東北の中小企業が「人事ポリシー」を言語化する方法——「うちの会社は人を大切にしています」の一歩先へ
採用・選考

東北の中小企業が「人事ポリシー」を言語化する方法——「うちの会社は人を大切にしています」の一歩先へ

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

東北の中小企業が「人事ポリシー」を言語化する方法——「うちの会社は人を大切にしています」の一歩先へ

「うちの人事の方針? そりゃあ、人を大切にすることですよ。それ以上、何か言うことがありますか?」

福島のある製造業の社長に「御社の人事ポリシーを教えてください」と質問したとき、返ってきた言葉です。私はこの回答が、東北の中小企業の人事の実態を象徴していると感じました。

「人を大切にする」——この言葉自体は素晴らしいものです。しかし、これだけでは人事ポリシーとして不十分です。「人を大切にする」とは具体的にどういうことか。採用において何を重視するのか。評価において何を基準にするのか。育成において何を目指すのか。報酬の考え方は何か。

これらが言語化されていないと、人事に関する判断が場当たり的になります。社長が変われば方針が変わる。管理職によって部下への対応が違う。社員は「この会社は何を基準に人を評価しているのか」がわからない。

人事ポリシーの言語化は、「我が社は、人材に関してこういう考え方で経営する」という宣言です。経営者の頭の中にある暗黙の方針を、言葉にして全社員と共有する。それが、一貫性のある人事運営の基盤になります。

私がこれまで東北の企業で人事ポリシーの策定を支援してきた経験から、具体的な言語化の方法をお伝えします。


なぜ人事ポリシーの言語化が必要なのか——3つの理由

東北の中小企業が人事ポリシーを言語化すべき理由を3つ挙げます。

第一に、「人事判断の一貫性を保つため」。人事に関する判断——採用基準、評価基準、昇進基準、懲戒基準——は、日常的に発生します。これらの判断が、そのときどきの状況や判断者の気分によって変わると、社員の信頼を失います。人事ポリシーが言語化されていれば、「このポリシーに基づいて判断する」という一貫性が保てます。

私が見てきたケースです。宮城のある商社では、ある年は「英語力がある人」を積極採用し、翌年は「営業経験者」を重視し、その翌年は「若い人」を優先する——毎年、採用基準が変わっていました。結果として、「うちの会社がどんな人を求めているのかわからない」と社員も採用担当者も困惑していました。人事ポリシーで「当社が採用において重視する要素」を明確にした結果、採用基準が安定し、入社後のミスマッチも減少しました。

第二に、「社員の行動指針になるため」。「どういう人が評価されるのか」「どういう行動が求められるのか」が明確であれば、社員は自分の行動の方向性を定めることができます。

第三に、「採用ブランディングの武器になるため」。人事ポリシーは、求職者に対して「この会社はこういう考え方で人を大切にしています」と具体的に示すツールになります。「人を大切にする会社です」より、「当社は、挑戦する姿勢を評価し、失敗から学ぶことを奨励します」の方が、求職者の心に刺さります。


人事ポリシーの構成要素——6つの領域

人事ポリシーで言語化すべき領域は6つです。

第一に、「人材観」。当社にとって「人材」とは何か。社員をコストと見るか、投資と見るか。「当社は、社員を事業成長の源泉と考え、人への投資を惜しまない」——このレベルの宣言です。

第二に、「採用ポリシー」。どのような人材を求めるか。スキルを重視するのか、人柄を重視するのか。「当社は、専門スキルよりも、学ぶ意欲と周囲と協力する姿勢を重視して採用する」——このように言語化します。

第三に、「育成ポリシー」。社員の成長をどう支援するか。「当社は、実務経験を通じた成長を最重視し、挑戦的な仕事を任せることで社員の能力開発を促進する」。

第四に、「評価ポリシー」。何を基準に評価するか。「当社は、成果だけでなく、成果に至るプロセスと行動を評価する」。

第五に、「報酬ポリシー」。報酬の考え方。「当社は、業績への貢献度と市場水準を踏まえ、公正で透明な報酬を提供する」。

第六に、「働き方ポリシー」。働き方に関する方針。「当社は、社員の生活と仕事の両立を支援し、柔軟な働き方を推進する」。


人事ポリシーの言語化プロセス——4つのステップ

人事ポリシーを言語化するための具体的なプロセスを紹介します。

ステップ1:経営者の想いを引き出す(1か月目)

