東北の製造業が「人が来ない」と嘆く前に見直したい、採用の課題と打ち手
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東北の製造業が「人が来ない」と嘆く前に見直したい、採用の課題と打ち手

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東北の製造業が「人が来ない」と嘆く前に見直したい、採用の課題と打ち手

「ハローワークに求人を出しても、1件も応募が来ない月がある」

東北の製造業で人事を担当している方から、こんな声を何度聞いたかわかりません。宮城、山形、福島、岩手、秋田、青森——どの県の方に聞いても、ほぼ同じ悩みが返ってきます。

でも、ちょっとだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。「人が来ない」のは本当に、東北だから仕方のないことなのでしょうか。


東北の製造業が直面する採用環境の変化

東北の製造業が採用で苦しんでいるのは事実です。でも、その原因は単純な「若者の都市部流出」だけではありません。もう少し複雑な構造変化が起きています。

まず、リモートワークの普及です。東北に住みながら東京の企業で働ける時代になった。つまり、東北の製造業は地域内の会社だけでなく、全国のオフィスワークと人材を奪い合っている状態です。

次に、製造業そのものの変化。DXの波は東北の工場にも押し寄せていて、IoTセンサーの導入、生産管理のデジタル化、品質管理のデータ分析——こうした領域に対応できる人材が必要になっています。つまり、「工場で働ける人」から「デジタルも分かる製造人材」へとニーズが広がっている。

さらに、求職者側の変化もあります。20代・30代の転職希望者は、給与条件だけでなく「この仕事を通じて自分がどう成長できるか」「社会にどんなインパクトを与えられるか」を気にしています。「安定した仕事です」だけでは、彼らの心は動かない。

ここまでの構造変化を踏まえると、「求人を出せば人が来る」という時代はもう終わっている。採用のやり方そのものを見直す必要があるわけです。


「うちには何もない」は本当か?——東北の製造業が持つ隠れた強み

ある山形の精密部品メーカーの人事担当者に「御社の強みは?」と聞いたとき、こう返ってきました。「うーん、特にないですかね。給料も高くないし、地方だし」。

でも、話をよく聞いていくと、その会社は自動車のエンジン部品を世界トップクラスの精度で加工していた。従業員は30年選手のベテランが多く、若手が入ると丁寧にマンツーマンで教えている。離職率も極めて低い。

「それ、めちゃくちゃ強みじゃないですか」と伝えたら、「え、そうですか? 当たり前のことだと思ってました」と驚いていました。

これは珍しいケースではありません。東北の製造業には、内部にいると気づかない「当たり前の強み」がたくさん眠っています。

たとえば、こんなものです。世界水準の加工技術やノウハウを持っていること。職場の人間関係が穏やかで、定着率が高いこと。地域コミュニティとの結びつきが強いこと。四季の変化がはっきりした自然環境の中で暮らせること。住居コストが低く、可処分所得が都市部と大差ないこと。

こうした「当たり前」を言語化して採用メッセージに載せることが、最初の一歩です。自社の魅力は外から見ないと気づけないことが多い。だからこそ、社員への深掘りインタビューや、外部の視点を借りることが有効なんです。


採用メッセージを「事業の文脈」で語り直す

採用が上手くいっている東北の製造業に共通しているのは、求人票に書いてあることが「仕事内容と条件」だけではないということです。

「この仕事が、どんな製品につながっているか」「その製品が、どんな社会課題を解決しているか」——ここまで語れている会社は、応募者の質が明らかに違います。

たとえば、福島のある電子部品メーカーは、求人情報に「当社の部品は、再生可能エネルギーの発電効率を支えています」と一文加えた。それだけで、「環境に貢献できる仕事がしたい」というUターン希望者からの応募が増えたそうです。

これは人事の観点だけでなく、経営の観点からも重要です。事業戦略と採用メッセージがつながっていない会社は、「なぜこのポジションが必要なのか」を説明できない。すると、経営者も採用に本気になれないし、現場も受け入れ態勢を整えられない。

料理に例えるなら、いいレシピ(採用手法)を持っていても、食材(自社の事業や強み)を理解していなければ料理は完成しないんです。

採用を「人事部の仕事」から「事業戦略の一部」に引き上げること。それが、東北の製造業の採用を変える転換点になると思っています。


東北ならではの採用チャネルを使いこなす

大手求人媒体に数十万円かけて掲載しても、東北の製造業には応募が来ないことがあります。それは、ターゲット人材がそこにいないからです。

東北の製造業に効果的な採用チャネルを整理してみましょう。

地域の工業高校・高専との関係構築

東北には、優れた技術教育を行う高校や高専が多数あります。仙台高専、秋田高専、鶴岡高専——こうした学校とのパイプを持つことは、中長期的な採用安定につながります。ある岩手の金属加工会社は、地元の工業高校で毎年2回の出前授業をやっている。その結果、毎年安定して2〜3名の新卒を獲得できています。

UIターン特化のアプローチ

東北出身で首都圏に出た20〜40代は、「いつか地元に戻りたい」と考えている層が一定数います。東北の自治体が運営するUIターン支援サイトや、地域の移住フェアへの出展は、費用対効果の高い手法です。

リファラル採用の仕組み化

東北は「人のつながり」が濃い地域です。既存社員の紹介による採用(リファラル)は、この地域特性を活かした方法です。ただし、「誰か良い人いない?」と聞くだけでは機能しません。「どんな人を探しているか」を社内に明確に伝え、紹介者へのフィードバックを丁寧にやることが必要です。


