
東北の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——制度を削ることで、人事はもっと動ける
目次
- なぜ東北の中小企業で人事制度が重くなるのか
- 原因1:大企業向けの制度をそのまま導入してしまう
- 原因2:「あったほうがいい」の積み重ね
- 原因3:「やめる」判断ができない
- スリム化の前提——「何のための制度か」を再定義する
- スリム化の具体的な方法——5つのアプローチ
- アプローチ1:評価項目を「最大10個」に絞る
- アプローチ2:等級を「5段階以内」にする
- アプローチ3:面談の回数を減らし、質を上げる
- アプローチ4:紙とExcelの運用を1つのツールに集約する
- アプローチ5:「やめる制度」を決める
- スリム化を進める際の注意点
- 削ってはいけないもの:報酬決定のルール
- 削ってはいけないもの:昇格の基準
- 削ってはいけないもの:法令で義務づけられた運用
- スリム化の進め方——3ステップ
- ステップ1:現状の棚卸し
- ステップ2:経営者との合意
- ステップ3:社員への説明と移行
- 東北のある会社の事例——「引き算」から始まった改革
- スリム化した制度を「育てる」という発想
- 制度を削ることで、人事はもっと動ける
東北の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——制度を削ることで、人事はもっと動ける
「人事制度を作ったんですが、誰も運用できていません。私一人では回しきれなくて、結局、評価シートは形だけ配って終わりです」
山形のある食品加工会社で人事を担当している方から、こんな相談を受けたことがあります。従業員80名ほどの会社で、人事担当者は1人。数年前にコンサルタントに依頼して評価制度、等級制度、報酬制度を一式導入したそうですが、運用が重すぎて形骸化していました。
私はこの話を聞いたとき、「制度が悪いのではなく、制度の量と会社の体力が合っていないのだ」と感じました。東北の中小企業には、大企業と同じ粒度の人事制度を入れてしまい、その運用に疲弊しているケースが少なくありません。
人事制度は、あることが良いのではなく、動いていることが良いのです。動かせない制度は、むしろ組織の足かせになる。だからこそ、「スリム化」という選択肢を真剣に検討する価値があります。
なぜ東北の中小企業で人事制度が重くなるのか
東北の中小企業で人事制度が運用不全に陥る原因を、私はこれまでの経験から大きく3つに整理しています。
原因1:大企業向けの制度をそのまま導入してしまう
人事制度を外部のコンサルタントに依頼する場合、そのコンサルタントの経験値が大企業中心であることが多い。結果として、従業員100名以下の会社に、等級が7段階、評価項目が30個以上、半期ごとに目標設定と中間面談と最終評価の3回の面談が必要——という制度が出来上がる。
宮城のある部品メーカーでは、導入されたコンピテンシー評価の項目が42個もありました。管理職1人が部下5人を評価するだけで、42項目×5人=210個の評価をつけなければならない。これを半年に一度やるだけで、管理職は「もう勘弁してくれ」と音を上げていました。
原因2:「あったほうがいい」の積み重ね
人事制度は、一度作ると「減らす」よりも「増やす」方向に動きやすい。360度評価があったほうがいい、1on1制度もあったほうがいい、キャリア面談もあったほうがいい——こうして制度が積み上がっていきます。
しかし、それぞれの制度を運用するための工数は確実に増えていきます。東北の中小企業で人事専任者が1〜2名という環境では、制度が3つ増えるだけで運用が破綻します。
原因3:「やめる」判断ができない
一度導入した制度を廃止するのは、心理的なハードルが高い。「せっかくコンサルに数百万円払って作ったのに」「社員にも説明したのに、今さらやめるとは言えない」——こうした声は東北のどの会社でも聞きます。
しかし、運用されていない制度を残し続けることのコストも大きい。社員は「制度はあるけど機能していない」と感じ、人事や会社に対する信頼感が下がる。形だけの評価面談を年2回やらされることへの不満は、じわじわと組織を蝕みます。
スリム化の前提——「何のための制度か」を再定義する
人事制度をスリム化する前に、まず「自社にとって人事制度は何のためにあるのか」を再定義する必要があります。
制度の目的を大きく分けると、次の3つになります。
第一に、「事業に必要な人材を確保し、適切に配置する」。これは等級制度や配置の仕組みに関わります。
第二に、「社員の貢献を公正に評価し、報酬に反映する」。これは評価制度と報酬制度の役割です。
