仙台のベンチャー企業が急成長期に人事制度を整える方法——「勢い」を「仕組み」に変える転換点
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仙台のベンチャー企業が急成長期に人事制度を整える方法——「勢い」を「仕組み」に変える転換点

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仙台のベンチャー企業が急成長期に人事制度を整える方法——「勢い」を「仕組み」に変える転換点

「去年は10人だった会社が、今年は30人になりました。来年は50人にしたい。でも、正直なところ、人の管理がまったく追いつかない」

仙台のあるIT系ベンチャーの社長から、こんな相談を受けました。売上は前年比200%。プロダクトは好調。資金調達も成功している。しかし、社長の表情は晴れません。「事業は伸びているのに、組織がバラバラになりかけている」と。

仙台は東北最大の都市であり、近年はスタートアップの集積地としても注目されています。仙台市のスタートアップ支援施策、東北大学の研究シーズの事業化、復興を契機にした社会課題解決型ビジネスの創出——さまざまな要因が重なり、仙台には意欲的なベンチャー企業が増えています。

しかし、急成長するベンチャーの多くが直面するのが、「人事制度の不在」という壁です。10人までは社長の目が全員に届いた。20人を超えると、社長の目だけでは足りなくなる。30人を超えると、「暗黙のルール」では組織が回らなくなる。

この「壁」をどう乗り越えるか。それは、人事制度を「一気に完成させる」のではなく、「成長のフェーズに合わせて段階的に整える」という発想にかかっています。


なぜベンチャーに人事制度が必要なのか——「自由」の限界

「うちはベンチャーだから、堅い人事制度は要らない。自由にやれるのがうちの良さだ」

こう言うベンチャーの社長は多い。気持ちはわかります。大企業の硬直的な制度に嫌気がさして独立した人も少なくない。しかし、「自由」は人数が増えると機能しなくなります。

仙台のあるフィンテック系ベンチャーで起きた実例です。社員が15人だった頃は、給与は社長が個別に決めていました。「Aさんはこのくらい」「Bさんはもうちょっと出してあげよう」——社長なりの基準はあったのでしょうが、基準は社長の頭の中にしかなかった。

25人に増えたとき、問題が表面化しました。同じような仕事をしているのに、入社時期やたまたまの交渉力の違いで給与に大きな差がある。それが社員同士の何気ない会話で発覚した。「あの人は自分より100万円多くもらっているらしい」——この噂が広がり、チームの雰囲気が一気に悪化しました。

結果、3ヶ月で4名が退職。25人のうち4名、つまり16%の離職です。採用コスト、育成コスト、引き継ぎの混乱——金額にして少なくとも600万円以上の損失が発生しました。

この事例が示すのは、「人事制度がないこと」のリスクです。10人のうちは問題が顕在化しなかっただけで、リスクはずっと存在していた。人数が増えた瞬間に、そのリスクが一気に噴出したのです。


「30人の壁」「50人の壁」——フェーズ別の課題

ベンチャーの成長フェーズごとに、人事の課題は変化します。仙台のベンチャー企業を多く見てきた経験から、典型的な「壁」を整理します。

10〜15人のフェーズ。社長が全員の顔を見ている。コミュニケーションは直接対話で十分。人事制度がなくても回る。ただし、「回っている」のではなく「社長の労力で回している」状態。

15〜30人のフェーズ。いわゆる「30人の壁」。社長の目が届かない社員が出てくる。中間管理職が必要になるが、ベンチャーには管理職経験のある人材が少ない。評価基準がないため、「社長に近い人」「声が大きい人」が優遇されているように見え、不公平感が生まれる。

30〜50人のフェーズ。いわゆる「50人の壁」。部門間のコミュニケーションが希薄になる。開発チームと営業チームの間に溝ができる。「あっちのチームは何をしているかわからない」という声が出始める。人事制度がないと、評価・報酬・育成のすべてが属人的になり、組織の統一感が失われる。

仙台のあるヘルステック系ベンチャーの創業者は、「30人の壁にぶつかったとき、もう少し早く人事制度を整えておけばよかったと思った」と振り返っています。「事業を伸ばすことに夢中で、組織のことは後回しにしていた。でも、事業を伸ばすのは人なのだから、人の仕組みを整えないと事業も止まる」。


