
UIターン採用、「帰ってきてほしい」だけでは人は動かない
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UIターン採用、「帰ってきてほしい」だけでは人は動かない
「地元に戻りたいという気持ちはあるけど、仕事が不安で」——UIターン採用に取り組む企業の担当者と話していると、こういう声を候補者からよく聞くという話が出てきます。
東北出身で首都圏に出た若者は、地元への愛着を持ちながらも、キャリアの不安やライフイベントのタイミングを見計らいながら生活しています。その人たちに「帰っておいで」という発信だけをしていても、なかなか届かない。東北のUIターン採用には、もう少し丁寧な設計が必要なのではないかと感じています。
東北ならではのUIターンの文脈
東北各県は、若者の仙台・東京流出が長年の課題です。高校・大学進学を機に地元を離れ、そのまま首都圏で就職するパターンが定着しています。
一方で、コロナ禍以降のリモートワーク普及や、結婚・出産・親の介護といったライフイベントが重なるタイミングで「地方移住」を検討する人が増えてきました。東日本大震災の経験が「地縁・血縁の大切さ」を改めて意識させたという側面もあります。
また、東北の企業は製造業・農業・食品加工・医療福祉など、東京では経験できない「ものづくりの現場」や「地域に根ざした仕事」を持っています。これは、UIターン候補者にとって大きな魅力になりえます。
なぜ今UIターン採用が重要なのか
既存の採用チャネルだけでは採用数が頭打ちになっている企業が増えています。地元の求職者だけを対象にしていると、母集団の絶対数が少ない東北では構造的に限界があります。
UIターン採用は、その「母集団を広げる」戦略として有効です。首都圏に在住する東北出身者の数は、各県の現役世代を上回るほどとも言われています。この層にアプローチできれば、採用機会は大きく広がります。
採用コストの観点でも、UIターン者は「地元への帰着動機」があるため、定着率が高い傾向があります。採用後の離職コスト(再採用・教育コストを含めれば100万円超になることも)を下げる効果も期待できます。
実践に向けた3つの視点
視点1:「仕事の内容」より「生活の解像度」を上げる
UIターン候補者が不安に思うのは、「東北で暮らしたとき、どんな生活になるのか」という解像度の低さです。給与水準・住宅コスト・通勤時間・子育て環境・医療アクセス——これらを具体的に示せている企業は意外と少ないのではないでしょうか。
「年収○○万円」「転居支援あり」だけでなく、実際に移住した社員の「一日のスケジュール」「週末の過ごし方」「家賃と手取りの収支感」などを発信することで、候補者の意思決定を後押しできます。
視点2:タイミングを逃さない「接点設計」
UIターンを検討する人のほとんどは、「今すぐ動きたい」わけではありません。ライフイベントを機に「そろそろかな」と思い始めたとき、地元企業の情報がそこにあるかどうかが重要です。
SNS発信・OB/OG訪問の仕組み・帰省時のイベント開催——これらは「採用」というより「関係性の維持」です。採用から逆算して数年単位で接点を持つ設計が、UIターン採用の土台になります。
視点3:受け入れ体制が採用広報と一致しているか
「地元に帰ってきてよかった」と思える職場環境が、実際に整っているかどうか。UIターン者は、移住というリスクを取って入社します。入社後の期待と現実のギャップが大きいと、離職につながりやすく、そのネガティブな評判が次の採用にも影響します。
採用広報で伝えていることと、実際の職場環境が一致しているかを、人事として定期的に確認することが大切だと思っています。
ある東北の企業では
岩手県の精密機器メーカーでは、UIターン採用に力を入れた結果、採用数よりも「定着率の高さ」に効果が出たといいます。
きっかけは、入社3年以内に離職した社員へのヒアリングでした。その中で「思っていたより生活コストがかかった」「子育て環境の情報が少なかった」という声が多かったため、採用広報に「移住後の生活費シミュレーション」「近隣の保育所情報」を加えるようにしました。
応募数に劇的な変化はなかったものの、入社後1年の定着率が以前より15ポイント改善。採用の「質」が変わったことで、現場の負荷も下がったといいます。
UIターン候補者が「動く」タイミングを読む
UIターン採用で結果を出すには、「候補者がいつ、なぜ地元への移住を検討し始めるか」を理解することが大切です。
東北出身の首都圏在住者がUIターンを意識するタイミングは、いくつかの共通したライフイベントと重なります。結婚・第一子誕生・子どもの入学——「子育て環境を見直したい」というタイミングで地方移住を考える人が多い。親の介護が見え始めた30代後半〜40代も、「そろそろ地元に戻ることを考えないと」という気持ちが高まります。コロナ禍以降は、「テレワーク継続で東京に住む必然性が薄れた」という理由も加わりました。
こうしたタイミングを想定すると、UIターン採用の情報発信のタイミングも変わります。たとえば、年末年始や盆の帰省シーズンは、「地元に戻ってきた」という実感と「仕事があれば戻りたい」という気持ちが重なる時期。この時期に合わせて採用情報を発信したり、地元での見学会・懇談会を設けたりすることが、接点づくりに効果的です。
また、東北各県が開催する「ふるさと移住フェア」や「東北で働こう」系のイベントは、UIターン候補者が情報収集の場として活用しています。出展コストは10〜30万円程度のものも多く、大手媒体への掲載より費用対効果が高いケースもあります。「イベントで会った企業担当者の人柄が決め手になった」という声も少なくない。UIターン採用では、情報よりも「人の温度」が決め手になりやすいんです。