第三に、「社員の成長を支援し、組織の能力を高める」。これは育成制度やキャリア支援の仕組みです。
ここで重要なのは、3つすべてを同じ精度で制度化する必要はないということです。たとえば、従業員50名の会社であれば、社長や部門長が日常的に社員の仕事ぶりを見ているので、精緻な評価制度がなくても公正な評価はできるかもしれない。一方で、報酬の決め方だけは透明なルールがないと不満が噴出する。
自社にとって「制度として仕組み化すべきこと」と「日常のマネジメントで十分なこと」を仕分けること。これがスリム化の出発点です。
スリム化の具体的な方法——5つのアプローチ
ここから、人事制度をスリム化する具体的な方法を紹介します。私がこれまで東北の中小企業と関わる中で、実際に効果があったアプローチです。
アプローチ1:評価項目を「最大10個」に絞る
評価項目が20個も30個もある制度を、まず10個以下に絞ります。削減の基準は「この項目で差がつくか」です。
全員が同じように評価される項目は、評価項目としての機能を果たしていません。たとえば「報連相ができる」「時間を守る」といった項目は、ほぼ全員が○になるので評価の差別化には寄与しない。こうした項目は「行動規範」として別途整理し、評価項目からは外す。
秋田のある建設会社では、評価項目を25個から8個に減らしました。評価にかかる時間が半分以下になり、管理職から「評価がやりやすくなった」と好評だったそうです。しかも、評価結果の分布は項目数が多かったときとほとんど変わらなかった。つまり、25個のうち17個は「あっても意味のない項目」だったわけです。
アプローチ2:等級を「5段階以内」にする
等級制度は、段階が多いほど運用が複雑になります。東北の中小企業であれば、3〜5段階で十分です。
たとえば、「新人」「一人前」「チームリーダー」「部門マネージャー」「経営幹部」の5段階。各等級の定義は、A4用紙1枚に収まる程度にシンプルにする。
福島のあるサービス業の会社では、もともと7段階あった等級を4段階に統合しました。等級間の違いが明確になり、社員からも「自分がどこにいて、次に何をすれば上がれるかがわかるようになった」という声が出たそうです。
アプローチ3:面談の回数を減らし、質を上げる
目標設定面談、中間面談、最終評価面談、キャリア面談——これらを全部やると、管理職は年間で部下1人あたり4〜6回の面談をこなさなければなりません。部下が5人いれば20〜30回。
スリム化の方法は2つあります。1つは、面談の回数自体を減らすこと。年2回の評価面談に統合してしまう。もう1つは、公式な面談は年2回にして、日常的な対話を「非公式の1on1」として推奨すること。
岩手のある製造業の会社では、年4回の面談を年2回に減らし、その代わりに毎月の朝礼で部門長が「今月の組織の状況」を共有する時間を設けました。面談の回数は減りましたが、日常のコミュニケーション量はむしろ増えたそうです。
アプローチ4:紙とExcelの運用を1つのツールに集約する
東北の中小企業では、評価シートはExcel、目標管理は紙、勤怠は別のシステム——というように、人事情報がバラバラに管理されていることが多い。これだけで運用負荷は数倍になります。
ここでのスリム化は、必ずしも高価な人事システムを導入することではありません。Googleスプレッドシートに集約するだけでも、「1つの場所で全部見られる」状態になれば運用は格段に楽になります。
青森のある小売業の会社では、これまで5種類のExcelファイルで管理していた人事情報を、Googleスプレッドシート1つに集約しました。入力工数が3分の1になり、「データが最新かどうかわからない」という問題も解消されたそうです。
アプローチ5:「やめる制度」を決める
最も効果が大きいのは、「この制度はやめる」と明確に決めることです。
やめる候補を見つける基準は、「この制度がなくなったら、何が困るか?」を問うことです。答えが「特に困らない」「形だけやっていたから」であれば、それはやめても問題のない制度です。
宮城のある物流会社では、年に一度の自己申告制度をやめました。毎年全社員に自己申告書を書かせていましたが、回収率は60%程度で、回収しても人事が読むだけで何にも活用されていなかった。やめたことに対して社員からの不満はゼロだったそうです。むしろ「あの面倒な書類がなくなって助かった」と喜ばれた。
スリム化を進める際の注意点
スリム化は「何でも削ればいい」という話ではありません。削ってはいけないものを見極めることが重要です。
削ってはいけないもの:報酬決定のルール