まず整えるべき3つの制度——等級・評価・報酬

ベンチャーが急成長期に最優先で整えるべき人事制度は3つです。等級制度、評価制度、報酬制度。この3つが一体となって、「何を期待されていて」「どう評価されて」「どう報酬に反映されるか」を社員に示す。

ただし、大企業のような複雑な制度は不要です。ベンチャーに必要なのは、「シンプルで」「運用できて」「成長に合わせて改定できる」制度です。

仙台のあるSaaS系ベンチャー(従業員35名)が構築した制度を例に説明します。

等級制度。4段階のシンプルな等級を設定しました。G1(メンバー):担当業務を自律的に遂行できるレベル。G2(シニア):担当領域のリーダーとして、メンバーの指導ができるレベル。G3(マネージャー):チーム全体の成果に責任を持ち、部門横断の連携ができるレベル。G4(ディレクター):事業全体の方向性に影響を与える意思決定ができるレベル。

各等級の定義は、A4用紙1枚に収まる程度のシンプルさ。「どのレベルの仕事をしているか」で等級が決まるため、年齢や入社年次は関係ない。

評価制度。半年に1回、「成果」と「行動」の2軸で評価します。成果は、期初に上司と合意した目標の達成度。行動は、会社のバリュー(行動指針)に沿った行動ができているか。評価は5段階。

ここで重要なのは、「評価者のトレーニング」です。ベンチャーでは、マネージャーになったばかりの人が評価者を務めることが多い。「部下を評価する」経験がないまま評価をすると、偏りや不公平が生じる。仙台のこの会社では、評価の前に「評価者研修」を1日かけて実施しています。

報酬制度。等級ごとの報酬レンジ(幅)を設定しました。G1は年収350〜500万円。G2は450〜650万円。G3は600〜850万円。G4は800〜1,100万円。レンジ内でのポジションは、評価結果に基づいて毎年見直す。

この制度を導入した効果は明確でした。「自分が何を期待されていて、何をすれば給与が上がるかがわかった」という社員の声が増え、半年後のエンゲージメントサーベイでは、「会社の評価制度に納得している」と回答した社員が28%から67%に上昇しました。


仙台ベンチャーの「採用」を人事制度で支える

急成長期のベンチャーにとって、人事制度は「今いる社員」のためだけのものではありません。「これから入る社員」のためのものでもあります。

仙台のベンチャーが採用で競合するのは、仙台の大手企業だけでなく、東京のベンチャーやリモートワーク可能な全国の企業です。優秀な人材を獲得するには、「報酬の透明性」と「キャリアの見通し」が不可欠です。

ある仙台のEdTech系ベンチャーでは、求人票に等級制度と報酬レンジを明示するようにしました。「あなたのポジションはG2です。報酬レンジは450〜650万円で、入社後の評価によってレンジ内で昇給します。G3に昇格すれば600〜850万円のレンジに入ります」——この透明性が、候補者の信頼を獲得しています。

「仙台の給与水準では東京に勝てない」と思うかもしれません。確かに、報酬の絶対額では東京のベンチャーに劣ることがある。しかし、仙台の生活コストは東京よりも大幅に低い。家賃は半分以下のケースも多い。その差を考慮すれば、可処分所得では十分に競争力がある。

大切なのは、「仙台で働くこと」の総合的な価値を候補者に伝えること。報酬、生活コスト、通勤のストレスの少なさ、自然環境、子育て環境——こうした要素を含めた「トータルリワード」の考え方を、採用プロセスに組み込む。人事制度は、その根幹を成すものです。


「評価面談」のやり方が組織文化を決める

人事制度を導入しても、それを「運用」できなければ意味がありません。人事制度の運用で最も重要なのが、「評価面談」です。

ベンチャーの評価面談では、大企業のような形式的な面談は不要です。しかし、「形式がない」ことは「やらなくていい」ことを意味しません。面談の場を通じて、上司と部下が「期待」と「成果」と「成長」について対話する。この対話の質が、組織文化を形作ります。

