東北の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——「うちの会社はこういうものだから」を問い直す
組織開発

東北の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——「うちの会社はこういうものだから」を問い直す

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

東北の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——「うちの会社はこういうものだから」を問い直す

「うちの会社は昔からこうなんです。社長が決めて、上が言ったことに従う。意見を言っても変わらないから、みんな黙って仕事をしている。それが当たり前になっています」

岩手のある製造業の中堅社員から聞いた言葉です。私はこの言葉の中に、東北の多くの企業が抱える組織風土の課題を感じました。

組織風土とは、その組織に根づいている「暗黙の前提」や「行動の規範」のことです。明文化されていなくても、「うちではこうするものだ」「こういうことは言わないものだ」という不文律として社員の行動を支配しています。

組織風土は目に見えにくい。しかし、採用、定着、生産性、イノベーション——あらゆる経営課題に影響しています。「良い人材を採用しても、組織風土が合わなくてすぐに辞める」「新しいアイデアを提案しても、『前例がない』と却下される」「若手が意見を言いにくい雰囲気がある」——これらはすべて組織風土の問題です。

東北の企業の組織風土には、地域の文化や歴史が色濃く反映されています。上下関係を重視する風土、前例踏襲を好む保守性、本音を言わない控えめさ——これらは東北の文化的特徴でもあり、組織の安定性を支えてきた面もあります。しかし同時に、変化への適応を妨げ、若手の活力を削いでいる面もあります。

組織風土を変えることは容易ではありません。しかし、最初の一歩を踏み出すことはできます。私がこれまで東北の企業で組織風土の変革に関わった経験から、その具体的な方法をお伝えします。


組織風土が経営に与える影響を数字で理解する

組織風土の問題は「なんとなく雰囲気が悪い」という感覚で語られがちですが、経営数字にも明確に影響しています。

宮城のある食品メーカー(従業員90名)で、組織風土に関するアンケートを実施した結果と経営指標を対比した例を紹介します。

「自分の意見を言いやすい」と回答した社員が多い部署は、離職率が8%。「意見を言いにくい」と回答した社員が多い部署は、離職率が25%。「上司からのフィードバックが十分にある」と回答した社員が多い部署は、生産性(一人当たり売上高)が全社平均を15%上回っていました。

組織風土は「人の問題」であると同時に「経営の問題」です。組織風土が悪ければ、人が辞め、生産性が下がり、採用が難しくなる。組織風土が良ければ、人が定着し、生産性が上がり、採用力も高まる。この因果関係を経営者が理解することが、組織風土の改革の出発点です。


東北の企業に見られる3つの組織風土パターン

私が東北の企業で見てきた組織風土の問題は、大きく3つのパターンに分類できます。

パターン1:「トップダウン過剰型」

社長や経営層の意思決定が絶対で、社員は指示に従うだけ。意見を求められることはなく、言っても採用されない。結果として、社員は「考えること」をやめ、指示待ちになる。

秋田のある建設会社で、若手社員に「仕事の改善提案はありますか?」と聞いたところ、「提案しても意味がないから考えたことがない」という答えが返ってきました。この若手は能力が低いのではなく、「考えても無駄」という風土に適応していたのです。

パターン2:「前例踏襲型」

「今までこうやってきたから」が最も強い意思決定基準。新しい方法やツールの導入に対して、理由なく抵抗が生まれる。変化に対する恐れが組織全体に浸透している。

山形のある製造業で、業務効率化のためにITツールの導入を提案したところ、ベテラン社員の反対で見送りになったことがあります。反対の理由は「今のやり方で回っているから」。しかし実態を調べると、「今のやり方」には多くの無駄があり、残業の原因にもなっていました。

パターン3:「本音を隠す型」

表面的には穏やかだが、社員同士が本音を言い合わない。会議では意見が出ず、終わった後の廊下で不満が噴出する。人事評価の面談でも「特に問題ありません」と答え、不満を飲み込んでいる。

東北の文化的な背景——控えめであること、和を乱さないこと——が組織の中で過剰に作用しているケースです。


組織風土を変える最初の一歩——「対話の場」を作る

組織風土を変える最初の一歩は、「対話の場」を作ることです。

大がかりな制度改革や外部コンサルタントの導入ではありません。まず、社員が本音を話せる「場」を作ることから始めます。

具体策1:「社長との対話会」を月1回開催する

社長と社員が直接対話する場を定期的に設ける。参加者は5〜8名程度の少人数。部署やポジションを混ぜて参加する。テーマは「会社をもっと良くするために何ができるか」。

ポイントは、社長が「話を聞く」姿勢に徹することです。社員が意見を言ったときに、即座に否定したり、言い訳をしたりしない。「なるほど、そう感じているんだね」と受け止める。

福島のある電機メーカーの社長が、月1回の対話会を始めて6か月後に語った言葉が印象的です。「最初の2回は誰も何も言わなかった。3回目からぽつぽつ意見が出始めて、6回目にはこちらが驚くような改善提案が出てきた。社員はずっと考えていたんです。言う場がなかっただけで」。

具体策2:「ふりかえりミーティング」を導入する

チーム単位で、月に1回「ふりかえりミーティング」を行う。テーマは3つ。「今月良かったこと」「今月うまくいかなかったこと」「来月試してみたいこと」。

このミーティングの目的は、問題を解決することではなく、「問題を共有すること」です。「うまくいかなかったこと」を話しても批判されない——この経験が、組織の心理的安全性を高めます。

