東北の建設業が人手不足を乗り越えるための組織開発と採用戦略——「きつい・汚い・危険」のイメージを超えて
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東北の建設業が人手不足を乗り越えるための組織開発と採用戦略——「きつい・汚い・危険」のイメージを超えて

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東北の建設業が人手不足を乗り越えるための組織開発と採用戦略——「きつい・汚い・危険」のイメージを超えて

「若い人が入ってこない。今いる人も高齢化していく。このままだと5年後、現場が回らなくなる」

宮城のある建設会社の社長から聞いた言葉です。従業員45名。東日本大震災の復興需要で忙しかった時期には60名以上いた社員が、復興事業の縮小と高齢退職で減り続けている。

東北の建設業が直面している人手不足は、単なる「人が集まらない」という問題ではありません。建設業そのもののイメージ、働き方、組織のあり方を根本から見直さなければ解決しない構造的な課題です。

私はこれまで500社以上の企業の人事に関わってきましたが、建設業ほど「人の問題」が事業の存続に直結する業界はないと感じています。なぜなら、建設業は「人の技術」がそのまま商品の品質になる業界だからです。


東北の建設業が抱える構造的な課題

東北の建設業の人手不足は、複数の要因が重なって起きています。ひとつずつ整理してみましょう。

第一に、業界全体のイメージの問題です。建設業は「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージが根強く残っています。実際には、技術の進歩やICT化によって現場環境は大きく改善しているのですが、そのイメージは若い世代にまだ届いていません。

第二に、東日本大震災の復興事業の影響です。2011年以降、東北の建設業は復興需要で大量の人材を抱えました。しかし、復興事業が縮小するにつれて業務量が減少し、一部の企業では人員の整理が行われた。「建設業は仕事の波が大きくて不安定だ」という印象が、業界離れを加速させました。

第三に、高齢化の進行です。東北の建設業就業者の平均年齢は50代半ばを超えています。技能者の中には60代後半、70代の方も少なくない。あと5〜10年で大量退職が見込まれる中、次世代の担い手が圧倒的に不足しています。

第四に、他業界との人材競合です。製造業、IT業界、物流業界——東北の他の業界もまた人手不足であり、若手の奪い合いが激化しています。建設業が選ばれるためには、他業界との差別化が必要です。

これらの課題を「仕方がない」と受け入れるのではなく、「どうすれば変えられるか」を考えること。そこに、人事の力が試されます。


組織開発の第一歩——「現場の声」を聴く仕組みを作る

建設業の組織開発と聞くと、大がかりな改革を想像するかもしれません。しかし、最も効果的な第一歩は、「現場で働く人の声を聴く仕組み」を作ることです。

なぜなら、建設業では経営者と現場の間に距離がある会社が多いからです。社長は営業や経理に追われ、現場は日々の施工に追われている。お互いの考えが共有されないまま、不満が蓄積していく。

岩手のある建設会社では、月に1回、全現場の職長と社長が直接話す「現場ミーティング」を始めました。最初は堅い雰囲気で、職長たちも遠慮がちでした。でも、3回、4回と続けるうちに、「実は工具の管理がバラバラで困っている」「この工法は効率が悪いと思うが、誰に言えばいいかわからなかった」——こうした率直な意見が出てくるようになった。

社長は「こんなことで困っていたのか。知らなかった」と驚き、すぐに改善に動いた。工具の一元管理システムを導入し、工法の見直し委員会を設置した。その結果、現場の生産性が約15%向上し、残業時間が月平均8時間減少した。

残業時間の削減を年間のコストに換算すると、社員1人あたり約20万円、全社で約900万円の効果。この数字を社長に見せたとき、「もっと早く現場の声を聞いておけばよかった」と言っていました。

「現場の声を聴く」という単純なことが、組織を変え、コストを削減し、人の定着にもつながる。これが組織開発の本質です。


働き方改革は「数字」で設計する

建設業の働き方改革は、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されたことで、待ったなしの状況になっています。東北の建設会社も例外ではありません。