採用サイトにUIターン専用コンテンツをつくる意義
「採用ページを見ても、UIターンした場合の生活がイメージできない」——これは多くのUIターン候補者が感じていることです。
採用サイトに「UIターン社員の声」ページを設けている東北の企業は、まだ少数派です。でも、実際にUIターンした社員の事例を丁寧に紹介することは、「この会社には先例がある」「自分も同じように転身できるかもしれない」という安心感を生みます。
具体的なコンテンツの例として効果的なのは、「移住前の懸念と、入社後の実態の比較」です。「年収が下がることを不安に思っていたけど、家賃が半分以下になり、可処分所得は東京時代より増えた」「子どもが自然の中で元気に育っていて、移住して良かった」といったリアルな声は、候補者の具体的な不安に直接答えます。
また、採用サイトとは別に、インスタグラムやnoteで「東北での暮らしと仕事のリアル」を発信している企業も増えてきました。会社の公式感より、社員個人の目線に近い発信の方が、UIターン候補者には響くことがある。発信の内容よりも「続けること」が信頼につながるので、週1回の短い投稿を続けるだけでも効果が出てきます。
よくある失敗パターン
「地元愛に訴えるだけ」の採用広報:感情的な訴えかけだけでは、キャリアや生活の具体的な不安には答えられません。感情と情報の両方が必要です。
「採用できたら終わり」という姿勢:UIターン者は移住というコストを払っています。入社後のオンボーディングや生活面でのサポートが薄いと、早期離職のリスクが高まります。
「東京の求人と同じ土俵で戦う」:給与水準だけで比較されれば東北の中小企業は不利です。「生活コストを含めた手取り感」「地域での役割・キャリア」という視点で発信することが重要です。
UIターン採用を経営に数字で語るために
「UIターン採用に力を入れたいが、予算が出ない」という悩みを持つ人事担当者は少なくありません。経営者を動かすためには、UIターン採用の「投資対効果」を数字で語ることが有効です。
一つの考え方として、「現状の採用コストと定着率」と「UIターン採用の場合のコストと定着率」を比較する試算があります。地元の求人媒体で採用した場合、定着率が低ければ2〜3年後に再採用コストが発生します。UIターン者は移住というリスクを取って入社しているため、定着率が高い傾向があります。この違いを複数年の視点でコスト比較すると、UIターン採用の経済合理性が見えてきます。
また、「UIターン人材が持ち込む能力・経験の価値」を試算に加えることも有効です。都市部で培った営業スキル・デジタルリテラシー・専門技術が、どのくらいの事業貢献につながるかを概算するだけでも、「人材獲得の投資価値」が具体的になります。精度100%の試算でなくていい。「このくらいの可能性がある」という概算を持って経営に話に行くことが、予算獲得の入り口になります。
東北の企業でUIターン採用を本気でやっている会社は、まだ少ない。だからこそ、今取り組む企業には先行者利益があります。UIターン候補者の記憶に残る企業になれれば、採用コストをかけずに「帰る場所」として選ばれるようになっていきます。
「事業を伸ばす人事」を東北から
UIターン採用は、地域の未来に人材をつなぐ仕事でもあります。ただし、「帰ってきてほしい」という思いだけでは動きません。候補者の不安に応え、受け入れ体制を整え、長期的な接点を設計する——その積み重ねが、採用の質を変えていくのだと思っています。
最初から完璧な移住支援パッケージでなくていい。「どんな情報があれば候補者の不安が減るか」という問いから始めるだけで、できることは意外とあるはずです。
UIターン採用は、地域の存続とも深くつながっています。地元に戻ってくる若い世代が増えることは、企業の人材確保だけでなく、地域の消費・税収・コミュニティの維持にも影響します。東北の中小企業が採用に真剣に取り組むことは、企業の利益を超えた意味を持っているのです。そのことを、人事担当者が自覚しているかどうかで、仕事への向き合い方が変わると思っています。
東北で「帰れる先」をつくるために人事ができること
UIターン採用は、求人票を出す前から始まっています。候補者が「あの会社、気になるな」と思う瞬間をつくるのは、採用メッセージよりも、日頃の情報発信や地域でのプレゼンスです。
東北の企業が「帰れる先」として認識されるには、継続的な存在感が必要です。SNSで地域の取り組みを発信する、高校や大学での出前授業に参加する、地域の祭りや清掃活動にかかわる——こうした活動を続けることで、「あの会社は地域に根を張っている」という印象が積み重なります。東北出身の首都圏在住者にとって、「帰省したときに顔を見かける会社」は、それだけで親しみを持てる候補になります。
また、現在在籍しているUIターン社員を「採用アンバサダー」として活用することも効果的です。その人が地元の同窓生やSNSのフォロワーに向けて「東北での仕事と暮らし」を語ることは、会社の公式発信より何倍もリアルに届きます。「あの人があの会社で楽しそうにやっているから、自分も話を聞いてみよう」というきっかけは、人から人に伝わります。
UIターン採用に取り組む企業が増えることで、東北全体が「戻りやすい地域」になっていく。一社の取り組みがそのきっかけになりえます。人事担当者の仕事が、そういう地域の変化の起点になることもあるのだと思っています。
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