東北の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——「制度はあるけど回っていない」を解消する
制度設計・運用

東北の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——「制度はあるけど回っていない」を解消する

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

東北の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——「制度はあるけど回っていない」を解消する

「評価制度、等級制度、目標管理、教育体系、キャリアマップ——全部作ったんです。コンサルタントにお金を払って。でも、どれも回っていません。評価シートの提出率は50%以下。目標管理は形だけ。教育体系は誰も参照していない」

福島のある製造業の人事担当者から聞いた言葉です。私はこの「制度はあるけど回っていない」状態が、東北の中小企業で驚くほど一般的であることを知っています。

制度が回らない原因の多くは、「制度が自社の規模と運用力に合っていない」ことにあります。大企業向けの精緻な制度を中小企業にそのまま持ち込めば、運用する人事担当者の負荷が限界を超え、制度が形骸化する。

東北の中小企業の人事担当者は、多くの場合1名、あるいはゼロ(兼務)です。この体制で複雑な人事制度を回すのは物理的に不可能です。

解決策は「もっと頑張る」ことではなく、「制度をシンプルにする」ことです。人事制度のスリム化——不要な要素を削ぎ落とし、本当に必要な機能だけを残す。シンプルだから運用できる。運用できるから効果が出る。この好循環を生み出すことが、東北の中小企業の人事制度に必要なことだと私は考えています。


「制度が回らない」3つの原因

制度が形骸化する原因を、私が東北の企業で見てきた実例から整理します。

原因1:制度が複雑すぎる

評価項目が30以上ある評価シート。5段階×6項目のマトリクスで構成された等級表。四半期ごとに目標設定・中間レビュー・最終評価の3回面談が必要な目標管理制度。

これらは理論的には正しいかもしれませんが、人事担当者1名で運用するには複雑すぎます。管理職も「また書類か」とうんざりし、適当に記入して提出する。結果として制度は形だけのものになります。

原因2:制度同士の整合性がない

評価制度はA社のコンサルが設計し、等級制度はB社のコンサルが設計し、目標管理制度はC社の書籍を参考に自前で作った——こうしたケースでは、制度同士の整合性がとれていないことが多い。評価の結果が等級に反映されない。目標管理の成果が評価に反映されない。バラバラの制度が並立しているだけの状態です。

原因3:運用のルーティンが確立されていない

「毎年○月に評価を実施する」「評価の結果を○月に昇給に反映する」——この運用カレンダーが確立されていない。「忙しいから来月にしよう」が繰り返され、いつの間にか制度が止まっている。


スリム化の原則——「削る」ことが「加える」ことより難しい

人事制度のスリム化は、「新しい制度を作る」よりも難しい作業です。なぜなら、「削る」ことには抵抗があるからです。「せっかく作ったものを捨てるのか」「この項目をなくしたら問題が起きるのではないか」——こうした不安から、不要な要素を手放せない。

スリム化の原則は3つです。

原則1:「運用できないなら、ないのと同じ」。どんなに優れた制度でも、運用できなければ効果はゼロ。シンプルで確実に運用できる制度の方が、複雑で運用できない制度よりも組織にとって価値があります。

原則2:「80対20の法則」。人事制度の効果の80%は、制度の20%の要素から生まれています。その20%を見極め、残りの80%を削ぎ落とす。

原則3:「完璧を目指さない」。完璧な制度は存在しません。70点の制度を確実に運用する方が、100点を目指して運用できない制度よりも遥かに良い。


評価制度のスリム化

東北の中小企業の評価制度をスリム化する具体例を紹介します。

Before(スリム化前)

評価項目:30項目(業績目標10、能力評価10、行動評価10)。評価段階:5段階(S、A、B、C、D)。評価サイクル:年2回(上期・下期)。面談回数:年4回(目標設定×2、評価面談×2)。評価シート:A4で5ページ。

After(スリム化後)

評価項目:10項目(業績目標3、能力・行動評価7)。評価段階:3段階(上回る、標準、下回る)。評価サイクル:年1回。面談回数:年2回(目標設定・評価面談)。評価シート:A4で1ページ。

秋田のある食品メーカー(従業員50名)で、このスリム化を実施しました。スリム化前は評価シートの提出率が45%でしたが、スリム化後は92%に改善。「1ページのシートなら書ける」「3段階なら迷わずつけられる」と管理職から好評でした。

評価項目を10項目に絞る際のポイントは、「経営の観点で最も重要な項目だけを残す」ことです。「業績への貢献度」「仕事の質」「主体性」「協調性」「成長」——これらの核心的な項目があれば、社員の貢献を十分に評価できます。


