
東北の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法——「事務作業に追われて戦略的なことが何もできない」を解消する
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東北の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法——「事務作業に追われて戦略的なことが何もできない」を解消する
「毎月の給与計算、社会保険の手続き、年末調整、入退社の事務処理。これだけで手一杯で、本当にやりたい採用戦略や人材育成の企画に手が回りません」
宮城のある中小企業の人事担当者(一人人事)から聞いた言葉です。私はこの状況が東北の中小企業の人事担当者にとって最も切実な悩みだと感じています。
東北の中小企業では、人事担当者が1名、あるいはゼロ(総務が兼務)というケースが珍しくありません。限られた人数で人事のすべてをカバーしようとすると、定型的な事務作業に時間を取られ、本来やるべき戦略的な業務に手が回らない。
この問題を解決する手段の一つが「人事BPO(Business Process Outsourcing)」——人事業務の外部委託です。
しかし、「BPO」という言葉に対して「外注に丸投げするのか」「コストがかかりすぎるのではないか」「東北の企業に対応できるBPO会社があるのか」という疑問を持つ経営者も多い。
私はBPOを「人事の仕事をすべて外に出すこと」とは考えていません。「自社でやるべきこと」と「外に任せた方が効率的なこと」を仕分けし、限られた人事のリソースを最も価値の高い業務に集中させるための手段です。
人事業務の「仕分け」から始める
BPOの活用を考える前に、まず自社の人事業務を仕分けすることが出発点です。
私が東北の企業に行っている仕分けの方法は、人事業務を「戦略業務」「運用業務」「事務業務」の3つに分類することです。
「戦略業務」は、経営に直結する意思決定を伴う業務です。採用戦略の立案、人事制度の設計、人材育成計画の策定、組織開発——これらは自社の経営方針や組織文化を深く理解している人事担当者でなければできない業務です。外部に委託すべきではありません。
「運用業務」は、制度やルールに基づいて実行する業務です。人事評価の運用、研修プログラムの実施、異動・配置の実行——これらは一定のフレームワークに基づいて進められるため、部分的に外部のサポートを受けることが可能です。
「事務業務」は、正確性とスピードが求められる定型的な業務です。給与計算、社会保険の手続き、入退社の事務処理、年末調整、勤怠管理——これらはルールが明確で、専門知識があれば誰でも(自社でも外部でも)実行できる業務です。BPOの最有力候補です。
秋田のある製造業(従業員80名)で、人事担当者(1名)の業務を時間で分析した結果が以下です。
事務業務:月の労働時間の60%(給与計算15%、社会保険手続き10%、勤怠管理10%、入退社事務10%、年末調整等の季節業務15%)。運用業務:月の労働時間の25%(評価制度の運用10%、研修の手配・運営10%、異動の事務5%)。戦略業務:月の労働時間の15%(採用活動10%、制度検討5%)。
事務業務に全体の60%の時間を費やしている。戦略業務にはわずか15%。この配分を、事務業務をBPOに移行することで「戦略業務40%、運用業務35%、事務業務25%」に改善することが目標です。
BPOに委託できる具体的な業務
東北の中小企業が実際にBPOに委託している(または委託可能な)業務を具体的に紹介します。
給与計算
最もBPO活用率が高い業務です。毎月の給与計算、賞与計算、年末調整、住民税の更新——これらをBPO会社に委託する。
BPOのメリットは、「正確性の向上」と「担当者の属人化リスクの解消」です。給与計算は法令改正への対応が必要であり、専門のBPO会社はその対応を組織的に行っています。また、一人人事の場合、その担当者が病気や退職で不在になると給与計算が止まるリスクがありますが、BPOならそのリスクを回避できます。
社会保険・労働保険の手続き
入退社に伴う社会保険の資格取得・喪失手届、算定基礎届、月額変更届、労災保険の手続き——これらの定型的な行政手続きをBPOに委託する。社会保険労務士事務所に委託するケースも多い。
勤怠管理
勤怠データの集計、残業時間の管理、有給休暇の管理——勤怠管理システムの運用をBPO会社に委託する。
採用事務
求人票の作成・掲載、応募者の受付、面接日程の調整、合否通知——採用活動の「事務的な部分」をBPOに委託する。採用の「戦略的な部分」(誰を採るか、どう採るか)は自社で行い、「事務的な部分」(応募者との連絡調整など)を外部に任せる。
山形のある食品メーカーでは、採用事務をBPOに委託したところ、「応募者への返信が24時間以内にできるようになり、応募辞退率が下がった」という効果がありました。一人人事では応募者への返信が数日遅れることもあったが、BPO会社は迅速に対応できるため、採用競争力が向上したのです。
BPOの導入プロセス——失敗しないための5ステップ
