
東北の企業がエンゲージメントサーベイを活用する方法——「調査して終わり」から脱却し、組織を動かすデータに変える
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東北の企業がエンゲージメントサーベイを活用する方法——「調査して終わり」から脱却し、組織を動かすデータに変える
「エンゲージメントサーベイを導入しました。結果も出ました。でも、この数字を見て、次に何をすればいいのかがわからないんです」
仙台のある中堅商社の人事課長から受けた相談です。私はこの相談を受けたとき、「東北の多くの企業が同じ壁にぶつかっているだろう」と感じました。
エンゲージメントサーベイは、ここ数年で東北の企業にも急速に広がりました。クラウド型のサーベイツールが手頃な価格で利用できるようになり、従業員50名規模の企業でも導入するケースが増えています。
しかし、「サーベイを実施すること」と「サーベイを活用すること」は、まったく別の話です。私が見てきた限り、東北の企業でサーベイ結果を本当に活用できている企業は、導入企業の2割にも満たないのではないかと感じています。残りの8割は、「結果を見て『なるほど』と思い、そのまま引き出しにしまう」パターンです。
サーベイに回答する社員の立場で考えれば、これほど士気を下げることはありません。「会社が『あなたの声を聞かせてください』と言うから正直に答えた。でも、何も変わらなかった」——この体験が繰り返されると、サーベイへの回答率は下がり、正直な回答も減り、サーベイ自体が形骸化します。
私がこれまで東北の企業でエンゲージメントサーベイの導入・活用を支援してきた経験から、「調査して終わり」にしないための具体的な方法をお伝えします。
エンゲージメントサーベイの導入状況——東北の現実
まず、東北の企業におけるエンゲージメントサーベイの導入状況を私の経験からお話しします。
仙台を中心に、従業員100名以上の企業ではサーベイの導入率が高まっています。一方、50名以下の中小企業では「サーベイ?そんなことやる余裕はない」という反応がまだ多い。
しかし、私が注目しているのは導入率よりも「活用率」です。サーベイを導入した企業のうち、結果に基づいて具体的な施策を実行した企業は、私の感覚では2〜3割。結果を経営会議で報告しただけの企業が4〜5割。結果を誰も見ていない企業すらあります。
秋田のあるサービス業(従業員80名)では、1年前にクラウド型サーベイを導入し、年2回実施していました。しかし、結果レポートは人事担当者のパソコンに保存されたまま。社長にも報告されておらず、現場の管理職も結果を知らない。「サーベイの費用が年間40万円。何のために払っているのかわからない」と総務部長が嘆いていました。
このケースは極端に見えるかもしれませんが、似た状況の企業は少なくありません。問題は「サーベイを導入したかどうか」ではなく、「サーベイ結果を組織の行動に変換できるかどうか」なのです。
サーベイ結果の読み方——3つの視点
サーベイ結果をどう読むか。私が東北の企業に提案している「3つの視点」を紹介します。
第一の視点は、「全体傾向」。会社全体のエンゲージメントスコアがどの水準にあるか。業界平均や前回調査との比較で、「上がったか、下がったか」を確認する。ただし、この「全体傾向」だけで一喜一憂するのは危険です。全体スコアが高くても、特定の部署や特定の層が深刻な問題を抱えていることがあります。
第二の視点は、「部署別・層別の比較」。部署ごと、年代ごと、職種ごとにスコアを分解して比較する。「営業部のエンゲージメントは高いが、製造部は低い」「20代のスコアが極端に低い」——こうした差異の中に、具体的な課題が隠れています。
岩手のある機械メーカー(従業員100名)でサーベイ結果を部署別に分析したところ、品質管理部門のスコアが全社平均を30ポイント下回っていました。詳しく調べると、品質管理部門の管理職が独断的なマネジメントをしており、メンバーが意見を言えない状態になっていた。全体スコアだけ見ていたら、この問題は見えなかったでしょう。
第三の視点は、「自由記述の分析」。定量データだけでなく、自由記述欄のコメントから定性的な情報を読み取る。数字には表れない「声のトーン」「具体的な不満」「潜在的な期待」が自由記述に表れます。
ある仙台の企業では、自由記述に「評価がブラックボックス」という表現が複数件見られました。定量データでは「評価制度への満足度」が中程度でしたが、自由記述を読むと不満の深さがわかった。数字だけでは見えない組織の本音が、自由記述には書かれています。
結果のフィードバック——「隠さず伝える」ことの重要性