仙台のあるAI系ベンチャーでは、評価面談を以下のフォーマットで実施しています。

期初面談(目標設定)。上司と部下で30分。「今期、あなたに期待する成果は何か」「そのために何に取り組むか」を合意する。目標は3つ以内に絞る。多すぎると焦点がぼやける。

月次1on1。上司と部下で15〜30分。「目標に対して今どこまで進んでいるか」「困っていることはないか」「何かサポートが必要か」を確認する。評価の場ではなく、支援の場。

期末面談(評価フィードバック)。上司と部下で45分。「今期の成果はどうだったか」「何ができて、何ができなかったか」「次の期に向けてどう成長するか」を話し合う。

このフォーマットのポイントは、「評価は期末に突然行うものではない」ということ。期初に期待を伝え、月次で進捗を確認し、期末にまとめる。このサイクルを回すことで、「評価に納得できない」という不満が減る。

この会社のCTOは、「1on1を始めてから、エンジニアの離職がゼロになった」と言います。「技術者は、自分の仕事を見てくれている人がいると感じれば、辞めない。1on1は、その『見てくれている』感覚を作る場なんです」。


ストックオプション・RSU——ベンチャーならではの報酬設計

ベンチャー企業の報酬設計で特徴的なのが、株式報酬です。ストックオプション(SO)やRSU(譲渡制限付き株式ユニット)を活用することで、「会社の成長が自分の報酬に直結する」仕組みを作れます。

ただし、株式報酬の設計は慎重に行う必要があります。仙台のあるベンチャーで、ストックオプションの付与ルールが不明確なままで運用していたケースがありました。「創業メンバーには手厚くSOを出したが、後から入った社員にはほとんど出していない」——この不均衡が、後から入った優秀な社員の不満を招き、退職につながった。

株式報酬を設計する際のポイントは3つです。

第一に、「付与基準の透明性」。誰に、どのタイミングで、どの程度の株式報酬を付与するかの基準を明確にする。等級や在籍年数、評価結果と連動させるのが一般的です。

第二に、「ベスティング(権利確定)期間の設定」。一般的には4年間のベスティングで、1年目は「クリフ」(ゼロ)、2年目以降に段階的に確定する設計が多い。これにより、短期的な転職を抑制する効果がある。

第三に、「全社員への説明」。株式報酬は仕組みが複雑で、「もらったけど何だかわからない」という状態になりがち。定期的に説明会を開き、「今の会社の企業価値がいくらで、あなたのSOが将来いくらになる可能性があるか」を具体的に伝える。

仙台のベンチャーでは、東京と比べて株式報酬の活用経験が少ない経営者も多い。しかし、IPOやM&Aを目指すのであれば、株式報酬は人材獲得と定着の強力なツールになります。専門家の助言を得ながら、早い段階から設計に着手することが大切です。


急成長期の「カルチャー崩壊」を防ぐ

急成長期のベンチャーで最も怖いのが、「カルチャーの崩壊」です。10人の頃に共有していた価値観や行動規範が、30人、50人になったときに薄まっていく。

仙台のあるバイオベンチャーの創業者は、こう語ります。「20人を超えたあたりから、『あの頃は良かった』という古参社員の声が聞こえてきた。新しい社員に昔のカルチャーが伝わっていない。でも、それを言語化して伝える仕組みがなかった」。

カルチャーの崩壊を防ぐには、カルチャーを「言語化」し、「仕組みに組み込む」ことが必要です。

具体的には、以下のアプローチが有効です。

バリュー(行動指針)の策定と浸透。会社が大切にする価値観を3〜5つの言葉にまとめ、評価基準に組み込む。仙台のあるSaaS企業は、「ユーザーファースト」「オープンコミュニケーション」「プロフェッショナリズム」の3つをバリューとして定め、評価面談で「バリューに沿った行動ができたか」を確認しています。

入社オンボーディングの体系化。新しい社員が入社する際に、業務の説明だけでなく、「なぜこの会社が存在するのか」「何を大切にしているのか」を伝える時間を設ける。創業者自身がこのセッションを担当することで、カルチャーが直接伝わります。

全社ミーティングの定例化。月に1回、全社員が集まる場を作る。事業の進捗報告だけでなく、「バリューを体現した行動」を紹介する時間を設ける。「先月、○○さんがこんな対応をしてくれた。これはまさに『ユーザーファースト』の体現だ」——こうした具体的なエピソードの共有が、カルチャーを強化します。