盛岡のあるサービス業では、ふりかえりミーティングを1年間続けた結果、「前は言えなかったことが言えるようになった」「チームの雰囲気が明らかに良くなった」という声が社員から上がっています。

具体策3:「提案制度」を始める

社員が改善提案を出せる仕組みを作る。紙の提案箱でもデジタルでもよい。提出された提案は必ず回答する(「採用する」「検討する」「今回は見送るが理由はこう」)。

重要なのは、「提案を出したこと」自体を評価することです。内容の良し悪しにかかわらず、「提案してくれてありがとう」と伝える。「提案しても意味がない」という諦めの風土を変えるには、「提案は歓迎される」という経験を積み重ねる必要があります。


管理職の行動が組織風土を決める

組織風土は、経営者の方針だけで変わるものではありません。日常的に社員と接する管理職の行動が、組織風土を形成しています。

管理職が部下の意見を聞く姿勢を見せれば、「この会社は意見を言っていい」という風土が生まれる。管理職が失敗を責める姿勢を見せれば、「この会社では失敗できない」という風土が生まれる。

私が東北の企業の管理職に伝えている「組織風土を変える3つの行動習慣」を紹介します。

第一に、「質問する」。部下に指示を出すだけでなく、「あなたはどう思う?」と聞く。最初は「特にありません」という答えが返ってくるかもしれない。それでも聞き続ける。「あなたの意見を聞きたい」というメッセージを繰り返し伝えることが大切です。

第二に、「自分の失敗を共有する」。管理職が自分の失敗談を話すことで、「失敗しても大丈夫」というメッセージになります。「先週の商談でこういうミスをしてしまった。次はこう対処しようと思う」——こうした自己開示が、組織の心理的安全性を高めます。

第三に、「変化を自ら実行する」。「新しいことに挑戦しよう」と言いながら、自分は何も変えない管理職は信頼されません。「来月から、朝礼の進行を若手に任せてみる」「会議の進め方を変えてみる」——小さな変化でもよいので、管理職自身が率先して実行する。

青森のある商社では、管理職向けに「組織風土改革研修」を実施し、これらの行動習慣を半年間実践するプログラムを行いました。研修前と半年後に社員アンケートを実施した結果、「上司に意見を言いやすい」と回答した社員の割合が35%から62%に上昇しました。


「変えるもの」と「守るもの」を区別する

組織風土の改革で重要なのは、「すべてを変える」のではなく、「変えるべきもの」と「守るべきもの」を区別することです。

東北の企業の組織風土には、守るべき良い面もあります。助け合いの精神、お客様を大切にする姿勢、粘り強さ、地域への愛着——これらは東北の企業の強みであり、変える必要はありません。

変えるべきは、「変化を妨げるもの」「人の成長を阻むもの」「経営課題の解決を遅らせるもの」です。

宮城のある建設会社の社長は、組織風土の改革に着手する際に「うちの会社の良いところは何か」を全社員にアンケートで聞きました。「チームワークが良い」「お客様との関係を大切にしている」「困ったときに助け合える」——こうした強みを確認した上で、「では、もっと良くするために変えたいことは何か」を聞いた。このアプローチにより、「すべてを否定されている」と感じる社員が減り、改革への抵抗が小さくなりました。


組織風土の変化を「見える化」する

組織風土の変化は目に見えにくいため、「本当に変わっているのか」がわかりにくい。変化を見える化するために、定期的な測定が重要です。

私が東北の企業に推奨している方法は、半年に1回の「組織風土アンケート」です。質問は10問程度、5段階評価で回答するシンプルなもの。

質問例:「自分の意見を上司や同僚に言いやすいか」「失敗をしたとき、責められるのではなく、学びとして扱われるか」「新しいことに挑戦する雰囲気があるか」「チーム内の情報共有は十分か」「この会社で働き続けたいと思うか」。

このアンケートを定期的に実施し、スコアの推移を追跡する。スコアが上がっていれば施策が効いている証拠。横ばいや低下であれば、施策を見直す必要があります。

山形のあるサービス業では、組織風土アンケートを2年間継続した結果、「自分の意見を言いやすい」のスコアが5点満点中2.1から3.8に改善。同時期の離職率も18%から9%に低下しました。「アンケートの結果が改善していく過程を社員と共有することで、『変わっている』という実感が組織全体に広がった」と人事担当者は語っています。


組織風土の改革には時間がかかる——焦らず、あきらめず

最後に、私が東北の企業に最も伝えたいことを述べます。

組織風土の改革は、半年や1年で完了するものではありません。長年かけて形成された風土は、長年かけて変わっていくものです。

しかし、「時間がかかるから手をつけない」では何も変わりません。最初の一歩を踏み出すことが大切です。それは社長と社員の対話会かもしれないし、ふりかえりミーティングの導入かもしれないし、管理職の行動を変えることかもしれない。

東北の企業は、大きな変化を起こすことは得意ではないかもしれません。しかし、小さな変化を積み重ねることは得意です。「少しずつ、でも確実に」——この東北の気質を活かして、組織風土を良い方向に変えていく。それが東北の企業の持続的な成長を支える土壌になると私は考えています。

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