ただ、「残業を減らせ」と号令をかけるだけでは、現場は困るだけです。工期は決まっている。天候に左右される。人が足りない。そんな中で残業を減らすには、仕事のやり方そのものを変える必要があります。

秋田のある建設会社は、働き方改革を「数字の問題」として捉え直しました。まず、全現場の作業時間を1週間分、30分単位で記録した。すると、「移動時間」「待ち時間」「手戻り作業」が総作業時間の約30%を占めていることがわかった。

この30%のうち、半分は工程管理の改善で削減できると判断。具体的には、作業の段取りを前日の夕方に確定させるルールを作り、翌朝の「何をやるか考える時間」を削減した。資材の事前配置を徹底し、「資材を取りに行く移動時間」を削減した。施工図面のデジタル化により、図面の確認待ち時間を削減した。

これらの改善で、残業時間は月平均12時間削減。年間で一人あたり約144時間、30名規模の会社全体で約4,320時間。時給換算すると、年間約650万円のコスト削減効果です。

働き方改革を「コスト削減」の文脈で語ると、経営者は前のめりになります。「社員のため」という理由だけでは動かない経営者も、「年間650万円のコスト削減」と聞けば本気になる。これが、経営数字から発想する人事のアプローチです。


若手が「建設業を選ぶ理由」を作る

東北の建設業が若手を惹きつけるためには、「建設業を選ぶ積極的な理由」を提示する必要があります。「3K」のイメージを否定するだけでは不十分。それに代わるポジティブなメッセージが必要です。

いくつかの方向性があります。

第一に、「地図に残る仕事」という誇り。建設業は、自分が手がけた建物や道路が何十年も残る。これは他の多くの業界にはない、固有のやりがいです。「あの橋は自分が作った」と言える仕事の価値を、若い世代に伝える。

第二に、「地域を守る仕事」としての意義。東北の建設業は、震災からの復興、豪雨災害への対応、インフラの維持管理——地域の安全と暮らしを守る最前線にいます。この社会的意義は、社会貢献に関心の高い若い世代に響きます。

第三に、「技術の面白さ」。ICT施工、BIM(Building Information Modeling)、ドローン測量——建設業はテクノロジーの活用が急速に進んでいます。「建設業=肉体労働」ではなく、「建設業=先端技術の実践の場」としての側面を見せる。

福島のある建設会社は、自社のInstagramで現場の最新技術を紹介しています。ドローンで撮影した施工現場の空撮映像、3Dモデルを使った施工計画の画面、ICT建機を操作する若手社員の姿——こうした投稿が、高校生や大学生の目に留まり、「建設業って意外とかっこいい」という反応を引き出しています。


施工管理職の育成——「背中を見て学べ」からの脱却

東北の建設業における人材育成の最大の課題は、施工管理職の育成です。

施工管理は、工程管理、品質管理、安全管理、原価管理を総合的に担う仕事です。一人前になるには最低5年、ベテランレベルになるには10年以上かかると言われています。この長い育成期間が、若手の離職リスクを高めている。

多くの建設会社では、施工管理の育成が「OJT(現場での実践教育)」に頼っています。それ自体は悪くないのですが、OJTの質にばらつきがある。優秀な現場所長の下に配属された新人と、教えるのが苦手な現場所長の下に配属された新人では、成長スピードに大きな差が出てしまう。

山形のある建設会社では、この問題を解決するために「施工管理スキルマップ」を開発しました。施工管理に必要なスキルを約50項目にリストアップし、それぞれに「レベル1(知識がある)」「レベル2(指導の下でできる)」「レベル3(一人でできる)」「レベル4(人に教えられる)」の4段階を設定。

入社1年目はこのスキルのうちどこまで到達すべきか、3年目、5年目ではどうか——という目標を明確にした上で、四半期ごとにスキルの到達度を確認する面談を行う。

この仕組みの効果は、育成の「見える化」にあります。新人にとっては「自分がどこまで成長したか」「次に何を学べばいいか」が明確になる。指導者にとっては「この新人にはこのスキルが不足しているから、次はここを重点的に教えよう」と計画的な指導ができる。

