東北の企業がUターン・Iターン人材を受け入れるための組織づくり——「来てもらう」だけでは終わらない、定着までの道筋
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東北の企業がUターン・Iターン人材を受け入れるための組織づくり——「来てもらう」だけでは終わらない、定着までの道筋

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東北の企業がUターン・Iターン人材を受け入れるための組織づくり——「来てもらう」だけでは終わらない、定着までの道筋

「Uターンで来てくれた人が、1年で東京に戻ってしまいました」

宮城のある食品製造会社の人事担当者から聞いた言葉です。東北出身で、東京の大手メーカーに勤めていた30代のエンジニア。「地元に貢献したい」という想いで転職してきた。しかし、1年後に退職。理由は「期待していたのと違った」。

この「期待と現実のギャップ」は、Uターン・Iターン採用で最も多い失敗パターンです。そして、このギャップの責任は、来た人ではなく、受け入れる側の組織にあることが多い。

東北は全国でも「Uターン・Iターン希望者が多い地域」です。自然環境の豊かさ、食の魅力、地域コミュニティの温かさ——東北への移住に関心を持つ人は増えています。しかし、「来てもらう」ことと「定着してもらう」ことの間には、大きな溝があります。

その溝を埋めるのが、受け入れ側の組織づくり。つまり、人事の仕事なのです。


Uターン・Iターン人材の「期待」を理解する

まず、Uターン・Iターン人材がどんな期待を持って東北に来るのかを理解しましょう。

私がこれまでUターン・Iターンで東北企業に転職した方々にヒアリングした中で、共通する期待は5つです。

第一に、「自分の経験を活かして、会社や地域に貢献したい」。首都圏で培った専門知識やビジネス経験を、東北の企業で発揮したい。この「貢献欲求」が最も強い動機であることが多い。

第二に、「裁量の大きい仕事がしたい」。大企業では組織の歯車だった自分が、中小企業では経営に近いポジションで仕事ができる。この期待は大きい。

第三に、「ワークライフバランスを改善したい」。東京での長時間労働や通勤ラッシュから解放され、仕事と生活の両方を充実させたい。

第四に、「地域のコミュニティに溶け込みたい」。特にIターンの方は、「東北の温かい人間関係の中で暮らしたい」という期待がある。

第五に、「自分の成長を続けたい」。地方に行くことで、キャリアが停滞するのではないかという不安と、「逆に、幅広い経験を積むことでキャリアが広がるのでは」という期待の両方がある。

これらの期待を事前に把握し、入社後にどの程度満たせるかを正直に伝えること。そして、受け入れ後に期待が裏切られないよう、組織側が準備をすること。これが、定着率を高める鍵です。


受け入れ失敗の3大パターンと対策

Uターン・Iターン人材の受け入れが失敗するパターンは、大きく3つに分類されます。

第一のパターンは、「アンマッチ」。外部から来た人材に、既存のやり方をそのまま当てはめてしまうケース。首都圏で営業のプロだった人を、同じ営業職に配属したものの、東北の商慣習(人間関係重視、飛び込み営業が効かない、紹介ベース)に合わず苦戦する。

対策は、入社前に「東北の仕事の進め方」を丁寧に説明し、入社後は最初の3ヶ月間を「適応期間」として、地元のベテラン社員と一緒に行動する期間を設けること。

第二のパターンは、「孤立」。外部から来た人材が、既存社員のコミュニティに溶け込めないケース。「あの人は東京から来たから」「うちのやり方がわからないでしょ」——こうした無意識の排除が、外部人材を孤立させる。

対策は、受け入れ側の社員への事前説明。「なぜこの人材が必要なのか」「この人に何を期待しているのか」を既存社員に丁寧に伝える。そして、入社後は特定のメンター(先輩社員)をつけて、業務面だけでなく生活面の相談にも乗る体制を作る。

第三のパターンは、「裁量不足」。「裁量の大きい仕事ができる」と聞いて来たのに、実際は既存のやり方を変えることが許されず、フラストレーションが溜まるケース。

対策は、「変えてよい範囲」と「変えてはいけない範囲」を明確にすること。最初からすべてを任せるのではなく、小さな改善プロジェクトから始めて、成果を出しながら徐々に裁量を広げていくステップを設計する。


