東北の中小企業が「経営と人事の対話」を始めるための第一歩——数字で語り、数字で聴く関係をつくる
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東北の中小企業が「経営と人事の対話」を始めるための第一歩——数字で語り、数字で聴く関係をつくる

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東北の中小企業が「経営と人事の対話」を始めるための第一歩——数字で語り、数字で聴く関係をつくる

「人事の話をしても、社長が聞いてくれないんです」

東北の中小企業の人事担当者から、最も多く聞く悩みがこの一言です。採用の計画を提案しても「今は忙しい」と先送りされる。教育制度の見直しを相談しても「そんな余裕はない」と一蹴される。人事評価の改善を進言しても「今のままでいい」と取り合ってもらえない。

一方で、経営者の側にも言い分があります。「人事担当者が提案してくることは理想論ばかりで、うちの経営の実情がわかっていない」「『人を大切に』と言われても、売上が立たなければ給料も払えない」「数字の裏付けのない話には判断のしようがない」。

この両者のすれ違いは、東北に限らず多くの中小企業で起きている問題です。しかし、東北の中小企業にはこのすれ違いを解消しやすい条件が揃っています。社長と人事の物理的距離が近い。意思決定のスピードが速い。組織がフラットで、直接対話がしやすい。

あと一つ足りないのは、「対話の言語」を揃えること。それが、この記事のテーマです。


なぜ経営と人事の対話は噛み合わないのか

経営者と人事担当者の対話が噛み合わない根本原因は、「使っている言語が違う」ことです。

経営者の第一言語は「数字」です。売上、利益、コスト、投資回収期間、キャッシュフロー——経営者は毎日この言語で思考し、意思決定しています。

一方、人事担当者の多くは「想い」の言語で話しがちです。「社員のモチベーションを上げたい」「働きやすい職場を作りたい」「教育に力を入れたい」——これらは大切な想いですが、経営者の耳には「で、それにいくらかかって、いくら返ってくるの?」という問いが残ります。

この言語のギャップを埋めることが、経営と人事の対話の第一歩です。人事が「経営の言語」を学び、人事の施策を「経営の文脈」で語れるようになること。それだけで、経営者の反応は劇的に変わります。

これは「人事が経営者に迎合する」ということではありません。経営数字で語ることで、人事の提案の説得力が上がり、結果として「人を大切にする経営」が実現しやすくなる。人事の想いを実現するための「手段」として、経営の言語を使うのです。


第一歩:経営者が今、何の数字を見ているかを知る

経営と人事の対話を始める最初の一歩は、「経営者が今、何の数字を気にしているかを知ること」です。

東北の中小企業の経営者が日常的に気にしている数字は、大きく分けて5つあります。

売上(月次、四半期、年次)。粗利益率(原価と売上の関係)。キャッシュフロー(手元資金の状況)。受注残(今後の仕事量の見通し)。人件費率(売上に対する人件費の割合)。

この5つの数字のうち、「今、経営者が最も気にしているのはどれか」を把握することが重要です。売上が伸びている時期と、キャッシュフローが厳しい時期では、経営者の関心事が違う。その関心事に合わせて人事の提案を組み立てると、経営者の耳に届きやすくなる。

たとえば、経営者が「人件費率が上がっている」と気にしているタイミングで、「教育投資を増やしましょう」と提案しても通りにくい。でも、「人材の早期戦力化を図ることで、一人当たりの生産性を上げ、結果として人件費率を改善できます」と提案すれば、同じ「教育投資」の話でも受け止められ方が変わる。


第二歩:人事の仕事を「数字」で語る習慣をつける

経営者との対話に臨む前に、人事担当者自身が「人事の仕事を数字で語る」習慣をつける必要があります。

以下の数字を、毎月把握してみてください。

採用コスト。1名の採用にかかった総コスト(求人媒体費、面接にかかった時間の人件費、紹介手数料など)を計算する。「先月は1名の採用に85万円かかりました」——この一文だけで、経営者は「高い」「妥当だ」と判断できます。

