東北でUIターン人材を採用するための人事戦略——「帰りたい」を「帰れる」に変える
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東北でUIターン人材を採用するための人事戦略——「帰りたい」を「帰れる」に変える

#採用#組織開発#経営参画#キャリア#制度設計

東北でUIターン人材を採用するための人事戦略——「帰りたい」を「帰れる」に変える

「地元に戻りたい気持ちはあるんですけど、いい仕事があるかわからなくて」

東京で働く東北出身の30代エンジニアが、ある移住フェアでこう漏らしていました。こういう方は実はたくさんいます。「帰りたい」という気持ちはある。でも「帰れる先」が見えない。

東北の企業にとって、UIターン人材の採用は「人口減少時代の切り札」になりうる。ただし、待っているだけでは来てくれません。人事として、どう動けばいいのか。今日はその話をしてみたいと思います。


なぜ今、UIターン採用なのか——東北の人口動態から考える

東北6県の人口は減り続けています。特に20〜30代の流出が顕著で、大学進学や就職を機に首都圏へ出た若者が、そのまま戻ってこないケースが多い。

でも、ここに面白いデータがあります。内閣府の調査によると、東京圏在住者のうち「地方に移住したい」と考えている人は約40%。特に30代・40代でその傾向が強い。つまり、「戻りたい」「地方で暮らしたい」と思っている潜在層は、想像以上に多いんです。

コロナ禍以降、リモートワークが普及したことも追い風です。完全に地方移住しなくても、二拠点居住やリモート勤務を前提とした働き方が現実的になった。東北の企業がUIターン人材を本気で採りにいくなら、今がそのタイミングだと私は思っています。

ただ、ここで重要なのは「なんとなく採用を増やしたい」ではなく、「UIターン人材を獲得することが、事業にとってどんな意味を持つのか」を明確にすることです。都市部で経験を積んだ人材が入ることで、技術革新が進む。新しい商流が生まれる。組織に多様な視点が入る。そういった事業インパクトを経営者と共有してから採用に動く方が、結果として上手くいきます。


UIターン人材が「帰れない」3つの壁

東北に帰りたいと思っていても、実際に行動に移せない人には、共通する壁があります。

壁1:情報の壁——「どんな仕事があるかわからない」

東北の中小企業の求人情報は、都市部の人にはほとんど届いていません。大手求人サイトに掲載しても、勤務地フィルターで東北が外されてしまう。自治体のUIターンサイトに登録している企業も、まだまだ少ない。

つまり、「良い仕事がない」のではなく、「良い仕事が見えていない」だけの場合が多いんです。

壁2:条件の壁——「給料が下がるのが怖い」

東京での年収を基準に考えると、東北の給与水準は低く見えます。でも、住居費を含めた生活コスト全体で比較すると、実質的な可処分所得はそこまで変わらないケースも多い。

ある宮城の製造業では、「東京との生活コスト比較表」を採用資料に入れたところ、年収ダウンへの不安を理由に辞退するケースが減ったそうです。数字で見せることの効果は大きい。

壁3:キャリアの壁——「地方に行ったらキャリアが止まるのでは」

これが実は一番大きな壁かもしれません。特に20〜30代の専門人材は、「地方企業に行くと、自分の市場価値が下がるのでは」と心配しています。

この壁を超えるには、「この会社で働くと、どんなスキルや経験が得られるか」を具体的に語る必要があります。「IoT導入プロジェクトのリーダーを任せたい」「新規事業の立ち上げを一緒にやりたい」——そうした具体的な成長機会を示せると、UIターン希望者の目の色が変わります。


UIターン採用で成果を出している東北企業の共通点

私がこれまで見てきた中で、UIターン採用に成功している東北の企業には、いくつかの共通パターンがあります。

「地域との接続」を採用メッセージの中核に据えている

「この仕事を通じて、東北にこんな貢献ができる」という文脈を採用メッセージに入れている会社は強い。UIターン希望者の多くは、単に「地元に帰りたい」だけでなく、「地元に貢献したい」という気持ちを持っています。その気持ちに応えるメッセージがあるかどうかで、応募率は大きく変わります。

岩手のある食品メーカーは、「三陸の食文化を世界に届けるチームに参加しませんか」というコピーで採用ページを作り直した。それだけで、UIターンからの応募が前年の3倍になったそうです。

現場の「生の声」を発信している

採用サイトのコーポレート文体では、人の温度が伝わりません。成功している会社は、社員のインタビュー動画やSNS発信で「この会社の人たちは、こんな感じの人たちなんだ」というリアルな情報を出しています。

東北の企業は、人の距離感が近く、温かいコミュニケーションが自然にある。それは都市部にはない魅力です。その「空気感」を伝えることが、最大の差別化ポイントになります。

採用プロセスにオンライン面談を組み込んでいる

UIターン候補者は当然ながら遠方にいます。最初の接点からオンラインで面談できる体制を整えている会社は、候補者の負担を減らし、応募のハードルを下げています。最終面接だけ現地に来てもらい、そのときに職場見学や社員との食事会をセットにすると、入社後のミスマッチも減ります。


UIターン採用を「事業投資」として経営者に語る

UIターン採用を人事部門だけの取り組みにしてしまうと、どうしても予算や工数の壁にぶつかります。経営者を巻き込むためには、UIターン採用を「事業投資」として語る必要がある。

たとえば、こんなふうに。

「都市部で10年の営業経験を持つUIターン人材が1名入社すれば、新規取引先の開拓で年間3,000万円の売上貢献が見込めます。採用コスト200万円は、投資回収率として十分ではないでしょうか」

