
東北の企業が管理職の「プレイングマネージャー問題」を解消する方法——「自分でやった方が早い」の罠から抜け出すために
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東北の企業が管理職の「プレイングマネージャー問題」を解消する方法——「自分でやった方が早い」の罠から抜け出すために
「うちの課長は、自分がトップ営業なんです。成績は常にチームで1位。でも、部下の育成は全然できていない。課長が走り回っている間、部下は放置されている。部下が辞めると、さらに課長の負担が増える。悪循環です」
山形のある商社の社長から受けた相談です。私はこの話を聞いて、「東北の中小企業の管理職問題の典型例だ」と感じました。
東北の中小企業では、管理職の大半が「プレイングマネージャー」です。自分もプレイヤーとして第一線で仕事をしながら、チームのマネジメントも担う。営業課長が自らトップの売上を上げながら部下を管理する。工場長が自ら現場で作業しながら生産管理を行う。
なぜプレイングマネージャーが多いのか。理由はシンプルです。人が足りないからです。マネジメントだけに専念できるほどの人員余裕がない。管理職がプレイヤーを兼ねざるを得ない。
しかし、このプレイングマネージャー体制が長期化すると、深刻な問題が生じます。管理職が疲弊する。部下が育たない。組織の成長が管理職の個人力に依存する。管理職が倒れた瞬間に、チーム全体が機能停止する。
私がこれまで東北の企業でこの問題に取り組んできた経験から、「完全にプレイヤーをやめろ」ではなく、「プレイングの比率を段階的に下げる」実践的なアプローチをお伝えします。
プレイングマネージャー問題の経営的損失
まず、プレイングマネージャー問題がどれだけの経営的損失を生んでいるか、数字で見てみましょう。
私が仙台のあるIT企業(従業員50名)で分析したケースです。営業部の課長(40代)が典型的なプレイングマネージャーでした。
課長の業務時間の内訳を1か月間記録してもらったところ、プレイヤー業務(自分の営業活動)が70%、マネジメント業務(部下の指導・育成・評価・チーム運営)が20%、管理業務(報告書・会議・事務作業)が10%でした。
この課長のチーム(5名)の状況です。課長の個人売上は年間4,000万円でチームトップ。しかし、部下4名の平均売上は年間1,500万円。チーム全体の売上は1億円。
仮に、課長がマネジメントに時間を割き、部下の育成に注力した場合のシミュレーションです。課長の個人売上が70%に低下(2,800万円)する代わりに、部下の平均売上が30%向上(1,950万円)したとする。チーム全体の売上は2,800万円 + 1,950万円 × 4名 = 1億600万円。現状より600万円の増加です。
つまり、課長が「自分で売る」のをやめてマネジメントにシフトした方が、チーム全体の成果は上がる可能性がある。「自分でやった方が早い」は、短期的には正しくても、長期的には組織のパフォーマンスを下げているのです。
「自分でやった方が早い」の罠——3つの構造的要因
なぜ管理職は「自分でやった方が早い」から抜け出せないのか。私が見てきた3つの構造的要因があります。
第一に、「プレイヤーとしての成功体験」。管理職になった人は、プレイヤーとして優秀だったから昇進した人がほとんどです。自分の腕に自信がある。部下がもたもたしている横で、「自分ならもっとうまくやれる」と感じる。そして、つい手を出してしまう。
秋田のある建設会社の工場長は、元々は最も腕の良い溶接工でした。工場長になっても、難しい溶接案件は自分で引き受ける。「部下に任せると品質が心配だから」と言う。しかし、工場長が溶接台に立っている間、生産計画の見直しや人員配置の最適化は後回しになる。
第二に、「マネジメントの成果が見えにくい」。自分で営業して契約を取れば、成果は即座に数字で見える。しかし、部下を育てた成果は、半年後、1年後にしか見えない。目の前の「やった感」が得られるプレイヤー業務に時間を使いがちです。
第三に、「会社の評価がプレイヤーとしての成果に偏っている」。管理職を「プレイヤーとしての売上」で評価し、「マネジメントの質」では評価しない。そうなると、管理職は当然プレイヤー業務を優先します。「部下を育てるより、自分で売る方が評価される」のであれば、マネジメントに時間を使う動機がありません。
プレイングの比率を段階的に下げる——「70:30」から「30:70」への移行
私が東北の企業に提案しているのは、プレイングマネージャーを「いきなりマネジメント専任にする」のではなく、「プレイング比率を段階的に下げる」アプローチです。
現状のプレイング比率が70:30(プレイヤー70%:マネジメント30%)であれば、以下のステップで移行します。
ステップ1(1〜3か月目):比率を60:40に。管理職の業務から「自分しかできない仕事」と「部下に任せられる仕事」を仕分ける。部下に任せられる仕事を1つずつ移管し始める。
ステップ2(4〜6か月目):比率を50:50に。週のスケジュールに「マネジメント専用時間」を確保する。毎週水曜の午前は「部下との1on1とチーム会議」に固定する、など。
