震災復興から学ぶ、東北企業のレジリエントな組織づくり——あの経験を、これからの人事に活かす
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震災復興から学ぶ、東北企業のレジリエントな組織づくり——あの経験を、これからの人事に活かす

#採用#研修#組織開発#経営参画#制度設計

震災復興から学ぶ、東北企業のレジリエントな組織づくり——あの経験を、これからの人事に活かす

2011年3月11日。東北に住む人にとって、あの日は人生を分ける日になりました。

私もあの日以降、東北の企業の支援に深く関わるようになった一人です。500社以上の企業に関わってきた中で、震災からの復興を経験した東北の企業には、他の地域にはない独特の「組織の強さ」があると感じています。

その強さを、ここでは「レジリエンス」と呼びたいと思います。レジリエンスとは、困難に直面しても折れずに回復し、むしろ以前より強くなる力のことです。

東日本大震災から15年。あの経験から何を学び、これからの組織づくりにどう活かすか——これは東北の企業だけでなく、すべての企業にとって意味のあるテーマです。ただし、この記事では特に、東北の企業が「あの経験」を人事と組織づくりにどう転換しているかに焦点を当てます。


震災が「組織」に教えたこと

東日本大震災は、東北の企業に多くのことを教えました。建物やインフラの復旧は進みましたが、組織と人に残った「学び」は、目に見える形では測りにくいものです。

私が震災後に東北の企業を訪問して歩いた中で、経営者や人事担当者から繰り返し聞いた教訓があります。それを整理すると、大きく4つに分けられます。

第一に、「人のつながりが組織を救う」ということ。震災直後、電話もメールも使えない状況で、社員の安否確認をどうやったか。多くの企業では、日頃から社員同士のつながりが強かった会社ほど、安否確認が早く完了したそうです。隣の席の同僚が「あの人は確か○○地区に住んでいる」と覚えていたから、直接訪ねていけた。

第二に、「判断を現場に委ねられる組織は強い」ということ。本社機能が停止した中で、各現場が自律的に判断して事業を継続できるかどうか。日頃から「指示待ち」の組織だった会社は、本社とつながらないだけで動きが止まった。一方、現場に一定の判断権限があった会社は、社員が自分で考えて行動し、早期の事業再開につなげた。

第三に、「経営の透明性が信頼を守る」ということ。震災後、多くの企業が経営危機に陥りました。そのとき、経営の状況を社員に正直に開示した会社と、「大丈夫だ」と楽観的に言い続けた会社では、その後の社員の定着率に大きな差が出ました。苦しい状況を正直に伝え、「一緒に乗り越えよう」と語りかけた経営者のもとに、社員は残った。

第四に、「事業の多角化がリスク分散になる」ということ。ひとつの事業だけに依存していた企業は、その事業がダメージを受けると一気に経営が傾いた。複数の事業を持っていた企業は、被害を受けた事業の穴を他の事業でカバーできた。これは人事の観点では「多能工化」——社員が複数の業務をこなせる状態——につながります。


レジリエントな組織の第一条件——「心理的安全性」の土壌

震災後の東北企業の復興過程を見てきて、最も印象的だったのは、「社員が本音を言える組織」ほど復興が早かったということです。

ある宮城の食品製造会社は、津波で工場が被災し、3ヶ月間操業停止を余儀なくされました。再開後、社長が最初にやったのは、全社員との個別面談でした。30名の社員一人ひとりに、「今、何を感じていますか」「何が不安ですか」「会社に何を求めますか」と聞いて回った。

面談で出てきたのは、「自宅が被災して、仕事どころではない」「会社は大丈夫なのか、不安で眠れない」「でも、この会社のためなら頑張りたい」——率直な声でした。社長はその声をすべて受け止め、「自宅の復旧が先だ。無理せず休んでくれ」「経営の状況は毎月全員に開示する」「一緒にこの会社を立て直そう」と伝えた。

この面談をきっかけに、社員の間に「この会社では本音を言っていい」という信頼が生まれた。それが、復興期間中の社員の離職をゼロに抑えることにつながりました。しかも、工場再開後の生産性は震災前を上回った。「もう二度とこの会社を失いたくない」という社員の強い想いが、仕事の質を引き上げたのです。

心理的安全性は、平時にこそ築いておくべきものです。「何かあったときに本音を言える関係」は、一朝一夕には作れない。日頃から、経営者と社員、上司と部下の間に「聴く」文化があるかどうか。それがレジリエンスの土壌になる。