サーベイ結果を社員にフィードバックしない企業が、東北には非常に多い。私はこれが最大の問題だと考えています。
「結果を公開したら、不満が爆発するんじゃないか」「悪い数字を見せたら、社員のモチベーションが下がるんじゃないか」——経営者がこう心配する気持ちはわかります。しかし、結果を隠すことの方が、はるかに大きなダメージを生みます。
社員は「自分たちが回答したサーベイの結果がどうなったか」を知りたがっています。結果が公開されなければ、「都合の悪い結果だったから隠したんだ」「どうせ何も変わらない」と推測する。次回のサーベイでは正直に回答しなくなる。
私が東北の企業に推奨しているフィードバックの方法は、「全社フィードバック + 部署別フィードバック」の2段階です。
全社フィードバックでは、全社ミーティング(または全社メール)で、サーベイの主要結果と会社としての受け止めを伝えます。「今回のサーベイの結果、○○の項目が前回より改善しました。一方で、△△の項目に課題があることがわかりました。この課題に対して、今後こういう取り組みを検討します」——結果を隠さず、かつ「次のアクション」をセットで伝えることが重要です。
部署別フィードバックでは、各部署の管理職がチームメンバーに、部署のサーベイ結果を共有し、「何が課題か」「どう改善するか」を一緒に話し合います。この対話の場が、エンゲージメント向上の起点になります。
山形のある製造業(従業員65名)では、全社フィードバックの場で社長自ら「正直に言って、この結果は厳しい。しかし、皆さんが正直に答えてくれたからこそ見えた課題です。この結果に向き合います」と発言しました。社員からは「社長がちゃんと受け止めてくれた」と好意的な反応が返ってきました。
サーベイ結果から施策へ——「3つの絞り込み」のフレームワーク
サーベイ結果を見ると、改善したい項目がたくさん出てきます。しかし、すべてに同時に手をつけることは不可能です。特に東北の中小企業では、人事のリソースが限られている。
私が東北の企業に提案しているのは、「3つの絞り込み」によって最優先の施策を1〜2つに絞るフレームワークです。
絞り込み1:「影響度」。その項目のスコアが低いことが、離職や業績にどの程度影響するか。「上司との関係」「仕事のやりがい」「成長機会」は影響度が高い項目です。一方、「オフィスの環境」「福利厚生の充実度」は影響度が相対的に低い。
絞り込み2:「改善可能性」。その項目を、自社のリソースで改善できるか。「給与水準」は重要ですが、東北の中小企業が急に給与を大幅に上げるのは難しい。「上司のマネジメント」は、研修や面談の仕組みで改善可能性がある。
絞り込み3:「即効性」。改善施策を実行してから、効果が現れるまでの期間。「評価制度の全面改定」は効果が出るまで1年以上かかる。「1on1ミーティングの導入」は、1か月後には効果が見え始める。
この3つの軸で各項目をスコアリングし、「影響度が高く、改善可能性があり、即効性がある」項目を最優先施策として選びます。
仙台のある企業では、サーベイ結果から「上司とのコミュニケーション」の項目が最もスコアが低いことがわかりました。影響度は高い(上司との関係は離職の最大要因の一つ)。改善可能性もある(1on1の導入で対応可能)。即効性もある(来月から始められる)。結果、最優先施策を「月1回の1on1ミーティング導入」に絞り込みました。
施策の実行と効果測定——PDCAを回す
施策を決めたら、次は実行と効果測定です。私が東北の企業に推奨しているのは、「スモールスタート → 効果測定 → 全社展開」のステップです。
いきなり全社で施策を展開するのではなく、まず1〜2部署で試験的に実施する。効果を測定し、必要に応じて修正してから全社に広げる。
郡山のある化学メーカー(従業員120名)のケースです。サーベイ結果を受けて「1on1ミーティング」を導入することを決定。まず、エンゲージメントスコアが最も低かった製造第2課(15名)で試験的に実施しました。
実施方法はシンプルです。課長が部下と月1回30分の面談を行う。テーマは「最近の仕事で感じていること」「困っていること」「やってみたいこと」の3つ。事前準備は不要。ただし、「聞く」ことに徹し、アドバイスや説教はしない。
3か月後に同じ部署にミニサーベイ(5問程度の簡易調査)を実施したところ、「上司とのコミュニケーション」のスコアが導入前から25ポイント上昇していました。課長本人も「部下のことをこんなに知らなかったのか」と驚いていた。
この結果を社内で共有し、翌四半期から全部署に1on1を展開。全社のエンゲージメントスコアは、半年で前回比12ポイント上昇しました。