まず、経営者が人材に対してどのような考えを持っているかを引き出します。

私が使っている質問リストの一部です。

「どのような人と一緒に働きたいですか?」 「社員に最も期待していることは何ですか?」 「これだけは許せない、という社員の行動はありますか?」 「過去に最も活躍した社員の特徴は何でしたか?」 「会社を辞めてほしくない社員はどんな人ですか?」 「10年後、この会社の社員にどうなっていてほしいですか?」

秋田のある食品メーカーの社長にこの質問をしたところ、「うちの仕事は地味だけど、コツコツ続けることが大事。一発屋はいらない。毎日少しずつ良くしていける人がほしい」という答えが返ってきました。ここから「当社は、継続的な改善の姿勢を持つ人材を高く評価する」というポリシーの原型が生まれました。

ステップ2:現場の声を集める(2か月目)

経営者の想いだけでなく、社員の視点も取り入れます。管理職と一般社員から、「この会社の人事で良いと思うこと」「改善してほしいこと」「会社に期待すること」をヒアリングする。

山形のある建設会社では、全社員30名にアンケートを実施しました。「評価基準がわからない」「キャリアの先が見えない」「頑張りが報酬に反映されない」——こうした声が集まりました。これらの声を踏まえて、人事ポリシーに「評価基準は全社員に公開する」「キャリアパスを明示する」という要素を盛り込みました。

ステップ3:文書化と検討(3か月目)

経営者の想いと社員の声を統合し、人事ポリシーの文書を作成します。

文書のボリュームは、A4で2〜3枚程度。長すぎると読まれません。各領域について、「方針」と「具体的な行動指針」を簡潔に記述する。

ドラフトを経営者と管理職で検討し、修正を加えます。「この表現は抽象的すぎないか」「これは現実的に実行可能か」——こうした視点でブラッシュアップする。

ステップ4:全社への共有と浸透(4か月目以降)

完成した人事ポリシーを全社ミーティングで発表し、社員に配布する。社長自らが「なぜこのポリシーを作ったのか」「何を大切にしたいのか」を語ることが重要です。

仙台のあるIT企業では、人事ポリシーを全社員にカード形式で配布し、デスクに置いてもらっています。また、人事に関する判断(採用、評価、昇進など)のたびに、「このポリシーに基づいて判断しました」と説明する習慣を定着させています。


東北の企業の人事ポリシー事例

実際に東北の企業で策定された人事ポリシーの事例を紹介します(一部抜粋)。

事例1:宮城のある製造業(従業員70名)。

「人材観:当社は、社員一人ひとりがものづくりの主役であると考えます。社員の成長が会社の成長であり、会社は社員の成長に全力で投資します。」

「採用ポリシー:当社は、技術力よりも『学ぶ姿勢』と『チームで働く力』を重視して採用します。入社後に必要な技術は、会社が責任を持って教育します。」

「評価ポリシー:当社は、結果だけでなく、結果に至る『行動』と『改善の努力』を評価します。挑戦して失敗した人を罰するのではなく、挑戦しなかった人に改善を求めます。」

事例2:岩手のあるサービス業(従業員45名)。

「人材観:当社にとって社員は家族です。家族だからこそ、甘やかすのではなく、互いに成長を求め合います。」

「育成ポリシー:当社は、すべての社員に年間1つ以上の新しい挑戦を促します。新しい業務、新しい資格、新しいプロジェクト——何でもかまいません。『去年と同じ自分』でいることを、最大の停滞と考えます。」


人事ポリシーの運用——「額縁の中のお題目」にしないために

人事ポリシーを策定しても、運用されなければ意味がありません。「額縁に飾って終わり」にしないための工夫を紹介します。

第一に、「人事判断の根拠として引用する」。採用面接で「当社は○○を重視しています」と伝える。評価面談で「このポリシーに基づいて、あなたの○○を高く評価しました」と説明する。昇進の決定理由に「ポリシーで定めた基準に照らして」と明記する。