「経営の透明性」が組織の信頼を守る

震災後に社員が離れた企業と、社員が残った企業。その違いを分析すると、「経営の透明性」が大きな要因になっていました。

ある福島の建材メーカーは、震災と原発事故の影響で売上が前年の40%にまで落ち込みました。経営的には極めて厳しい状況です。

この会社の社長は、全社員を集めて経営状況を包み隠さず説明しました。「売上は40%まで落ちた。このままでは3ヶ月で資金が底をつく。でも、銀行との交渉で追加融資の見込みがある。そして、新しい取引先の開拓に動いている。正直に言うと、この半年が勝負だ。でも、皆で乗り越えたい」。

この説明を聞いた社員は、一人も辞めなかった。むしろ、自発的にコスト削減のアイデアを出し始めた。「この消耗品はもっと安い代替品がある」「この工程は効率化できる」——危機を自分事として捉えた社員が、経営改善に主体的に関わるようになった。

結果として、この会社は1年後に黒字に復帰しました。社長は「震災前より、組織として強くなった」と語っています。

この事例から学べるのは、経営の透明性は「平時」にこそ実践すべきだということです。危機になって初めて経営数字を開示しても遅い。日頃から、売上、コスト、利益の概要を社員に共有していれば、社員は経営を「自分事」として考える力を養える。

月に1回、全社会議で「先月の売上は○万円、コストは○万円、利益は○万円」と共有するだけでもいい。この積み重ねが、有事の際の「全員で乗り越える」文化につながるのです。


「自律的に動ける現場」を作る権限委譲

震災時、本社と連絡が取れなくなった現場がどう動いたか。この経験は、「権限委譲」の重要性を東北の企業に教えました。

岩手のある建設会社は、津波で本社が被災し、1週間以上にわたって本社機能が停止しました。その間、各現場の所長たちは独自の判断で動きました。被災した民家の応急修理、道路の瓦礫撤去、避難所への資材提供——本社の指示がなくても、「今、目の前で困っている人を助ける」という判断で行動した。

この会社の社長は、後に「あのとき、現場が自分で考えて動いてくれたから、うちは復興できた。もし現場が『社長の指示がないと動けない』という組織だったら、事業の再開はもっと遅れていた」と振り返っています。

この経験を踏まえて、同社では「現場判断マニュアル」を整備しました。「○○の状況では、本社に報告の上、現場所長の判断で○○の対応をしてよい」「本社と連絡が取れない場合は、以下の基準に基づいて現場判断で行動してよい」——こうしたルールを明文化したのです。

ただし、マニュアルだけでは不十分です。日頃から現場に「考える機会」を与えることが不可欠。この会社では、毎月の現場会議で「今月のヒヤリハット事例」をテーマに、現場が自分たちで対策を考えるディスカッションを行っています。この「自分で考える訓練」が、有事の際の自律的な行動力につながっている。


BCP(事業継続計画)を「生きた文書」にする

東日本大震災以降、多くの東北企業がBCP(事業継続計画)を策定しました。しかし、策定したBCPが「棚の上の文書」になっているケースが少なくありません。

レジリエントな組織を作るためには、BCPを「生きた文書」にする必要があります。つまり、定期的に見直し、訓練し、改善するサイクルを回すこと。

山形のある製造会社では、BCPを年に1回見直す「BCP更新デー」を設けています。この日は半日かけて、以下のことを行います。

前年に策定したBCPの内容を確認し、「現状と合わなくなっている部分」を洗い出す。社員の連絡先や役割分担の更新。実際にBCPに基づいた模擬訓練(安否確認の連絡テスト、代替生産拠点への切り替え手順の確認など)。訓練で見つかった問題点の改善策の検討。

このBCP更新デーは、単なる防災訓練ではありません。「有事にどう動くか」を考えることは、「組織として何を大切にしているか」を再確認する機会でもあります。「お客様への供給を止めない」「社員の安全を最優先にする」「地域の一員として貢献する」——BCPの議論の中で、こうした組織の価値観が自然と共有される。

BCPの策定と更新は、人事の仕事としても重要です。なぜなら、BCPの中核は「人」だからです。誰がどの役割を担うか、連絡体制はどうなっているか、代替要員は確保されているか——これらはすべて、人事が管理すべき情報です。