離職率。月次と年次の離職率を追う。「今年度の離職率は12%で、昨年度の15%から改善しています」——この報告で、人事施策の効果が見える化されます。

離職コスト。1名の離職にかかるコスト(採用やり直し、教育やり直し、引き継ぎ、生産性低下)を概算で把握する。「先月、2名の離職がありました。推定コストは約400万円です」——この数字は経営者にインパクトを与えます。

研修参加率と効果測定。研修に何名が参加し、研修後に行動や成果がどう変わったかを把握する。「先月の管理職研修に8名が参加。参加者のチームの残業時間が平均15%減少しました」——研修の効果が数字で見えると、経営者は「もっとやってほしい」と言いやすくなります。

有給休暇取得率。法令遵守の観点だけでなく、「有給取得率が高い部署ほど離職率が低い」という相関を示すことで、有給取得の推奨が「経営的に合理的」であることを伝えられます。

これらの数字を毎月1ページにまとめた「人事レポート」を作成し、経営者に提出する。最初は読み流されるかもしれません。でも、3ヶ月、6ヶ月と続けるうちに、経営者が「今月のレポートはどうだった?」と聞いてくるようになる。そうなれば、対話の土台ができた証です。


第三歩:「経営会議に人事の議題を入れる」

多くの東北の中小企業では、経営会議の議題は「売上報告」「受注状況」「資金繰り」で埋まっています。人事の話題は、問題が起きたとき(急な退職、労務トラブルなど)にしか取り上げられない。

これを変えるには、経営会議に定期的に「人事の報告時間」を確保してもらうことが必要です。最初は5分でいい。月1回の経営会議で5分間、人事レポートの要点を報告する。

報告の内容は、シンプルに3点に絞ります。先月の離職・入社の状況。今月の採用・育成の進捗。経営に関連する人事のリスクまたは機会。

宮城のある製造会社では、人事担当者が経営会議で5分間の報告を始めたところ、半年後には報告時間が15分に拡大しました。なぜなら、経営者が「もっと詳しく聞きたい」と言うようになったから。

きっかけは、人事担当者が「先月の離職で、推定400万円のコストが発生しました。離職者の退職理由は『上司との関係』でした。管理職研修を実施すれば、離職を減らせる可能性があります。研修費用は50万円です」と報告したこと。経営者は「400万円の損失を50万円の投資で防げるなら、やるべきだ」と即決した。

人事の課題を「経営の議題」に引き上げること。それが、対話の質を変える転換点になります。


第四歩:「小さな成功事例」を積み上げる

経営と人事の対話を深めるには、「提案→実行→成果」の小さな成功サイクルを回すことが重要です。

最初から大きな施策を提案する必要はありません。むしろ、小さな施策で「成果が出た」という実績を作る方が効果的です。

秋田のある食品メーカーの人事担当者は、最初の提案として「社員との月1回の1on1面談」を始めました。コストはほぼゼロ(面談の時間だけ)。3ヶ月続けたところ、退職を考えていた社員が「話を聞いてもらえたことで気持ちが楽になった」と留まった。

この「1名の離職を防いだ」事実を経営者に報告。「離職コストは推定200万円。1on1面談にかかった時間のコストは約3万円。投資対効果は約66倍です」——この数字を聞いた経営者は、「全管理職に1on1面談をやらせてくれ」と指示しました。

小さな成功が、次の提案への信頼を生む。信頼が積み重なると、より大きな施策への投資も得やすくなる。この「信頼の複利効果」が、経営と人事の対話を深化させるエンジンです。


第五歩:経営者と「同じ数字」を見る時間を作る

対話の質をさらに高めるために、経営者と人事担当者が「同じ数字を一緒に見る」時間を定期的に設けることをお勧めします。

月次の売上報告の際に、人件費率、一人当たり売上、離職率のトレンドを並べて見る。「売上は伸びているが、人件費率も上がっている。一人当たりの生産性が下がっているということだ。原因は何か」——こうした問いを、経営者と人事が一緒に考える。

