
東北の不動産・住宅企業が営業人材の定着率を高める方法——「辞める営業」を「育つ営業」に変える仕組み
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東北の不動産・住宅企業が営業人材の定着率を高める方法——「辞める営業」を「育つ営業」に変える仕組み
「新しく入った営業が、半年で3人中2人辞めました。残った1人も、辞めようか迷っていると言っています」
宮城のある住宅メーカーの営業部長が、頭を抱えていました。営業の採用にかけた費用は3人で約360万円。研修にかけた時間は延べ200時間。そのすべてが、半年で消えた。
東北の不動産・住宅業界は、営業人材の確保と定着に苦しんでいます。仙台を中心とした住宅需要は堅調ですが、それを支える営業人材が足りない。採用しても定着しない。この「採用→退職→再採用」の繰り返しが、企業の体力を削っています。
不動産・住宅営業の離職率が高い原因は、業界の構造的な問題にあります。成果報酬型の給与体系、長時間労働、土日出勤、お客様との交渉のプレッシャー——これらの要因が重なり、「3年以内に半分が辞める」業界と言われることもあります。
しかし、この構造を「業界の宿命」と諦める必要はありません。人事の工夫によって、営業の定着率を大幅に改善している東北の企業があります。その取り組みを具体的に見ていきましょう。
営業の離職を「経営数字」で捉える
営業の離職が経営にどれだけのインパクトを与えるか、数字で見てみましょう。
仙台のある不動産仲介会社(営業20名)のデータです。
営業1名の年間売上貢献額は平均1,500万円(仲介手数料ベース)。営業1名の採用コストは約120万円(人材紹介手数料が主)。新人営業が一人前になるまでの育成期間は約1年。育成期間中の生産性は、ベテランの30〜50%。1年間の生産性低下による機会損失は約750万円。
つまり、営業1名が1年以内に退職した場合のトータルコストは、採用費120万円+機会損失750万円=約870万円。年間で営業が5名退職すれば、約4,350万円のコスト。売上ではなくコストの話です。
逆に、この5名の退職を3名に減らせれば、年間で約1,740万円のコスト回避。定着施策への投資として年間300万円を使っても、ネットで1,440万円のプラスです。
なぜ不動産・住宅営業は辞めるのか——5つの構造的原因
東北の不動産・住宅企業で退職した元営業社員へのヒアリングから、離職の構造的原因が5つ見えてきました。
第一に、「成果が出ない焦り」。不動産営業は、成約までのリードタイムが長い。住宅営業の場合、初回接客から契約まで数ヶ月かかることも珍しくない。入社して半年間、1件も成約できない。周りの先輩は売っている。焦りが蓄積し、「自分にはこの仕事は向いていない」と辞めてしまう。
第二に、「教育の不足」。「先輩の営業に同行して覚えろ」という教育が主流。体系的な研修がなく、先輩の「自己流」を見様見真似で学ぶ。先輩によって教え方が違い、新人は混乱する。
第三に、「労働時間の長さ」。お客様の都合に合わせた土日出勤、夜間の対応、契約書類の作成——勤務時間が長く不規則。家庭との両立が難しい。
第四に、「精神的プレッシャー」。月次の売上目標、上司からの詰め、お客様からのクレーム——精神的な負荷が高い。特に、「なぜ売れないんだ」と責められ続けると、メンタルが消耗する。
第五に、「キャリアの見通しが立たない」。「営業の先に何があるのか」が見えない。「ずっと飛び込み営業を続けるのか」「年を取ったらどうなるのか」——こうした不安が、離職の引き金になる。
これら5つの原因は、すべて人事施策で対処可能です。一つひとつ、具体的な解決策を見ていきましょう。
解決策1——「売れない期間」を支える育成プログラム
新人営業が最も辛いのは、入社直後の「売れない期間」です。この期間をいかに支えるかが、定着率を左右します。
仙台のある住宅メーカーが導入した「6ヶ月ステップアッププログラム」を紹介します。
1ヶ月目。商品知識と業界知識の徹底的なインプット。座学研修+先輩への同行観察。この段階では成約は求めない。「まず知識を身につけることが仕事だ」という位置づけ。
2〜3ヶ月目。ロールプレイング(模擬商談)を毎日実施。先輩がお客様役を務め、新人が営業役。「お客様はこう言ったとき、どう返す?」——実践に近い形で話術を磨く。ロールプレイの後は必ずフィードバック。
4〜5ヶ月目。先輩の同行のもと、実際のお客様対応を開始。ただし、主担当は先輩。新人は「副担当」として、部分的にお客様とやり取りする。少しずつ実戦経験を積む。
6ヶ月目。独り立ち。ただし、週1回の「メンター面談」で先輩がフォロー。困ったことがあれば、すぐに相談できる体制。
このプログラムの導入前は、新人の6ヶ月以内離職率が45%。導入後は15%に低下。新人の初成約までの期間も、平均8ヶ月から5ヶ月に短縮されました。
プログラムの運営コスト(研修教材、ロールプレイの時間確保、メンターの工数)は年間約100万円。一方、離職率改善と早期戦力化の効果は年間約500万円。
解決策2——「固定給+インセンティブ」のバランス設計
不動産・住宅営業の給与体系は、大きく分けて「固定給中心型」と「インセンティブ中心型」があります。インセンティブの割合が高い「歩合制」は、トップセールスには魅力的ですが、新人や成績が安定しない営業にとっては不安定で、離職の原因になります。
