平均離職率が15%から8%に低下。エンゲージメントサーベイの「上司への信頼」スコアが全社で18ポイント上昇。
これらの数字を経営者に示したとき、「リーダーシップ開発は、研修費を削るための施策ではなく、組織の体力を高める投資だったんだな」と理解してもらえました。
東北企業ならではのリーダーシップのあり方
最後に、東北の企業に特有のリーダーシップのあり方について、私の考えを述べます。
東北のリーダーシップは、カリスマ型の強いリーダーシップとは異なるスタイルが合うと感じています。「俺についてこい」よりも、「一緒にやろう」。「指示を出す」よりも、「背中を見せる」。東北の人の控えめで真面目な気質に合ったリーダーシップスタイルがあります。
盛岡のある製造業の工場長は、普段は寡黙で、華やかなスピーチをするタイプではありません。しかし、トラブルが起きると最初に現場に駆けつけ、自ら作業着を着て問題解決に取り組む。部下から「あの人のためなら頑張れる」と慕われている。これは、東北の文化に根差した「行動で示すリーダーシップ」です。
研修で教わる「理想のリーダー像」を目指す必要はありません。東北の風土の中で、自分なりのリーダーシップを見つけ、磨いていく。そのための「経験」と「対話」の機会を会社が用意する。それが、東北の企業に合ったリーダーシップ開発の本質だと私は考えています。
研修に頼りすぎず、日常の仕事の中でリーダーを育てる。この発想の転換が、東北の企業の組織力を底上げする鍵になるはずです。
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