人事専任者を「いつ」「どのように」採用するか

ベンチャーが成長する中で、必ず直面するのが「人事の専任者をいつ採用するか」という問題です。

私の経験では、30人を超えたタイミングが目安です。30人までは社長や管理部門の兼務でもなんとか回りますが、30人を超えると、採用・労務・評価の業務量が兼務では対応できなくなります。

ただし、仙台で「ベンチャーの人事経験者」を採用するのは容易ではありません。母集団が限られているからです。

いくつかの選択肢があります。

第一に、「東京からのリモート採用」。ベンチャーの人事経験者は東京に多い。フルリモートまたは月に数回の仙台出張で対応できるなら、選択肢が大きく広がります。

第二に、「社内から登用」。採用や人の管理に適性のある社員を人事担当に登用する。専門知識は外部研修や人事コミュニティで補う。「うちの会社のカルチャーを深く理解している」という点で、社内登用には大きなメリットがある。

第三に、「外部の人事コンサルタントの活用」。フルタイムの人事担当者を採用する前に、外部のコンサルタントに人事制度の設計を依頼する。制度のフレームワークだけ作ってもらい、運用は社内で行う。費用は月額20〜50万円程度が相場ですが、「間違った制度を作って後からやり直すコスト」を考えれば、合理的な投資です。

仙台のあるベンチャー(当時28名)は、第三の選択肢を選びました。外部コンサルタントに3ヶ月間で等級・評価・報酬制度の骨格を設計してもらい、運用は管理部門の社員が担当。半年後に制度が軌道に乗ったタイミングで、社内から人事専任者を登用しました。


仙台のエコシステムを活用する

仙台には、ベンチャー企業を支えるエコシステムが育ちつつあります。このエコシステムを人事に活用しない手はありません。

仙台市のスタートアップ支援施策として、人材確保やオフィス環境の支援が提供されています。東北大学のインターンシップ制度を活用すれば、優秀な学生との接点が作れる。仙台のベンチャーコミュニティに参加すれば、他社の人事の取り組みから学ぶこともできます。

仙台のあるフードテック系ベンチャーは、東北大学農学部との連携により、インターンシップ生を毎年2〜3名受け入れています。インターンシップ生のうち、約半数が卒業後に入社。「学生時代にこの会社の文化を体験できたので、入社後のギャップがほとんどなかった」という声があります。

また、仙台のベンチャー複数社が合同で「合同入社式」「合同新人研修」を開催している例もあります。1社だけでは十分な研修プログラムを組めないベンチャーでも、合同であれば充実した内容を低コストで実施できる。

仙台のベンチャーの強みは、「競争相手」が少なく「協力相手」が見つかりやすいこと。東京では競合になる企業同士でも、仙台では手を組んで人材育成に取り組める。この地域の特性を、人事にも活かしましょう。


「制度を作ること」がゴールではない

最後に、最も大切なことを伝えます。人事制度を作ることは、ゴールではありません。スタートです。

制度を作っても、運用しなければ意味がない。運用しても、改善しなければ形骸化する。特にベンチャーは事業環境が急速に変化するため、人事制度も柔軟に見直す必要があります。

仙台のあるベンチャーの社長は、「人事制度は半年ごとに見直している」と言います。「完璧な制度を作ろうとすると、いつまでも完成しない。まず60点の制度を作って、運用しながら改善する。うちのプロダクト開発と同じアジャイルの発想です」。

この「アジャイル人事」の考え方は、ベンチャーに最も合っている人事のスタイルだと私は思います。完璧を目指さず、まず始める。やりながら改善する。社員の声を聴いて修正する。

急成長するベンチャーにとって、人事制度は「事業の成長を支える基盤」です。事業の成長スピードに合わせて、人事制度も進化させていく。その覚悟と実行力が、仙台のベンチャーの未来を左右します。


もし「ベンチャーの人事制度づくりを含め、経営に貢献する人事の力を高めたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。

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また、仙台でベンチャー人事に取り組む仲間とつながりたい方は、人事図書館へ。

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