東北の企業が人事データ活用を始めるための第一歩——Excelから始める「数字で語る人事」
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東北の企業が人事データ活用を始めるための第一歩——Excelから始める「数字で語る人事」

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東北の企業が人事データ活用を始めるための第一歩——Excelから始める「数字で語る人事」

「人事データ活用って、大企業がやることでしょう?うちみたいな50人の会社には関係ないですよ」

岩手のある建設会社の総務部長が、セミナーの後にこう言いました。私はこう答えました。「50人の会社だからこそ、人事データの活用が効くのです。大企業は1人辞めても影響は限定的。でも50人の会社で1人辞めたら、2%の戦力がいなくなる。その2%を守るための判断材料を、データが与えてくれる」。

人事データ活用と聞くと、高価なHRテクノロジーシステム、ビッグデータ分析、AIによる予測——こうした大がかりな仕組みを想像する方が多いかもしれません。しかし、東北の中小企業に必要なのは、そこまでの大仕掛けではありません。

必要なのは、「今ある情報を整理し、数字に基づいて人事の意思決定をする」習慣を身につけること。最初のツールはExcelで十分です。大切なのは、ツールの高度さではなく、「数字を見て判断する」というマインドセットの転換です。


なぜ今、人事データ活用なのか

東北の企業が人事データ活用に取り組むべき理由は3つあります。

第一に、「勘と経験」だけでは人事判断が難しくなっていること。人手不足の中で、誰を採用し、誰を育て、誰をどのポジションに配置するか。限られた人的資源の配分を最適化するには、勘と経験に加えて、データに基づく判断が必要です。

第二に、経営者に人事の施策を提案するとき、数字があれば説得力が段違いであること。「離職率が高いので対策が必要です」より「過去3年間の離職率は18%。1名の離職コストは150万円。年間の離職コストは約810万円。定着施策に200万円投資すれば、離職率を12%に改善できる見込みです」の方が、経営者は動きます。

第三に、テクノロジーのハードルが下がっていること。以前はデータ分析には高度な統計知識が必要でしたが、今はExcelの基本機能だけでも十分な分析ができます。クラウド型の人事管理システムも、月額数万円から利用可能。中小企業にも手が届く水準になっています。


人事データ活用を「経営数字」で語る

人事データ活用の必要性を経営者に伝えるとき、抽象的な「データドリブン経営」の話をしても響きません。具体的なシナリオで示す必要があります。

宮城のある製造業(従業員100名)の例です。

この会社では、過去5年間の退職者のデータを分析しました。すると、以下のパターンが見えてきました。

入社1年以内の退職が全体の40%を占めている。退職が多いのは入社3ヶ月目と10ヶ月目に集中している。退職理由の上位は「上司との関係」(35%)と「仕事内容のミスマッチ」(30%)。特定の部署(製造2課)の離職率が他部署の2倍。

これらのデータがなければ、「退職者が多い」という漠然とした認識で終わっていたでしょう。しかし、データがあることで、以下の具体的なアクションが打てました。

入社3ヶ月目のフォロー面談を導入。入社10ヶ月目に、配属先の適性を再確認する面談を導入。製造2課の管理職のマネジメントを重点的に支援。採用時の仕事内容の説明をより具体的に改善。

これらの施策を実施した結果、翌年の1年以内離職率が25%から15%に改善。100名の会社で10名が退職していたのが、6名に減った。4名分の退職コスト削減額は約600万円。

データ分析にかかった時間は、人事担当者の業務時間で約20時間(2日半相当)。コストはほぼゼロ。しかし、得られた知見と効果は計り知れません。


最初に集めるべき5つの人事データ

人事データ活用と言っても、いきなりすべてのデータを集める必要はありません。まずは、以下の5つのデータから始めましょう。

第一に、「従業員の基本データ」。氏名、年齢、性別、入社日、所属部署、役職、雇用形態。これは、どの会社にも既にあるデータです。これをExcelのリストにまとめるだけで、年齢構成の分析や、部署ごとの人員配置の把握ができます。