この「一緒に考える」経験が、経営者に「人事は経営のパートナーだ」と認識してもらうきっかけになります。

山形のある機械メーカーでは、毎月第一月曜日の朝30分間を「経営・人事対話タイム」として確保しています。社長と人事担当者の二人だけで、数字を見ながら自由に議論する時間。

この30分の中で、「来年の事業拡大に向けて、どんな人材が必要か」「この部署の生産性が下がっているのは、マネジメントの問題かもしれない」「新しい事業領域に挑戦するなら、どんなスキルを持った人を採るべきか」——経営戦略と人事戦略が自然と結びつく対話が生まれています。

社長は「この30分が、月で最も価値のある時間のひとつだ」と語っています。


経営者の「人事観」をアップデートするための対話

東北の中小企業の経営者の中には、人事に対して古い認識を持っている方もいます。「人事は労務管理をする部門」「人事は総務の一部」「人事は問題が起きたときに対処する部門」——こうした認識のまま経営をしている企業では、人事の力が十分に活かされません。

人事の役割は、「管理」から「経営のパートナー」へと進化しています。採用戦略、人材育成、組織開発、人事評価、報酬設計——これらはすべて、経営戦略と直結するテーマです。

この認識をアップデートしてもらうには、言葉で説明するよりも、「実感してもらう」のが効果的です。

たとえば、「人事のプロ」が書いた書籍や記事を経営者に紹介する。経営者向けの人事セミナーに一緒に参加する。他社の成功事例(「人事の力で業績が変わった」事例)を共有する——こうした間接的なアプローチで、経営者の人事観を少しずつアップデートしていく。

直接「社長、もっと人事を大事にしてください」と言っても効果は薄い。でも、「この会社は人事に投資して業績が上がった」という他社の事例を見せれば、経営者は自分で気づく。人の認識を変えるのは、「指摘」ではなく「気づき」なのです。


「対話」が生む、人事の5つの変化

経営と人事の対話が定着すると、組織には5つの変化が起きます。

第一に、人事施策の優先順位が明確になる。経営の方向性を理解した上で、「今、最も必要な人事施策は何か」を判断できるようになる。

第二に、人事の予算が確保しやすくなる。経営者が人事の価値を数字で理解すれば、投資として予算を配分しやすい。

第三に、人事の仕事の質が上がる。経営との対話を通じて、人事担当者自身の視野が広がり、より戦略的な施策を打てるようになる。

第四に、経営者の意思決定の質が上がる。「人」の視点が経営判断に反映されることで、無理な拡大や安易な人員削減を避けられる。

第五に、社員の信頼が高まる。「経営と人事がちゃんと対話している」ことは、社員にも伝わる。「この会社は人のことを真剣に考えている」という信頼が、定着率や生産性に好影響を与えます。


東北の中小企業が持つ「対話のポテンシャル」

最後に、東北の中小企業ならではの「対話のポテンシャル」について触れたいと思います。

東北の中小企業は、組織がコンパクトです。社長と人事担当者の間に何層もの管理職がいるわけではない。朝、社長の席に行って「少しお時間いいですか」と声をかけるだけで、対話が始められる。

この「距離の近さ」は、大企業にはない強みです。大企業の人事が経営者と対話するためには、膨大な根回しと資料準備が必要。東北の中小企業では、A4一枚のレポートと30分の会話で、経営判断を引き出せる。

このポテンシャルを活かさないのは、もったいない。

経営者は、決して人事の話を聞きたくないわけではありません。「聞いても判断できない」から聞かないのです。数字で語れば、判断できる。判断できるとわかれば、聞いてくれる。

経営の言語を学び、数字で語り、小さな成功を積み上げる。そのプロセスの中で、経営と人事の対話は自然と深まっていきます。

東北の中小企業の経営者と人事担当者が、「同じ目線」で「同じ言葉」で、会社の未来を語り合える関係を築くこと。それが、東北の企業の人事力を底上げする、最も確実な道だと私は信じています。


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