
東北の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法——「人事は現場を知らない」「現場は人事の苦労を知らない」の溝を埋める
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東北の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法——「人事は現場を知らない」「現場は人事の苦労を知らない」の溝を埋める
「人事が決めた制度なんて、現場の実態に合っていない。現場を知らない人間が机の上で考えたものだ」
秋田のある製造業の工場長から聞いた言葉です。一方、同じ会社の人事担当者はこう嘆きました。「現場に制度の説明をしに行っても、『そんな暇はない』と門前払い。協力してもらえないから、制度がうまく回らない」。
私はこの「人事と現場の壁」を、東北の多くの企業で目にしてきました。人事と現場がお互いを理解せず、ときに対立し、結果として制度は形骸化し、組織の課題が放置される。
この壁は、東北の中小企業で特に厚い。理由は、人事の専任担当者がいないケースが多く、総務や経理が人事を兼務しているため、「人事の専門家」として現場から信頼を得にくいからです。また、東北の中小企業では現場の発言力が強く、「現場が回っているならそれでいい」という考えが経営者にもあります。
しかし、人事と現場の壁は放置すれば組織の成長を止めます。評価制度は形骸化し、採用した人材は定着せず、人材育成は後回しになる。
私がこれまで東北の企業でこの壁を壊す取り組みを支援してきた経験から、具体的な方法をお伝えします。
人事と現場の「壁」が生む経営的損失
人事と現場の壁がどれだけの損失を生んでいるか、具体例を紹介します。
事例1:山形のある食品メーカー(従業員80名)で、人事が設計した評価制度が現場で運用されていませんでした。評価シートの提出率は全社で45%。理由は「現場が忙しくて評価シートを書く時間がない」「評価基準が現場の仕事に合っていない」の2つ。結果として、評価が不公平に行われ、不満を持った中堅社員が3名離職。離職による再採用・育成コストは約450万円。
事例2:宮城のある建設会社で、人事が企画した新人研修の内容が現場の実務と乖離していました。研修で学んだことが現場で使えず、新人が「研修は時間の無駄だった」と感じ、モチベーションが低下。入社1年以内の離職率が40%に達していました。
事例3:岩手のあるサービス業で、現場の管理職が「うちの部署は人手が足りない」と訴えていたが、人事はその実態を把握できていなかった。数か月後に管理職が過労で体調を崩し、長期休職。代替人材の確保と管理職の復帰支援に約300万円のコストが発生しました。
「壁」が生まれる3つの構造的原因
人事と現場の壁には、3つの構造的原因があります。
第一に、「情報の非対称性」。人事は制度や法律の知識は持っているが、現場の日常業務の実態を知らない。現場は自分たちの仕事は熟知しているが、人事の仕事内容や制約を理解していない。お互いが「相手が何をしているか知らない」状態です。
第二に、「目標の違い」。人事は「制度の整備」「法令遵守」「公平性の確保」を重視する。現場は「目の前の業務を回すこと」「売上を上げること」「納期を守ること」を優先する。この優先順位の違いが、「人事の言うことは現場の邪魔」「現場は人事に協力しない」という対立を生みます。
第三に、「コミュニケーションの不足」。人事と現場が対話する機会が少ない。制度の通知は一方的にメールや文書で行われ、現場からのフィードバックを受ける仕組みがない。
壁を壊す5つの施策
人事と現場の壁を壊すための具体的な施策を5つ紹介します。
施策1:人事担当者の「現場体験」
人事担当者が定期的に現場の業務を体験する仕組みを作ります。月に1日、人事担当者が製造ラインで作業する。営業部門に同行して顧客訪問する。実際に現場の仕事を体験することで、「現場の大変さ」と「現場の論理」を理解できるようになります。
福島のある電機メーカーでは、人事担当者(2名)がそれぞれ月1回、半日の現場体験を行っています。最初は現場から「何しに来たんだ」という冷ややかな反応でしたが、半年続けるうちに「人事の○○さんは現場のことをわかってくれている」という信頼が生まれました。人事担当者自身も「現場を知った上で制度を設計するようになり、現場からの抵抗が減った」と語っています。
施策2:現場の管理職を「人事のパートナー」にする
