
仙台のIT企業がアジャイル組織で人事をどう設計するか——「開発はアジャイルなのに人事は昭和」を脱却する
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仙台のIT企業がアジャイル組織で人事をどう設計するか——「開発はアジャイルなのに人事は昭和」を脱却する
「うちの開発チームはスクラムで回しているんですが、人事制度は昔ながらの年功序列です。評価も半年に1回で、開発のスピード感とまったく合っていない。人事制度だけ昭和のままなんですよ」
仙台のあるITスタートアップのCTOから聞いた言葉です。私はこの指摘が、仙台を中心に成長する東北のIT企業が直面している課題を的確に捉えていると感じました。
仙台は東北のIT産業の中心地です。近年、首都圏からの本社機能やR&D拠点の移転、地場のスタートアップの台頭により、IT企業の集積が進んでいます。これらの企業の多くがアジャイル開発の手法を取り入れていますが、人事制度は従来型のままであるケースが少なくありません。
アジャイル開発は「短いサイクルで計画・実行・振り返りを繰り返し、変化に柔軟に対応する」手法です。この考え方は開発プロセスだけでなく、組織運営全体に適用できます。しかし、人事制度が従来型のままでは、組織のアジリティ(俊敏性)にブレーキをかけてしまいます。
仙台のIT企業がアジャイル組織にふさわしい人事をどう設計すべきか、私がこれまで関わってきた経験をもとにお伝えします。
アジャイル組織と従来型組織の違い——人事に何が求められるか
アジャイル組織と従来型の階層型組織では、人事に求められる機能が根本的に異なります。
従来型組織では、人事は「管理」の機能を果たします。等級制度で社員を格付けし、定期的な人事評価で査定し、異動や昇格を管理する。計画を立て、計画通りに実行することが求められます。
アジャイル組織では、人事は「支援」の機能を果たします。チームが自律的に動けるよう環境を整え、個人の成長を促し、変化に素早く対応する。予測不可能な変化に対して、柔軟に対応することが求められます。
この違いを理解しないまま、アジャイル開発を導入している企業が従来型の人事制度を使い続けると、以下のような矛盾が生じます。
「チームで仕事をしているのに、評価は個人単位」。「日々成長しているのに、評価のフィードバックは半年に1回」。「プロジェクトによって役割が変わるのに、固定的な等級制度で格付けされる」。「自律的に動くことが求められるのに、細かい行動管理をされる」。
評価制度——「半年に1回の査定」から「リアルタイムフィードバック」へ
アジャイル組織で最も見直しが必要なのが評価制度です。
仙台のIT企業で私が推奨しているのは、「リアルタイムフィードバック」を中心とした評価の仕組みです。
日常のフィードバックを制度化する
スプリント(通常2週間のサイクル)ごとにレトロスペクティブ(振り返り)を行っている開発チームは多い。ここに「個人の成長フィードバック」の要素を加えます。
具体的には、スプリントの振り返りの最後に5分間、チームメンバー同士が「今回のスプリントで○○さんのここが良かった」「次はこうするともっと良くなると思う」というフィードバックを交換する。
仙台のあるWeb開発会社(従業員30名)では、この仕組みを「スプリントレビュー&フィードバック」として制度化しています。2週間ごとに行われるため、年間26回のフィードバック機会がある。半年に1回の評価面談では、「半年前の話」を振り返ることになりがちですが、2週間ごとのフィードバックならリアルタイムの成長支援が可能です。
四半期ごとの「成長対話」
リアルタイムフィードバックに加えて、四半期に1回(3か月ごと)、上長との「成長対話」を設けます。ここでは、日常のフィードバックを踏まえた上で、「この3か月間の成長」「次の3か月で挑戦したいこと」「キャリアの方向性」について深い対話をする。
従来の評価面談が「査定の場」であったのに対し、成長対話は「支援の場」です。「あなたの仕事を点数でつける」のではなく、「あなたの成長をどう支援できるか」を一緒に考える。
報酬への反映
リアルタイムフィードバックと四半期の成長対話を組み合わせて、半年に1回の報酬見直しに反映させます。報酬決定の根拠が日常のフィードバックと四半期の対話の積み重ねであるため、「何を根拠に報酬が決まったか」が明確になります。
等級制度——「年功序列」から「スキルベース」へ
アジャイル組織では、「何年勤めたか」よりも「何ができるか」が重要です。等級制度もスキルベースに再設計する必要があります。
仙台のIT企業向けに私が設計しているスキルベースの等級制度の例を紹介します。
等級を「ジュニア」「ミドル」「シニア」「リード」「プリンシパル」の5段階に設定します。各等級で求められるスキルと行動を具体的に定義する。
例えばエンジニアの場合——
ジュニア:指示された業務を遂行できる。基本的な技術スキルを持つ。チームメンバーとして協調して働ける。
ミドル:自律的に業務を遂行できる。技術的な課題を自力で解決できる。後輩の指導ができる。
シニア:技術的な意思決定ができる。チーム全体の技術力向上に貢献する。他チームとの連携をリードできる。
リード:チームの技術方針を策定できる。組織全体のアーキテクチャに影響を与える。採用や育成において中核的な役割を果たす。
プリンシパル:組織全体の技術戦略を策定できる。社外にも影響力を持つ。技術コミュニティへの貢献ができる。
この等級制度の特徴は、「年齢や勤続年数」ではなく「スキルと行動」で等級が決まることです。入社3年目でもシニアの能力があればシニアに格付けされるし、入社10年目でもミドルの能力であればミドルのままです。