あるいは、「DX人材を1名採用することで、製造ラインの不良率が2%改善すれば、年間のコスト削減効果は500万円。これは採用・育成コストを1年で回収できる水準です」

経営数字は経営者の第一言語です。人事がその言語で採用の意味を語れるようになると、経営者の反応が変わる。予算も動く。UIターン採用は、人事が経営と対話する力を磨く絶好の機会でもあるんです。


受け入れ態勢——UIターン人材が定着するための仕組み

採用できても定着しなければ意味がありません。UIターン人材特有の定着リスクを理解して、受け入れ態勢を整えることが大切です。

生活面のサポート

東北に戻ってきた(あるいは初めて来た)人材は、住居探し、子どもの学校、パートナーの仕事など、生活面で多くの不安を抱えています。自治体の移住支援制度の情報を整理して渡す、地域の不動産業者を紹介する——こうした「生活の立ち上がり支援」があるだけで、入社初期の不安はかなり和らぎます。

文化の違いへの配慮

都市部から来た人材が、東北の職場文化に馴染むまでには時間がかかることがあります。「暗黙の了解」が多い職場、年功序列的な意思決定、飲み会文化——こうした文化的なギャップを認識して、お互いに歩み寄る姿勢が必要です。

ある秋田の企業では、UIターン入社者に「メンター」として地元出身の中堅社員をつけている。業務の相談だけでなく、地域の生活情報や人間関係のナビゲーターの役割を果たしていて、入社1年以内の離職がゼロになったそうです。

キャリア開発の見える化

「地方に来たらキャリアが止まる」という不安を払拭するために、入社後のキャリアパスを明示することが重要です。「3年後にはこの分野のリーダーに」「5年後にはこういうスキルが身につく」——そうした見通しを共有することで、UIターン人材のモチベーションが維持できます。


自治体の移住支援と連携する視点

UIターン採用を加速するうえで、意外と活用されていないリソースが「自治体の移住支援制度」です。

東北6県と各市町村は、移住・定住促進のためにさまざまな制度を持っています。引越し補助金、家賃支援、子育て支援金——こうした制度と採用がセットで候補者に伝わると、「会社の待遇」だけでなく「地域全体のサポート」として受け取られます。移住の経済的なハードルが下がることで、年収ダウンへの不安が和らぐ効果もあります。

東北各県の移住支援サイト(例:「みやぎ移住・交流情報センター」「やまがた暮らし情報館」など)には、掲載企業として登録できる仕組みもあります。無料または低コストで首都圏に住む東北出身者に情報を届けられるチャネルですが、登録している中小企業はまだ少ない。自治体担当者に連絡をとって、連携できる仕組みを確認してみるだけで、採用チャネルが一つ増えます。

また、地域のUIターン支援NPOや移住コンシェルジュとのネットワークも活用できます。移住を検討している人と話す機会を提供してくれることがあり、採用広報よりずっとリアルな接点になります。「制度」ではなく「人とのつながり」が起点になるUIターンは、入社後の定着率も高い傾向があります。


小さく始めて、成功事例を作る

UIターン採用を一気に大規模にやろうとすると、社内の抵抗も大きくなります。「まず1名、UIターンで良い人材を採用して、その人が活躍する姿を社内に見せる」——それが最も効果的な進め方です。

成功事例が1つあれば、「次もUIターンで採用してみよう」という空気が社内に生まれる。経営者も現場も、具体的な成功体験がないと本気にならない。これは人事の仕事全般に言えることですが、「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」が鉄則だと思っています。


UIターン人材が活躍するための「最初の3ヶ月」

UIターンで入社した人材が定着するかどうかは、「最初の3ヶ月」の経験に大きく左右されます。

移住と転職が同時に起きているUIターン入社者は、職場適応と生活適応を同時進行させています。業務のキャッチアップをしながら、買い物先・医療機関・子どもの学校・近隣コミュニティへの慣れ——これらが重なる期間は、誰でも負荷が高い。この時期に「職場で孤立している」という感覚が加わると、離職リスクが一気に高まります。

効果的なオンボーディングの例として、「入社前の情報提供」があります。入社日より1〜2ヶ月前に、近隣のスーパー・病院・学区の情報、社員から見た地域の良いところ・困るところ、移住助成金の申請手続きの流れ——こうした「生活立ち上がりパック」を事前に渡すだけで、入社後のスタートがスムーズになります。

また、業務以外の「対話の場」として、入社後1ヶ月以内に近隣の食事処に社員数名と出かける機会を設けている会社もあります。正式な歓迎会でなくていい。「あなたのことを気にしている人がいる」という感覚が持てるかどうかが、最初の3ヶ月を乗り越えるための支えになります。

UIターン採用は「採用できた瞬間」がゴールではありません。入社後の定着体験が次の採用の評判になる。UIターン成功事例が積み重なることで、「あの会社なら帰れる」という評判が東北出身者のコミュニティに広がっていきます。


東北に帰ってくる人を、迎える準備はできていますか

東北には、帰りたいと思っている人がいます。来たいと思っている人もいます。でも、その人たちに「帰れる先」を見せられている企業はまだ少ない。

だからこそ、人事がここに力を入れる意味がある。自社の魅力を言語化して、情報を届ける仕組みを作り、受け入れ態勢を整える。地道な作業です。でも、その地道さこそが、人事のプロとしての真骨頂ではないでしょうか。

しつこく、丁寧に。遠回りに見えても、それが一番の近道です。


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