サーベイ疲れを防ぐ——頻度と設問設計の工夫
東北の企業でサーベイを運用する際に注意すべきなのが、「サーベイ疲れ」です。
頻繁すぎるサーベイは、回答者の負担になります。かといって、年1回では「半年前の不満を今さら聞いても遅い」という事態になる。
私が推奨しているのは、「年2回の本格サーベイ + 四半期ごとのパルスサーベイ」の組み合わせです。
本格サーベイは50〜60問程度で、年2回(4月と10月など)実施。組織の全体像を把握するための包括的な調査です。
パルスサーベイは5〜10問程度で、四半期ごと(またはもっと頻繁に)実施。「今月の仕事の満足度は?」「チームの雰囲気は?」「上司のサポートに満足しているか?」——短い設問で、組織の「脈拍」を定期的に測る。回答時間は3分以内に収まるように設計します。
青森のあるIT企業(従業員35名)では、毎月5問のパルスサーベイを実施しています。回答はスマートフォンから3分で完了。回答率は毎月90%以上を維持しています。「毎月の変化が見えるので、問題の早期発見ができるようになった」と人事担当者は話しています。
管理職の「サーベイアレルギー」への対処
エンゲージメントサーベイに対して、管理職が抵抗感を示すケースは少なくありません。特に東北では、「部下が上司を評価するなんて」「自分の部署の数字が低かったら恥ずかしい」という反応が出がちです。
私がこの「サーベイアレルギー」に対処するために行っているのは、3つのアプローチです。
第一に、「サーベイは管理職の敵ではなく味方である」と伝えること。サーベイは管理職を監視するためのツールではなく、管理職が「自分のチームの状態を客観的に把握する」ためのツールです。スコアが低い部署の管理職を責めるのではなく、「課題が見えたから、一緒に改善策を考えましょう」というスタンスで接する。
第二に、「管理職自身がサーベイ結果を使って成長する」仕組みを作ること。サーベイ結果を踏まえた「管理職向けコーチング」を提供する。「あなたの部署では『成長機会』のスコアが低いですね。部下にどんな成長機会を提供していますか?」——こうした対話が、管理職のマネジメント力を高めます。
第三に、「成功事例を社内で共有する」こと。サーベイ結果を受けて改善に成功した管理職の事例を、社内で積極的に紹介する。「田中課長のチームは、半年前はスコアが低かったが、1on1を始めてから20ポイント上がった」——こうした事例が、他の管理職のモチベーションになります。
エンゲージメントと経営数字をつなげる
最終的に、エンゲージメントサーベイの価値を経営者に示すためには、エンゲージメントと経営数字の関連を示す必要があります。
私が東北の企業で実際に確認した相関関係をいくつか紹介します。
宮城のある製造業では、エンゲージメントスコアが高い部署ほど不良品率が低いという相関が見られました。スコア上位25%の部署の不良品率は0.8%。下位25%の部署は2.3%。この差は年間で約500万円の品質コストの差に相当します。
福島のあるサービス業では、エンゲージメントスコアと顧客満足度に正の相関がありました。社員のエンゲージメントが高い店舗ほど、顧客満足度調査のスコアも高い。エンゲージメントが10ポイント上がると、顧客満足度が平均5ポイント上がるという関係が見えました。
もちろん、これらは相関関係であり、因果関係を断定することはできません。しかし、「エンゲージメントが高い組織は、業績も良い傾向がある」というデータを経営者に示すことで、サーベイへの投資意欲が高まります。
サーベイは「手段」であり「目的」ではない
最後に、私がエンゲージメントサーベイに関わる中で常に心がけていることを述べます。
サーベイは「組織の状態を可視化するツール」であり、それ自体が目的ではありません。サーベイを実施するだけでエンゲージメントが上がるわけではない。結果を読み解き、対話を重ね、具体的な行動に変換し、その効果を確認する。このサイクルが回って初めて、サーベイは価値を持ちます。
東北の企業には、このサイクルを回す力があると私は信じています。規模が小さいからこそ、サーベイ結果を全社員で共有しやすい。社長と社員の距離が近いからこそ、対話が生まれやすい。東北の企業文化が持つ「互いを気遣う力」が、サーベイを起点にした組織改善を後押しするはずです。
調査して終わりではなく、調査から始まる組織づくり。エンゲージメントサーベイを、そういう「始まりのツール」として活用してほしいと思います。
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