第二に、「年1回の見直しを行う」。事業環境や組織の状態は変化します。人事ポリシーも定期的に見直し、必要に応じて修正する。ただし、「根本的な考え方」は頻繁に変えない。変えるのは「具体的な行動指針」の部分です。

第三に、「新入社員に研修で伝える」。入社時のオリエンテーションで、人事ポリシーを説明する。「この会社は、こういう考え方で人を大切にしています」と最初に伝えることで、入社後の行動の指針になります。

福島のある電機メーカーでは、人事ポリシーを策定して3年が経ちます。「ポリシーがあることで、人事に関する議論の土台ができた」と人事部長は話しています。以前は「社長の一言」で人事が動いていたが、今は「ポリシーに照らしてどう判断するか」という議論ができるようになった。これは組織の成熟を示す大きな変化です。


人事ポリシーは「経営者の覚悟の表明」である

最後に、私が人事ポリシーについて最も大切だと考えていることを述べます。

人事ポリシーは、「こうあるべき」という理想論ではありません。「我が社はこうする」という経営者の覚悟の表明です。

「挑戦を評価する」と書いたなら、社員が失敗しても見守る覚悟が要ります。「成長に投資する」と書いたなら、業績が苦しいときでも教育予算を削らない覚悟が要ります。「公正に評価する」と書いたなら、社長の知り合いの子供を特別扱いしない覚悟が要ります。

人事ポリシーの言語化は、経営者が自分自身に問いかける行為です。「自分は本当にそう信じているか。実行する覚悟があるか」——この問いに向き合った言葉だけが、社員の心に届きます。

東北の中小企業には、「言葉にしなくてもわかっている」という文化があります。しかし、組織が成長し、社員が増えるにつれて、「言わなければ伝わらない」ことが増えていく。人事ポリシーの言語化は、その転換点を乗り越えるための第一歩です。

「人を大切にする」の一歩先へ。「どう大切にするか」を言葉にすること。その取り組みが、東北の中小企業の人事を、属人的な運営から組織的な経営へと進化させると私は考えています。

0

人事の知見が集まるコミュニティで、実践知を学びませんか?

人事図書館は、人事のプロフェッショナルが集まる学びのコミュニティです。

関連記事

東北の企業が「採用候補者体験(CX)」を向上させる方法——応募者が「この会社を受けてよかった」と思う採用活動を設計する
採用・選考

東北の企業が「採用候補者体験(CX)」を向上させる方法——応募者が「この会社を受けてよかった」と思う採用活動を設計する

面接に来た学生さんに御社の印象はどうですかと聞いたら、面接の連絡が遅くて不安でしたと言われました。こちらは忙しくてつい後回しにしていたんですが、応募者にとっては大きなことだったんですね

#採用#評価#研修
東北の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善——「内定を出しても来てくれない」の悪循環を断ち切る
採用・選考

東北の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善——「内定を出しても来てくれない」の悪循環を断ち切る

今年の新卒採用は5名に内定を出して、入社したのは2名。内定辞退率は60%です。毎年こんな感じで、内定を出してからが勝負なんです。でも何をすればいいかわからない

#採用#経営参画#面接
東北の中小企業が「人材紹介会社」との付き合い方を最適化する方法——「高い手数料を払ったのに合わない人が来た」を防ぐために
採用・選考

東北の中小企業が「人材紹介会社」との付き合い方を最適化する方法——「高い手数料を払ったのに合わない人が来た」を防ぐために

人材紹介会社を使ったんですが、紹介された人がうちに全然合わなくて。3か月で辞めました。紹介料の120万円はほぼ丸損。もう使いたくないというのが正直な気持ちです

#採用#研修#経営参画
東北の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法——「事務作業に追われて戦略的なことが何もできない」を解消する
採用・選考

東北の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法——「事務作業に追われて戦略的なことが何もできない」を解消する

毎月の給与計算、社会保険の手続き、年末調整、入退社の事務処理。これだけで手一杯で、本当にやりたい採用戦略や人材育成の企画に手が回りません

#採用#評価#研修