人事の仕事を人事部門だけで抱え込まず、現場の管理職を「人事のパートナー」として巻き込みます。
具体的には、評価制度の設計、研修プログラムの企画、採用面接——これらの人事業務に現場の管理職を参加させます。「自分たちが参加して作った制度」は、現場の理解と協力を得やすい。
仙台のある商社では、人事制度の改定にあたって「人事制度検討委員会」を設置し、各部署の管理職を委員にしました。月1回の検討会議を6か月間実施。現場の声を反映した制度が完成し、導入時の現場の反発はほとんどありませんでした。
施策3:「人事情報の共有」を定例化する
人事が持っている情報を、定期的に現場の管理職と共有する仕組みを作ります。
月1回の「人事レポート」を管理職に配信する。内容は「今月の採用状況」「離職状況」「研修の実施予定」「人事制度の変更点」など。A4で1枚程度のシンプルなレポートで十分です。
逆に、現場から人事への「現場レポート」も月1回共有する。「今月の業務量の変化」「人員の過不足感」「社員の気になる変化」など。
この双方向の情報共有が、人事と現場の「情報の非対称性」を解消します。
施策4:「共同プロジェクト」を実施する
人事と現場が一緒に取り組むプロジェクトを意図的に作ります。
例えば、「新入社員のオンボーディングプログラムの設計」を人事と現場の共同プロジェクトとして実施する。人事が全体設計を担当し、現場が業務教育の内容を担当する。共に一つの目標に向かって働くことで、信頼関係が構築されます。
盛岡のある製造業では、「採用面接への現場管理職の参加」を制度化しました。人事が書類選考と日程調整を行い、一次面接は現場の管理職が主導する。「自分が面接して採用した人材だから、責任を持って育てる」という意識が管理職に生まれ、新人の定着率が向上しました。
施策5:「人事と現場の定期対話」の場を設ける
四半期に1回、人事担当者と各部署の管理職が集まり、「人と組織の課題」について対話する場を設けます。
テーマは「今、各部署で人に関して困っていること」。「あのポジションの人が足りない」「チームの雰囲気が悪化している」「ベテランの技術承継が進まない」——現場の管理職が抱えている「人の課題」を人事が直接聞き、一緒に対策を考える。
山形のあるサービス業では、この定期対話を2年間続けた結果、現場の管理職から「人事は味方だ」という声が出るようになりました。以前は「人事は余計な書類仕事を増やすだけの部門」と思われていたのが、「困ったときに相談できるパートナー」に変わった。
人事の役割を再定義する——「管理部門」から「支援部門」へ
壁を壊すためには、人事の役割自体を再定義する必要があります。
従来の人事は「管理部門」——制度を作り、ルールを適用し、手続きを処理する部門でした。しかし、これからの人事は「支援部門」——現場が成果を出すために、人と組織の面からサポートする部門であるべきです。
「管理する人事」は現場から疎まれる。「支援する人事」は現場から頼られる。この転換が、人事と現場の壁を壊す根本的なアプローチです。
青森のあるメーカーの人事担当者は、自分の名刺の肩書きを「人事管理課」から「人材支援課」に変えました。名前を変えただけかもしれません。しかし、「自分たちの仕事は管理ではなく支援だ」という意識の変化は、日常の行動にも表れています。現場に出向く回数が増え、管理職からの相談件数が増え、制度の運用率が向上しました。
人事と現場の「壁」は組織の「壁」である
最後に、私がこの問題について大切にしている考え方を述べます。
人事と現場の壁は、「人事部門の問題」ではなく「組織全体の問題」です。この壁が存在する限り、どんなに優れた人事制度を設計しても現場に浸透しないし、どんなに優秀な人材を採用しても定着しません。
壁を壊すのは、一方の努力だけでは不十分です。人事が現場を理解する努力をすると同時に、現場も人事の役割を理解する必要がある。そして、経営者が「人事と現場の連携は経営の最重要課題だ」と明確にメッセージを出すことが、壁を壊す最大の推進力になります。
東北の中小企業は規模が小さいからこそ、この壁を壊しやすい環境にあります。人事と現場の距離が物理的に近い。顔を合わせれば話せる関係にある。その利点を活かして、「人事は現場を知り、現場は人事を頼る」——そういう関係を築くことが、東北の企業の組織力を高める鍵だと私は考えています。
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