ステップ3(7〜12か月目):比率を30:70に。管理職はプレイヤー業務を「自分にしかできない高難度案件」に限定し、日常業務は部下に完全移管。空いた時間をマネジメントと戦略的思考に充てる。
仙台のある広告代理店で、このステップを営業課長に適用しました。課長は最初、「部下に任せたら売上が落ちる」と不安を示しました。しかし、1年後の結果は、課長の個人売上は30%減少しましたが、チーム全体の売上は15%増加。「自分が手を離した方がチームは成長する」という事実を体感して初めて、課長の意識が変わりました。
「任せる」スキルを育てる——権限委譲の具体的方法
プレイングの比率を下げるためには、管理職に「任せる」スキルを身につけてもらう必要があります。
私が東北の企業の管理職に教えている「任せ方の4段階」を紹介します。
段階1:「やり方を教えて、見ている」。業務の手順を丁寧に教え、部下がやるのを横で見守る。間違いがあればその場で修正する。
段階2:「やらせて、チェックする」。部下に一人でやらせ、完了後に結果をチェックする。問題がなければ「よくできた」とフィードバックし、修正が必要なら「ここをこう直そう」と指導する。
段階3:「任せて、報告を受ける」。部下に完全に任せ、定期的に進捗報告を受ける。プロセスには口を出さず、結果のみで評価する。
段階4:「任せきる」。部下に権限と責任を完全に委譲する。管理職は結果のみを把握し、問題が発生した場合のみ介入する。
重要なのは、全ての業務を一気に段階4まで移行しようとしないことです。業務の重要度とリスクに応じて、段階を選ぶ。リスクの低い業務は段階3〜4まで素早く移行し、リスクの高い業務は段階1〜2でじっくり移行する。
岩手のある商社の営業課長は、この4段階方式で半年かけて8つの業務を部下に移管しました。「最初は不安だったけど、段階的に任せることで部下の成長が見えた。自分がやらなくても回ることがわかった」と話しています。
マネジメント業務の評価を制度に組み込む
管理職がマネジメントに時間を使うためには、「マネジメントの質が評価される」仕組みが必要です。
私が東北の企業に提案している管理職評価の設計は、「プレイヤー成果50% + マネジメント成果50%」の比率です。
プレイヤー成果は、売上、生産性、案件数など、管理職個人の業績。マネジメント成果は、「部下の成長度」「チーム全体の業績」「離職率」「エンゲージメントスコア」などで測定する。
特に「部下の成長度」の測定は重要です。具体的には、「半年前にできなかったことが、今できるようになった部下が何名いるか」「部下の担当業務の範囲がどれだけ広がったか」を指標にします。
宮城のある製造業では、管理職評価にマネジメント成果を導入した結果、管理職の行動が変わりました。それまで「自分の実績」を重視していた課長たちが、「部下をどう育てるか」を考えるようになった。1年後、部下の平均スキルレベルが20%向上し、チーム全体の生産性が12%改善しました。
管理職の「孤独」を解消する——ピアサポートの仕組み
プレイングマネージャー問題を解消する過程で、管理職は大きなストレスを感じます。「プレイヤーとしての自信がアイデンティティだったのに、それを手放すことへの不安」「部下に任せて失敗したらどうしようというプレッシャー」——これらを一人で抱え込むと、メンタル不調のリスクが高まります。
私が東北の企業に推奨しているのは、「管理職同士のピアサポート」の仕組みです。
月1回、管理職だけが集まる「管理職ミーティング」を開催する。議題は「マネジメントの悩みの共有」。「部下にこう言ったら反発された」「任せた仕事のクオリティが低くてどうフィードバックすべきか」——こうした悩みを管理職同士で共有し、お互いにアドバイスし合う。
福島のある食品メーカーでは、月1回の管理職ミーティングを2年間継続しています。「自分だけが悩んでいるわけじゃないとわかった」「他の課長のやり方が参考になった」——管理職の孤独感が軽減され、マネジメントへの自信が高まったと報告されています。
プレイングマネージャー問題は「仕組み」で解決する
最後に、私がこの問題に取り組む中で強く感じていることを述べます。
プレイングマネージャー問題は、管理職個人の問題ではありません。「管理職がマネジメントに専念できる環境を、会社が作っているかどうか」の問題です。
「自分でやった方が早い」と感じる管理職を責めても、何も解決しません。管理職がマネジメントにシフトできるように、部下を育てる時間を確保し、マネジメントの質を評価し、管理職同士で支え合う仕組みを整備する。
東北の中小企業は人手不足が深刻で、管理職にプレイヤーを求めざるを得ない事情があります。しかし、プレイングに頼り続ける限り、部下は育たず、管理職は疲弊し、組織は管理職の限界に縛られます。
段階的にでも、プレイングの比率を下げ、マネジメントの比率を上げていく。その移行を「個人の意志」ではなく「組織の仕組み」で支える。それが、東北の企業のプレイングマネージャー問題を解消する現実的な道だと私は考えています。
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