等級制度のスリム化

Before

等級数:8等級(一般職4等級+管理職4等級)。等級要件:各等級に20〜30項目の要件を記載。昇格審査:筆記試験+面接+論文。

After

等級数:4等級(一般・中堅・管理職・上級管理職)。等級要件:各等級に5〜7項目の要件を記載。昇格審査:上長推薦+面接。

宮城のある商社(従業員40名)で、8等級から4等級に簡素化しました。社長は当初、「等級が少ないとモチベーションが維持できないのでは」と心配しましたが、実際には「自分が次に目指すべきレベルがわかりやすくなった」と社員からはポジティブな反応でした。

8等級制度では、等級間の違いが曖昧で、「3等級と4等級の違いがわからない」という状態でした。4等級にすることで、各等級の違いが明確になり、社員にとってもわかりやすい制度になりました。


目標管理制度のスリム化

Before

目標数:個人目標5〜7個。目標記述:SMART原則に基づく詳細記述。面談回数:年4回(目標設定、中間レビュー×2、最終評価)。

After

目標数:個人目標3個以内。目標記述:「何を」「いつまでに」「どの水準で」の3要素のみ。面談回数:年2回(目標設定兼評価面談)。

目標管理制度で最も重要なのは「目標が適切に設定されること」と「結果を振り返ること」の2点です。中間レビューは理想的ですが、運用の負荷を考えると、日常のコミュニケーションの中で進捗を確認する方が現実的です。

盛岡のある建設会社では、目標管理をA4半ページのシートで運用しています。目標は3つまで。各目標は1行で記述。このシンプルさが、全社員が目標を設定し、振り返りを行うことを可能にしています。


人事制度の年間運用カレンダーを作る

スリム化した制度を確実に運用するために、「年間運用カレンダー」を作成します。

例として、従業員50名の企業の年間カレンダーを紹介します。

4月:新年度の目標設定面談。5月:新入社員のフォローアップ面談。6月:人事評価の実施期間。7月:評価結果の確定・昇給反映。10月:半期の振り返り面談(カジュアル)。12月:年末賞与の決定。1月:次年度の組織体制・人事計画の検討。3月:次年度に向けた制度の見直し。

このカレンダーを人事担当者だけでなく、管理職にも共有する。「○月は評価の時期」「○月は目標設定の時期」と全員が認識していれば、スケジュール通りに制度が回ります。


スリム化の実践事例——東北の企業が「やめたこと」

東北の企業が実際にスリム化で「やめたこと」の事例を紹介します。

事例1:福島のある食品加工会社では、「自己評価シート」の記入を廃止しました。従来は社員が自分の業務を詳細に記述する自己評価シート(A4で3ページ)を提出し、それをもとに上司が評価していました。しかし、自己評価シートの記入に社員が1人あたり2〜3時間を費やしており、「記入すること自体が負担」という声が多かった。廃止後は、上司との面談の中で口頭で振り返りを行い、上司が面談メモとして簡潔に記録する方式に変更。「紙に書く作業がなくなって楽になった」「面談の会話の方がよほど本音が出る」と社員・管理職の双方から好評でした。

事例2:青森のある商社では、「研修受講報告書」の提出を廃止しました。外部研修を受講した社員が、毎回A4で2ページの報告書を提出する制度がありましたが、内容は形式的なものばかりで、人事も管理職もほとんど読んでいなかった。代わりに、研修後のチームミーティングで5分間の「学び共有」を行う方式に変更。報告書より短い時間で、より実践的な学びの共有ができるようになりました。

事例3:秋田のある建設会社では、「360度評価」を廃止しました。数年前に導入した360度評価は、理論的には多面的な評価ができるものの、運用が複雑で回答率が低下し、結果的に信頼性の低いデータになっていた。廃止後は「上司評価+自己振り返り面談」というシンプルな方式に戻し、運用率が回復しました。


スリム化で「捨ててよいもの」と「残すべきもの」

スリム化で捨ててよいものと残すべきものの判断基準を示します。

捨ててよいもの。形だけ残っている手続き。「何のためにやっているかわからない」と管理職が感じている評価項目。一度も参照されたことのないマニュアルや体系図。複雑なスコアリングの仕組み。

残すべきもの。評価の透明性を確保する仕組み。社員との対話の機会(最低年1回の面談)。報酬決定の根拠となる評価の記録。法令で義務づけられている手続き。

山形のある製造業では、スリム化の際に「過去1年間で一度も参照されなかった文書やツール」をリストアップし、削除候補としました。結果として、人事関連の文書の40%が削減されました。


スリム化は「手抜き」ではない

最後に、人事制度のスリム化について私が伝えたいことを述べます。

スリム化は「手抜き」ではありません。「本当に必要なことに集中するための戦略的な判断」です。

東北の中小企業の人事担当者は、限られた時間とエネルギーの中で最大の成果を出すことが求められています。複雑な制度の運用に時間を取られるのではなく、シンプルな制度をきちんと回した上で、残った時間を採用、育成、組織開発といった戦略的な業務に使う。

「シンプルだから動く。動くから効く。効くから続く」——この循環を生み出すことが、東北の中小企業の人事制度に求められていることだと私は考えています。

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