仙台のあるSaaS企業では、このスキルベースの等級制度を導入した結果、「何をすれば等級が上がるかが明確になった」「年齢に関係なく実力で評価される安心感がある」という声がエンジニアから上がっています。
チーム編成——固定チームか、プロジェクトチームか
アジャイル組織のチーム編成には、大きく2つのアプローチがあります。
一つは「固定チーム」。プロダクトやサービスごとに固定されたチームが継続的に開発・運用を担当する。チームメンバーが安定しているため、チーム内の信頼関係が深まりやすく、暗黙知の共有がスムーズです。
もう一つは「プロジェクトチーム」。プロジェクトごとに必要なスキルを持つメンバーを集めて編成する。プロジェクトが終了するとチームは解散し、次のプロジェクトで新しいチームが組まれる。
仙台のIT企業では、「固定チームを基本としつつ、プロジェクトの規模や内容に応じて一時的なクロスチーム」を組む方式が多い。この場合、人事制度として考慮すべきは、「複数のチームで働いた場合の評価をどうするか」です。
仙台のある受託開発会社では、プロジェクトごとに「プロジェクト評価」を実施し、プロジェクトリーダーがメンバーの貢献度を評価する仕組みを設けています。複数のプロジェクトに参加した場合は、各プロジェクトの評価を総合して最終的な評価を決定する。
キャリアパス——「管理職」一択からの脱却
従来の日本企業では、キャリアアップ=管理職への昇進でした。しかし、IT企業では「優秀なエンジニアが管理職になった途端にパフォーマンスが落ちる」という問題がよく起きます。技術力と管理能力は別のスキルであり、技術のプロフェッショナルが必ずしも優れた管理職になるとは限りません。
アジャイル組織のキャリアパスでは、「マネジメントトラック」と「スペシャリストトラック」の2つの道を用意します。
マネジメントトラック:チームのマネジメント、組織の運営、人材の育成に関心がある人向け。チームリーダー→マネージャー→部門責任者というキャリアパス。
スペシャリストトラック:技術やプロダクトの専門性を深めたい人向け。シニアエンジニア→リードエンジニア→プリンシパルエンジニアというキャリアパス。
重要なのは、両トラックの報酬水準を揃えることです。「管理職にならないと給料が上がらない」では、スペシャリストトラックは形骸化します。リードエンジニアとマネージャーの報酬水準が同等であることで、「自分の適性に合ったキャリアを選べる」という実感が生まれます。
仙台のあるフィンテック企業では、この2トラック制を導入した結果、「マネジメントに興味がないのに管理職を打診されて困っていたエンジニアが、スペシャリストとして生き生きと働くようになった」という変化が見られました。
採用——アジャイル組織にフィットする人材の見極め
アジャイル組織で活躍する人材には、技術スキル以上に「マインドセット」が重要です。
採用面接で確認すべきマインドセットは以下の4つです。
第一に、「自律性」。指示がなくても自分で考えて動けるか。
第二に、「学習意欲」。新しい技術や知識を積極的に学ぶ姿勢があるか。
第三に、「協調性」。チームで働くことを楽しめるか。自分の知識やスキルをチームに共有できるか。
第四に、「変化への適応力」。計画の変更や予期せぬ問題に対して、柔軟に対応できるか。
仙台のある IT企業では、採用面接に「ペアプログラミング」のセッションを取り入れています。応募者とエンジニアが一緒にコーディングすることで、技術スキルだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決のアプローチ、チームワークの質がわかります。
リモートワークとアジャイルの両立
仙台のIT企業では、リモートワークを導入している企業が増えています。アジャイル開発はチームのコミュニケーションが肝心であるため、リモートワークとの両立は大きな課題です。
私が仙台の企業に推奨している方法は、「ハイブリッド型」です。週に2〜3日はオフィスに集まり、対面でスプリント計画やレトロスペクティブを行う。残りの日はリモートで集中して作業する。
人事制度としては、リモートワーク手当の支給、在宅勤務の環境整備費用の補助、オンラインコミュニケーションツールの整備などが必要です。
また、リモートワーク環境での評価方法も再設計が必要です。「オフィスにいる時間」で勤務態度を評価する従来の方法は通用しません。「アウトプットの質と量」「チームへの貢献度」「コミュニケーションの積極性」——成果と行動に基づく評価に切り替える必要があります。
仙台のIT企業だからこそのアドバンテージ
最後に、仙台のIT企業がアジャイル組織の人事を設計する上で活かせるアドバンテージについて述べます。
仙台のIT企業は首都圏に比べて規模が小さい。しかし、規模が小さいからこそ、意思決定が速く、新しい制度を試しやすい。1000人規模の企業で人事制度を変えるには年単位の時間がかかりますが、30〜50人規模の企業であれば、四半期で試行し、効果を検証し、改善することが可能です。
これはまさに「アジャイル的な人事制度設計」です。完璧な制度を目指して長期間かけて設計するのではなく、小さく始めて、短いサイクルで検証・改善を繰り返す。
仙台のIT企業が、アジャイルの考え方を組織全体——人事制度を含めて——に適用することで、首都圏の大手IT企業にはない「柔軟で俊敏な組織」を実現できる。それが仙台のIT産業の競争力になると私は考えています。
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