BPOの導入で失敗するケースの多くは、「準備不足」が原因です。私が東北の企業にBPO導入を支援する際に推奨している5つのステップを紹介します。
ステップ1:業務の棚卸しと委託範囲の決定
まず、自社の人事業務をすべて洗い出し、「自社でやるべき業務」と「委託可能な業務」を仕分けする。この段階で、各業務の手順、必要な情報、現在のコスト(人件費換算)を整理する。
ステップ2:BPO会社の選定
東北の中小企業がBPO会社を選ぶ際のポイントは4つです。
第一に、「対応範囲」。自社が委託したい業務に対応しているか。
第二に、「東北の企業への対応実績」。東北の中小企業の事情を理解しているBPO会社かどうか。地方の中小企業特有の事情(独自の手当体系、季節雇用の処理など)に対応できるか。
第三に、「コミュニケーション手段」。東北にオフィスがなくてもオンラインで対応できるが、定期的な対面の打ち合わせが可能かどうかも確認する。
第四に、「費用」。月額固定型か、従量制か。自社の規模と業務量に合った費用体系か。
ステップ3:移行準備
BPO会社に業務を移行するために、現在の業務手順を文書化する。「自分の頭の中にある」状態ではBPO会社に引き継げません。この業務の文書化自体が、業務の見える化と標準化につながります。
ステップ4:移行期間(並行運用)
いきなり全面的に移行するのではなく、2〜3か月の「並行運用期間」を設ける。この期間は自社でも業務を行いながら、BPO会社にも同じ業務を行ってもらい、結果を照合する。
ステップ5:運用開始と定期的な見直し
移行完了後も、月に1回はBPO会社との定例ミーティングを行い、業務の品質、課題、改善点を確認する。
BPOのコスト——「高い」は本当か
東北の中小企業の経営者がBPOに踏み切れない最大の理由が「コスト」です。
実際の相場感を紹介します。給与計算のBPO費用は、従業員50名規模で月額5万〜10万円程度が相場です。社会保険手続きを含めると月額8万〜15万円程度。
一方、これらの業務を自社の人事担当者が行う場合のコストはどうか。人事担当者の月給が25万円(年収350万円、社会保険料等含む実質コスト月額35万円)として、事務業務に60%の時間を使っているなら、事務業務の人件費は月額21万円です。
BPO費用の月額10万〜15万円は、自社人件費の月額21万円より安い。しかもBPOに委託することで人事担当者が戦略業務に集中できるようになり、採用力の向上や離職率の低下といった経営効果が期待できる。
盛岡のあるサービス業の社長は、BPO導入前は「高い」と感じていましたが、「人事担当者が採用活動に時間を使えるようになった結果、採用の質が上がり、離職が減り、再採用のコストが下がった。BPOの費用はすぐに回収できた」と語っています。
BPOを活用する上での注意点
BPOの活用で失敗しないための注意点を紹介します。
第一に、「丸投げしない」。BPOはあくまで業務の「実行」を委託するものであり、「管理」は自社で行う。BPO会社の仕事の品質を確認し、問題があれば指摘する。
第二に、「情報セキュリティの確認」。人事データは最も機密性の高い情報です。BPO会社の情報セキュリティ体制(データの保管方法、アクセス制限、守秘義務契約)を必ず確認する。
第三に、「自社の知識を維持する」。給与計算をBPOに出したからといって、自社で給与計算の知識をすべて失ってはいけません。BPO会社との契約が終了した場合に自社で対応できるよう、最低限の知識は維持する。
第四に、「社員への説明」。BPOの導入を社員に知らせ、「個人情報の取り扱いは適切に行われる」ことを説明する。社員が不安を感じないよう、透明性のある対応が必要です。
戦略業務に集中した人事が生み出す価値
BPOによって事務業務から解放された人事担当者が、戦略業務に集中することでどのような価値を生み出せるか、具体例を紹介します。
仙台のある商社(従業員60名)では、BPO導入前は人事担当者が事務業務に追われ、採用活動は「とりあえず求人を出す」だけでした。BPO導入後、人事担当者は採用戦略の立案に時間を使えるようになり、「ターゲット人材の明確化」「自社の魅力の言語化」「面接プロセスの改善」に取り組みました。
結果として、応募者数は前年比1.3倍に増加し、内定辞退率は40%から15%に低下。入社後の定着率も向上しました。この成果は、BPO費用を大きく上回る経営価値を生んでいます。
BPOは「弱さ」ではなく「戦略」である
最後に、私がBPOについて東北の企業に伝えたいことを述べます。
BPOを「自社でできないから外部に頼む」と捉えるのは間違いです。「自社の人事のリソースを最も価値の高い業務に集中させるための戦略的な選択」——それがBPOの本質です。
東北の中小企業の人事担当者は、限られたリソースの中で最大の成果を出すことが求められています。すべてを自分一人でやろうとするのではなく、「自分にしかできないこと」に集中する。そのための手段としてBPOを活用する。
「事務作業に追われて戦略的なことが何もできない」——この状態を脱することが、東北の企業の人事を「管理部門」から「経営のパートナー」に変える第一歩だと私は考えています。
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