岩手のある不動産会社が見直した給与体系を紹介します。
見直し前。基本給(年齢・経験に応じて)+インセンティブ(成約額の5〜10%)。インセンティブの割合が年収の40〜50%を占めていた。成約できない月は、手取りが大幅に減る。
見直し後。基本給を従来の120%に引き上げ、インセンティブの割合を年収の20〜30%に調整。代わりに、「成約件数」だけでなく「プロセス指標」(来場対応数、追客回数、提案書作成数)にもインセンティブを設定。
この見直しにより、新人の「手取りが不安定」という不安が軽減されました。成約前のプロセスにもインセンティブがつくことで、「まだ売れていないが、頑張りは認められている」という実感が生まれる。
見直し後の1年間で、営業の離職率が30%から18%に改善。トップセールスの年収はやや下がったが、チーム全体の売上は15%向上。「少数のスーパー営業に依存する」モデルから、「全員が安定して売る」モデルへの転換が進みました。
解決策3——「チーム営業」で個人の孤立を防ぐ
不動産・住宅営業は、伝統的に「個人プレー」の色が強い業界です。自分のお客様、自分の成績、自分のインセンティブ——すべてが個人に帰属する。
しかし、この「個人プレー」の構造が、新人の孤立と離職を招いています。困っても先輩に相談しにくい(先輩もライバルだから)。チームの一体感がない。成績が悪いと居場所がなくなる。
福島のあるハウスメーカーは、営業体制を「個人営業」から「チーム営業」に切り替えました。3〜4名のチームを編成し、チームで目標を持つ。お客様対応も、チームのメンバーが分担して行う。
チーム営業のメリット。新人は先輩のサポートを受けながら経験を積める。一人のお客様に複数の視点で対応できるため、提案の質が上がる。チームメンバー同士のナレッジ共有が自然に起きる。個人の成績の波が、チーム全体でカバーされる。
チーム営業の導入後、新人の1年以内離職率が40%から12%に低下。チームの売上は、個人営業時代と比べて平均20%向上。「一人で抱え込まなくていい」という安心感が、営業の精神的な負荷を大きく軽減しています。
解決策4——「営業の先」のキャリアパスを示す
営業の離職を防ぐには、「この先どうなるのか」というキャリアの見通しを示すことが重要です。
仙台のある不動産会社では、営業社員のキャリアパスを4つ示しています。
マネジメントルート。営業チームのリーダー→営業部長→支店長。人を育て、チームの成果を最大化する役割。
スペシャリストルート。トップセールスとして成約を追求し続ける。個人の営業力を武器に、高難度の案件を担当。
企画・マーケティングルート。営業経験を活かして、広告企画、集客戦略、商品企画を担当。「売る人」から「売れる仕組みを作る人」へ。
資産コンサルティングルート。不動産の知識と営業経験を活かして、お客様の資産形成をトータルでサポートする。FP資格や不動産鑑定士の資格取得を支援。
このキャリアパスの明示は、採用にも効果があります。「営業だけじゃなく、将来は企画やマネジメントもできる」という情報が、候補者の幅を広げている。
解決策5——「土日出勤」への対処
不動産・住宅営業で避けられないのが、土日の出勤です。お客様が休日に来場するため、営業は土日が稼働日。これが「プライベートの時間がない」という不満の原因になっています。
完全に土日を休みにすることは難しいかもしれません。しかし、工夫の余地はあります。
宮城のある住宅メーカーの取り組みです。月1回の「土日連休」を保証。その月の他の週は通常通り土日出勤だが、月に一度は必ず土日が連続で休める。これにより、「家族との時間」「友人との予定」が確保できる。
平日の代休取得を徹底管理。土日出勤した分の代休を、翌週中に必ず取得するルールを厳格に運用。「代休が溜まっている」状態を許さない。
シフト制の導入。営業全員が毎週土日出勤するのではなく、交代制にする。「今週の土曜はAチーム、日曜はBチーム」というローテーション。これにより、月の半分は土日の片方が休める。
これらの施策により、「不動産営業=休みなし」というイメージが緩和され、定着率の改善に貢献しています。
東北の不動産市場と営業の役割の変化
東北の不動産市場は、地域によって状況が異なります。仙台は人口が増加し、住宅需要が堅調。一方、地方部では人口減少に伴い、空き家問題や不動産価値の下落が進んでいます。
この市場の変化に伴い、不動産営業に求められる役割も変わりつつあります。単に「物件を紹介する」だけでなく、「お客様のライフプランに寄り添い、最適な住まいを提案する」コンサルティング型の営業が求められている。
東北の不動産・住宅企業がこの変化に対応するには、営業人材の質的な強化が不可欠です。そのためには、営業が辞めずに成長し続ける環境を作ることが、経営の根幹になります。
「辞める営業」を「育つ営業」に変える。それは制度とマネジメントの力で実現できるのです。
もし「不動産・住宅営業の定着を含め、経営に貢献する人事の力を高めたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。
また、東北で営業人材の育成・定着に取り組む仲間とつながりたい方は、人事図書館へ。
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