採用と定着は表裏一体——離職コストを経営に可視化する

東北の製造業で意外と見落とされているのが、「採用の前に定着を見直す」という発想です。

仮に1名の中途社員が入社1年で辞めた場合、採用コスト、教育コスト、生産性の低下を合算すると、その人の年収の1.5〜2倍のコストが失われると言われています。年収400万円の社員なら、600〜800万円の損失です。

この数字を経営者に見せると、「採用より先に、今いる社員を大事にすべきだ」という議論が始まります。それこそが、人事が経営と対話するきっかけになる。経営数字は経営者の第一言語です。人事がその言葉で話せるようになると、対話の質が一段上がります。

東北の製造業には、ベテラン社員が多い会社がたくさんあります。その人たちが「なぜ辞めずに働き続けているのか」を丁寧にヒアリングして言語化すると、それがそのまま「定着力の源泉」になります。そして、その定着力を採用メッセージに転用すれば、「長く働ける会社を探している」という求職者に刺さる。

採用と定着は別の課題ではありません。つながっているんです。


採用の「数字」を経営の言葉に変える

人事担当者が採用の話を経営者にするとき、「なかなか来ません」「先月は3名応募がありました」という報告だけで終わっていないでしょうか。

経営者が関心を持つのは、「採用にかかったコストが、どのくらいの期間でペイできるか」「今の採用活動は、来年の事業計画に間に合っているか」という問いです。

たとえば、製造現場に1名採用して生産性が上がることで、年間200万円の付加価値が生まれるとします。その人材を採用するのにかかったコストが80万円であれば、投資回収期間はおよそ5ヶ月。これが「採用の経営的な意味」です。

逆に、欠員が3ヶ月続いた場合、既存社員の残業増加と生産性低下をコスト換算するといくらになるか——この試算を持っていける人事担当者は、「早急に採用を動かしましょう」という提案をはるかに強く経営に届けられます。

東北の製造業では、採用の遅延が生産ラインの負荷増大につながりやすい。「人が足りない状態が続くと、現場の疲弊から離職がさらに増える」という悪循環に陥るリスクも高い。だからこそ、採用の問題を「人事の課題」から「事業の数字の問題」として語れるかどうかが、経営との対話を変えるのです。

「採用1名あたりのコスト」「充足にかかる日数(タイムトゥフィル)」「入社後の定着率」——これら3つの数字を把握して経営に定期報告しているだけで、採用担当者の経営への貢献が「見える化」されます。まずはこの3つから始めてみるだけでも、対話の質は変わります。


「一人人事」の孤独を抱えているあなたへ

東北の製造業の人事担当者は、一人で採用も教育も労務も担っているケースが多い。いわゆる「一人人事」です。

「この方向でいいのかな」「隣の会社はどうしてるんだろう」——こういう問いを持っても、社内に相談できる人がいない。それは本当に孤独なことだと思います。

でも、東北にも人事の仲間はいます。宮城県の中小企業家同友会、山形の経営者団体、各県の人事担当者コミュニティ——こうした場に足を運んでみると、同じ悩みを抱えている人がいることに気づくはずです。

人事の仕事の質の7〜8割は「知る」の質で決まると、私は思っています。自社のことを知り、地域のことを知り、先人の知恵を知り、仲間の経験を知る。一人で全部やる必要はないんです。


採用の「見せ方」より「伝え方」を変える

求人票のレイアウトを整えたり、写真を綺麗にしたりすること——もちろんそれも大切ですが、採用で本当に差がつくのは「伝え方」の質だと思っています。

「伝え方」とは、求職者が読んだときに「自分のことを書いてくれている」と感じられるかどうか、ということです。東北の製造業の求人票を見ると、「未経験歓迎」「丁寧に研修します」「アットホームな職場」といった言葉が並んでいることが多い。これらは悪くはないのですが、あまりにも多くの企業が同じ言葉を使っているため、個性が消えてしまっています。

対照的に、「入社1年目でも、お客様先のラインで使われる部品を自分の手で仕上げる経験ができる」「週2回の朝礼で工場長が直接フィードバックをくれる文化がある」といった具体的な記述がある求人票は、読んだ人の頭の中に「働いている自分のイメージ」が浮かびます。そのイメージが浮かんだ候補者だけが応募してくる——つまり、ミスマッチが最初から減る。

「どんな人に来てほしいか」だけでなく、「入社した人がどんな一日を過ごすのか」「どんなやりとりがある職場なのか」を具体的に言葉にすることが、採用メッセージを「伝わるもの」に変えます。この作業は特別なスキルがなくてもできる。現場に10分インタビューして、出てきた言葉をそのまま書く——それだけで求人票の質は大きく変わります。


東北の製造業の採用を、もう一段上に持っていくために

「人が来ない」と嘆く前に、やれることはまだたくさんあります。

自社の強みを言語化する。事業の文脈で採用メッセージを語り直す。地域に合ったチャネルを選ぶ。定着力を可視化して経営と対話する。そして、仲間とつながる。

どれも特別なことではないかもしれません。でも、「当たり前のことを、しつこく、丁寧にやり続ける」——それが人事のプロとしての力を磨く一番の近道だと、私は信じています。

遠回りに見えるかもしれない。でも、それが実は近道なんです。

東北の製造業が「選ばれる会社」になるためのヒントは、遠くにあるわけではありません。自社の現場にいる人たちの言葉の中に、すでに宝が埋まっています。それを掘り起こして言葉にすることが、人事担当者にしかできない仕事のひとつです。


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