給与や賞与がどう決まるかのルールは、透明性が確保されていなければ社員の不満と不信につながります。評価項目はシンプルにしても、「評価がどう報酬に反映されるか」の仕組みは残す必要があります。
削ってはいけないもの:昇格の基準
「何ができたら次の等級に上がれるのか」の基準がないと、昇格が社長の一存で決まる「ブラックボックス」になり、社員のモチベーションが下がります。等級数は減らしても、昇格基準は明確に。
削ってはいけないもの:法令で義務づけられた運用
労働時間管理、有給休暇の取得記録、安全衛生管理——これらは法令上の義務であり、スリム化の対象ではありません。
スリム化の進め方——3ステップ
スリム化を組織的に進めるための手順を紹介します。
ステップ1:現状の棚卸し
まず、自社で運用しているすべての人事制度・仕組みを一覧にします。評価制度、等級制度、報酬制度、面談制度、目標管理、研修制度、自己申告制度、異動制度——漏れなく洗い出す。
次に、それぞれについて「運用頻度」「運用工数」「運用品質(きちんと機能しているか)」を3段階で評価します。「工数が高いのに品質が低い」制度が、スリム化の第一候補です。
ステップ2:経営者との合意
スリム化は、人事担当者だけで進めてはいけません。経営者に「なぜスリム化が必要か」「何をやめて何を残すか」を説明し、合意を得ることが必要です。
経営者への説明で効果的なのは、「運用コスト」を数字で示すことです。「評価制度の運用に、管理職全体で年間○○時間を投じています。これを半分にすることで、○○時間を本業に振り向けられます」——こうした具体的な数字があれば、経営者も判断しやすくなります。
ステップ3:社員への説明と移行
制度をやめたり簡素化したりする場合、社員への丁寧な説明が必要です。「なぜ変えるのか」「何が変わるのか」「社員にとってのメリットは何か」を伝えること。
「制度を減らす=人事が手を抜く」と受け取られないよう、「制度を簡素化することで、人事がもっと一人ひとりに向き合える時間を作る」というメッセージを添えることが大切です。
東北のある会社の事例——「引き算」から始まった改革
山形のある機械部品メーカーの事例を紹介します。従業員70名、人事担当者は1名。
この会社は5年前に人事制度を一式導入しましたが、運用が回らず、評価面談は形だけ、目標管理シートは提出率50%以下、等級制度は社員の半数が「自分の等級を知らない」状態でした。
人事担当者は悩んだ末に、「まず制度を減らす」ことを決断しました。具体的に行ったのは、次のことです。
評価項目を28個から7個に削減。自己申告制度を廃止。面談回数を年4回から年2回に変更。等級を6段階から4段階に統合。目標管理シートをA4一枚に簡素化。
結果として、評価面談の実施率は100%に改善。社員からは「何を評価されているかがわかるようになった」「面談が意味のあるものになった」という声が出ました。人事担当者も「運用に追われる時間が減って、社員と個別に話す時間が増えた」と話しています。
この事例から学べるのは、「制度は多ければいいわけではない」ということです。自社の規模と体力に合った制度の量があり、それを見極めることが人事の仕事です。
スリム化した制度を「育てる」という発想
制度をスリム化した後は、残した制度の質を高めていく段階に入ります。
ここでのポイントは、「完成形を最初から作ろうとしない」ことです。スリム化した制度を1年間運用し、現場の声を聞き、改善点を見つけ、翌年に反映する。このサイクルを回すことで、制度は自社に合ったものに育っていきます。
東北の中小企業にとって、人事制度は「買うもの」ではなく「育てるもの」です。外部から持ち込んだ完璧な制度よりも、自社で試行錯誤しながら作り上げたシンプルな制度のほうが、はるかに機能します。
制度を削ることで、人事はもっと動ける
最後に、スリム化の本質について述べます。
人事制度のスリム化は、人事が楽をするためではありません。制度の運用に追われている時間を、もっと価値のある仕事——社員との対話、組織課題の分析、経営者への提案——に振り向けるためです。
東北の中小企業で一人人事をしている方の多くは、制度の管理だけで手一杯になっていると思います。しかし、人事の本来の仕事は、制度を管理することではなく、人と組織を通じて事業に貢献することです。
制度を削る勇気を持つこと。それは、人事としての覚悟でもあります。「何を残し、何をやめるか」を判断できるのは、自社の事業と人を深く理解している人事だけです。
東北の中小企業の人事制度が、シンプルでありながら力強く機能する。そんな状態を目指して、まずは「一番運用が重い制度」を見直すところから始めてみてください。
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