導入から2年で、入社3年以内の離職率が45%から20%に低下。離職理由のトップだった「成長実感がない」が大幅に減ったそうです。


女性技術者の活躍が組織を変える

東北の建設業で見落とされがちなのが、女性の活躍推進です。建設業は「男の仕事」というイメージが強く、女性の就業割合は全産業の中で最も低い水準にあります。

しかし、女性技術者を受け入れ、活躍できる環境を整えた建設会社は、組織全体が変わっています。

宮城のある建設会社は、5年前に初めて女性の施工管理職を採用しました。最初は現場の反応も不安げでしたが、社長が「性別に関係なく、技術で評価する」と明言し、トイレや更衣室などのハード面を整備。さらに、産休・育休制度を明文化し、復帰後の短時間勤務制度も整えた。

現在、この会社には女性の施工管理職が3名います。そして、彼女たちの存在が組織に与えた影響は、予想以上に大きかった。

まず、現場のコミュニケーションが丁寧になった。「怒鳴って指示する」文化が自然と薄れ、「説明して理解を得る」文化に変わった。これは女性社員だけでなく、若手の男性社員にとっても働きやすい環境です。

次に、安全意識が向上した。「危険な作業を力任せにやる」ことが減り、「道具や工夫で安全に作業する」発想が定着した。安全性の向上は品質の向上にもつながり、手戻り工事が減少した。

さらに、採用面でも効果が出ている。「女性が活躍している建設会社」という情報は、地元の工業高校や大学に口コミで広がり、女性の応募者だけでなく、男性の応募者も増えた。「女性が働ける環境=働きやすい環境」と認識されているのです。


協力会社との関係を「組織開発」の視点で捉え直す

東北の建設業の特徴のひとつは、元請と協力会社(下請)の関係が長期的であることです。何十年も同じ協力会社と仕事をしている元請会社も珍しくない。

この長期的な関係は、東北の建設業の強みです。しかし同時に、協力会社の人手不足が元請の工期にも影響するという意味で、リスクでもあります。

先進的な建設会社は、協力会社の人材確保と育成も「自社の課題」として捉えています。

青森のある建設会社は、主要な協力会社5社と共同で「合同安全研修会」を年4回開催しています。安全教育だけでなく、新技術の紹介、若手技能者の表彰、情報交換の場としても機能している。

さらに、協力会社の若手技能者が元請の現場所長から直接指導を受ける「出張OJD」という仕組みも作った。この取り組みにより、協力会社の若手の技術レベルが上がり、現場全体の生産性が向上。元請にとっても、信頼できる協力会社の技術力が上がることは、直接的なメリットです。

建設業の組織開発は、自社の中だけで完結しない。協力会社を含めた「チームとしての組織力」を高める視点が、東北の建設業には特に重要です。


人手不足を「組織の進化」のきっかけに変える

人手不足は、確かに苦しい状況です。でも、逆に言えば、「今までのやり方を変えざるを得ない」という圧力でもある。

東北の建設業が人手不足を乗り越えるために必要なのは、「足りない人を補う」という発想ではなく、「少ない人数でも回る組織に進化する」という発想です。

ICT施工の導入で作業効率を上げる。多能工化で一人が複数の工程を担えるようにする。工程管理のデジタル化で手戻りを減らす。現場の声を聴く仕組みでムダを削減する。若手の育成を計画的に行い、早期戦力化を図る。

これらはすべて、人手不足がなければ着手しなかったかもしれない取り組みです。人手不足という「痛み」が、組織を進化させるきっかけになる。

東北の建設業には、震災の復興を成し遂げた底力があります。その底力を、今度は「組織の進化」に向けてほしい。人の力を最大限に引き出す組織づくりが、東北の建設業の未来を拓くと私は信じています。


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