第二に、「離職データ」。退職日、退職理由(自己都合か会社都合か)、在籍期間、退職時の部署と上司。可能であれば、退職面談で聞いた退職の本当の理由も記録する。このデータがあれば、「どの時期に」「どの部署で」「どんな理由で」人が辞めているかがわかります。

第三に、「採用データ」。採用チャネル(求人媒体、紹介、ハローワークなど)、応募者数、面接数、内定数、入社数、採用コスト。チャネル別の効率を把握し、投資の最適化ができます。

第四に、「残業データ」。部署別、個人別の月次残業時間。残業が多い部署や個人は、業務量の偏りやメンタルヘルスのリスクを示している可能性があります。

第五に、「有給休暇の取得データ」。部署別、個人別の有給取得率。取得率が低い部署は、業務量の問題や、「休みにくい」雰囲気がある可能性がある。

この5つのデータは、特別なシステムがなくてもExcelで管理できます。既に紙やバラバラのファイルで持っている情報を、一つのExcelシートにまとめるだけ。これが人事データ活用の第一歩です。


Excelで始める人事データ分析——3つの実践例

Excelの基本機能だけで、十分に意味のある人事データ分析ができます。3つの実践例を紹介します。

実践例1:年齢構成の「見える化」。

全従業員の年齢データをExcelに入力し、ヒストグラム(棒グラフ)を作成するだけ。5歳刻みで年齢層別の人数を可視化する。

秋田のある食品メーカーがこの分析をしたところ、「50代が全体の35%」「20代は8%」という偏りが一目瞭然になりました。社長は「感覚では分かっていたが、グラフで見ると衝撃的だ」と語り、若手採用の強化を即決しました。

実践例2:離職の「パターン分析」。

退職者のデータ(退職日、在籍期間、部署、退職理由)をExcelのピボットテーブルで集計する。「入社何年目で辞めているか」「どの部署の離職が多いか」「退職理由の上位は何か」がわかります。

山形のある建設会社では、この分析により「入社2年目の退職が突出して多い」ことが判明。原因を調べると、「入社1年目は先輩がついて教えてくれるが、2年目になると放置される」という構造的な問題が見えてきた。2年目社員のフォロー体制を整備した結果、2年目離職率が半減しました。

実践例3:残業時間の「ヒートマップ」。

部署別×月別の平均残業時間をExcelの条件付き書式で色分けする。残業が多い月が赤、少ない月が緑——こうした「ヒートマップ」を作ると、繁閑のパターンや、特定部署への負荷集中が一目でわかります。

福島のある物流会社では、この分析により「経理部門の3月と4月の残業が突出している」ことが可視化されました。決算対応の業務集中が原因。この時期だけ派遣スタッフを1名追加する対策を取り、経理部門の月平均残業時間が25時間から12時間に改善しました。


「ダッシュボード」を作って経営者に見せる

人事データの分析結果を経営者に伝えるには、「ダッシュボード」が有効です。ダッシュボードとは、重要な指標を一画面にまとめたレポートのこと。

Excelで作れるシンプルなダッシュボードの例です。

月次人事ダッシュボードとして、A4用紙1枚に以下の情報をまとめる。

在籍人数の推移(折れ線グラフ)。部署別の残業時間(棒グラフ)。直近3ヶ月の離職者数と理由。有給休暇の取得率。採用の進捗状況(募集中のポジションと応募状況)。

宮城のある IT企業の人事担当者は、毎月の経営会議で1枚のダッシュボードを提出しています。「数字で人事の現状を報告するようにしてから、経営者の人事への関心が明らかに高まった。以前は『人事の話は後で』と言われていたのに、今は経営者から『あの数字はどうなった?』と聞いてくるようになった」。