「支え合いの文化」を組織の制度に落とし込む

震災時に東北で見られた「支え合い」の精神は、世界中から賞賛されました。この文化は、東北企業の組織の強さの源泉でもあります。

しかし、「支え合いの文化」を個人の善意だけに頼っていると、持続しません。制度として組み込むことが大切です。

仙台のあるIT企業では、震災の経験を踏まえて「相互支援制度」を設けています。内容はシンプルです。

社員が家族の介護、自宅の被災、その他の個人的な困難に直面したとき、最大1ヶ月の特別休暇(有給)を取得できる。その間の業務は、チームメンバーが分担して引き受ける。復帰時は、本人の状態に合わせた段階的な業務復帰プランを上司と一緒に作成する。

この制度を実際に使った社員は、設立から5年間で8名。「制度があるから安心して休めた」「チームのメンバーが自分の仕事を引き受けてくれたことに、本当に感謝している」——復帰した社員のロイヤリティは格段に高い。

年間の追加コスト(特別休暇中の給与と、業務カバーのための残業増)は約100万円。一方、この制度がなければ離職していたであろう社員の離職コスト(採用、教育、引き継ぎ)は1名あたり200〜300万円。5年間で8名が制度を利用し、全員が離職せずに復帰していることを考えると、投資対効果は極めて高い。

「支え合い」を美しい言葉で終わらせず、制度として形にする。それが、レジリエントな組織を支えるインフラになるのです。


メンタルヘルスへの投資——見えない傷に向き合う

震災から15年が経ちましたが、東北にはまだ「あの日」の影響を受け続けている人がいます。直接的な被災だけでなく、「被災者を支援する側」として過酷な経験をした人もまた、心に傷を抱えていることがあります。

企業の人事として、メンタルヘルスへの投資はレジリエントな組織づくりの重要な要素です。

ある宮城の建設会社では、震災後の復興工事に従事した社員の中に、燃え尽き症候群やPTSDに近い症状を呈する人が複数名出ました。この経験を踏まえ、同社は以下の取り組みを始めています。

年1回のストレスチェックの実施と、結果に基づく個別フォロー。外部のカウンセラーとの契約(月2回、希望者は無料で相談できる)。管理職向けの「ラインケア研修」(部下のメンタル不調のサインに気づくための研修)。「3月11日前後は無理をしない」という暗黙のルール。

これらの取り組みにかかるコストは年間約80万円。一方、メンタル不調による休職者が出た場合の代替人員の確保コストは1件あたり約150万円。メンタルヘルスへの投資は、人道的な理由だけでなく、経営的にも合理的な判断です。


復興の経験を「採用の強み」に変える

最後に触れたいのは、東北企業の復興経験は「採用における強み」にもなり得るということです。

「震災を経験し、復興を成し遂げた組織」——この事実自体が、求職者に対する強いメッセージになります。

特に、「困難を乗り越えた経験のある組織で、自分も成長したい」と考える若い世代には、強く響きます。単に安定した環境ではなく、「困難に向き合う力」を持った組織で働きたい——そう考える人は少なくないのです。

ある岩手の水産加工会社は、採用ページに「私たちは2011年の津波で工場を失い、ゼロから再建しました」という一文を載せています。そして、再建の過程で社員がどう協力し、どう困難を乗り越えたかのストーリーを丁寧に綴っている。

この採用ページを読んで応募してきた若者が、入社理由をこう語っていました。「こんな経験を乗り越えた会社なら、この先どんなことがあっても大丈夫だと思った。自分もその一員になりたかった」。

復興の経験は、過去の出来事ではありません。それは、組織の「今の強さ」の証でもある。その強さを正直に、丁寧に伝えることが、東北企業の採用ブランディングになるのです。


これからの東北企業へ——レジリエンスは「日常」の中で育つ

レジリエントな組織は、危機の中で一夜にして生まれるものではありません。日常の中で、少しずつ育てていくものです。

月に1回の全社会議で経営数字を共有すること。上司と部下が率直に話せる関係を築くこと。現場に判断を任せる勇気を持つこと。困ったときに助け合える制度を整えること。社員のメンタルヘルスに投資すること。

どれも特別なことではありません。でも、これらを「続ける」ことが、組織のレジリエンスを育てます。

東北の企業には、あの日の経験がある。その経験から学んだことを、「制度」と「文化」として組織に残していくこと。それが、次の困難にも負けない組織を作る道だと、私は考えています。

震災の記憶は薄れても、そこから学んだ知恵は薄れさせてはいけない。その知恵を組織に刻む仕事が、人事にはあるのです。


もし「レジリエントな組織づくりを含め、経営に貢献する人事の力を高めたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。

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また、東北の企業で人事に取り組む仲間と経験を共有したい方は、人事図書館へ。

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