ダッシュボードの作成にかかる時間は、月に約2時間。データの更新とグラフの調整だけ。この2時間の投資が、経営者との対話の質を大きく変えます。


データから「アクション」を生む——分析で終わらない仕組み

人事データ活用で最もありがちな失敗は、「分析はしたが、何も変わらない」ことです。データを集めてグラフを作って満足してしまい、具体的なアクションにつながらない。

データ活用のサイクルは、「収集→分析→仮説→アクション→検証」です。分析の後に「なぜこうなっているのか」という仮説を立て、仮説に基づいたアクションを実行し、次のデータで効果を検証する。

岩手のある製造業の例です。データ分析で「20代社員の離職率が30%」であることが判明(収集→分析)。原因を調べると、「先輩社員とのコミュニケーション不足」が主因と推定(仮説)。月1回の「若手×先輩ランチ会」を導入(アクション)。半年後に20代社員の満足度調査を実施し、改善を確認(検証)。

このサイクルを回し続けることが、データ活用の本質です。


次のステップ——クラウド型人事システムの導入

Excelでのデータ管理に慣れてきたら、次のステップとしてクラウド型の人事管理システムの導入を検討するのも良いでしょう。

近年は、中小企業向けのクラウド型人事システムが充実しています。月額1名あたり数百円から利用でき、勤怠管理、給与計算、人事情報管理、ストレスチェック、評価管理などの機能がパッケージになっています。

導入のメリットは、データの入力・集計の手間が大幅に削減されること。Excelでの手動管理では、データの更新忘れ、入力ミス、ファイルの散逸といった問題が起きがちです。システムに一元化することで、常に最新のデータに基づいた分析ができるようになります。

ただし、システムの導入にあたっては注意点があります。

第一に、「ツール先行」にならないこと。「いいシステムを入れれば人事が良くなる」という期待は幻想です。大切なのは、「何のデータを、何の目的で、どう活用するか」を先に考え、それに合ったツールを選ぶこと。

第二に、「運用体制」を整えること。システムを導入しても、データを入力する人がいなければ意味がない。運用ルール(誰が、いつ、何を入力するか)を事前に決めておく。

第三に、段階的に導入すること。全機能を一気に導入すると、現場の混乱を招く。まず勤怠管理から始め、慣れてきたら給与計算、人事情報管理——と段階的に広げるのが現実的です。


人事データの「プライバシー」への配慮

人事データを扱う際に忘れてはならないのが、プライバシーへの配慮です。

人事データには、個人情報が含まれています。氏名、住所、給与額、評価結果、健康情報——これらの情報の取り扱いには、個人情報保護法の遵守はもちろん、社員の信頼を損なわない配慮が必要です。

具体的には、以下のルールを設けることが重要です。

データへのアクセス権の制限。人事データにアクセスできる人を最小限に限定する。「必要な人だけが、必要な情報だけにアクセスできる」原則を徹底する。

データの利用目的の明示。人事データを収集・分析する目的を、社員に説明する。「データは、職場環境の改善と適切な人事判断のために使います。個人を監視するためではありません」——この説明が、社員の安心感につながります。

分析結果の公開範囲の限定。集団分析の結果は経営会議で共有するが、個人レベルの情報は人事担当者と直属の上司のみがアクセスできるようにする。


「数字で語る人事」が経営パートナーへの道

人事データ活用は、人事部門が「管理部門」から「経営パートナー」に進化するための重要なステップです。

「人が辞めています」ではなく「離職率は18%。コストは年間810万円」。「残業が多いです」ではなく「A部署の月平均残業は38時間。B部署の1.5倍。原因は……」。「採用がうまくいっていません」ではなく「応募単価は1名あたり5万円。チャネル別ではリファラルが最もコスト効率が高い」。

数字で語ることで、経営者との対話が変わります。感覚的な議論から、具体的なアクションの議論へ。人事の提案が「要望」から「投資提案」に変わるのです。

東北の中小企業にとって、人事データ活用は「大企業のまね」ではありません。限られた人的資源を最大限に活かすための、最も実践的な経営ツールです。まずはExcelを開くところから、始めてみてください。


もし「人事データ活用を含め、経営に貢献する人事の力を高めたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。

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また、東北で人事に取り組む仲間とつながりたい方は、人事図書館へ。

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