「オンボーディング」の設計が定着の8割を決める

Uターン・Iターン人材の定着において、入社後3ヶ月間の「オンボーディング」が決定的に重要です。この期間の過ごし方が、定着の8割を決めると言っても過言ではありません。

秋田のある機械メーカーでは、Uターン・Iターン人材向けの「3ヶ月オンボーディングプログラム」を設計しています。

第1週目は「浸漬(しんし)期間」。会社の歴史、事業内容、組織体制、取引先、製品——会社を丸ごと理解するための集中インプット。社長との面談、各部署の説明、工場見学、主要取引先への同行——1週間でこれらを一気に行う。

第2〜4週目は「同行期間」。配属先のベテラン社員に同行して、実際の仕事の流れを観察する。自分では手を動かさず、「見る」「聞く」「質問する」に集中する。

第2〜3ヶ月目は「実践期間」。少しずつ自分で業務を担当し始める。ただし、必ずベテラン社員のサポート付き。週に1回、上司との1on1面談で「困っていること」「感じていること」を共有する。

さらに、この会社ではオンボーディング期間中に「地域体験プログラム」も組み込んでいます。地元のお祭りへの参加、近隣の農家での収穫体験、地域の経営者との懇親会——仕事だけでなく、地域に溶け込むための機会を意図的に作る。

このプログラムの効果は顕著で、導入前のUターン・Iターン人材の3年以内離職率が50%だったのが、導入後は15%に低下しました。


「外から来た目」を活かす組織の知恵

Uターン・Iターン人材の最大の価値は、「外からの視点」です。長年同じ組織にいると見えなくなる課題や改善点を、外から来た人は気づくことができる。

しかし、この「外からの視点」を活かすには、組織側の受け入れ態勢が必要です。外部人材が「ここは改善できると思います」と提案したとき、「よそ者のくせに」と拒絶するのか、「いい気づきだね」と受け入れるのか。この反応が、外部人材の定着を左右します。

福島のあるソフトウェア開発会社は、Iターン人材の受け入れ時に「新しい目レポート」という仕組みを設けています。入社後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の時点で、その人が「外から見て感じたこと」を自由に書いてもらうレポートです。

このレポートの内容は、社長と管理職全員が読む。レポートの中で指摘された改善点は、可能なものから実行に移す。そして、「あなたの提案を実行しましたよ」とフィードバックを返す。

この仕組みにより、外部人材は「自分の意見が尊重されている」と感じ、組織への帰属意識が高まる。同時に、組織は「外からの視点」を活かして改善が進む。双方にメリットのある仕組みです。

ある時、Iターンのエンジニアが「新しい目レポート」で「社内の情報共有がメールベースで非効率だと思う」と書いた。それをきっかけに、チャットツールの導入が進み、社内のコミュニケーション速度が大幅に向上した。社長は「外から来た人がいなかったら、ずっとメールのままだった」と振り返っています。


家族の「定着」も視野に入れる

Uターン・Iターンは、本人だけの移動ではありません。配偶者、子ども——家族全員の生活が変わります。そして、本人が定着するかどうかは、家族の満足度に大きく左右されます。

「本人は満足しているけど、配偶者が馴染めなくて東京に戻った」——こうしたケースは珍しくありません。特に、Iターンの場合、配偶者にとっては「縁もゆかりもない土地」に来ることになる。その不安は想像以上に大きい。

山形のある製造会社では、Uターン・Iターン人材の受け入れ時に、配偶者向けの「暮らしサポートプログラム」を提供しています。

地域の生活情報(スーパー、病院、学校、子育て支援施設)のまとめ冊子。先輩社員の配偶者との交流機会(ランチ会など)。配偶者の就職支援(地域のハローワークや人材紹介サービスの情報提供)。子どもの転校手続きのサポート。

このプログラムにかかるコストはほとんどゼロ(情報の取りまとめと交流機会の設定だけ)ですが、「この会社は家族のことまで考えてくれる」という安心感を与える効果は絶大です。

配偶者の就職支援は特に重要です。共働き世帯が多い今、配偶者が東北で仕事を見つけられるかどうかは、家族の定着を大きく左右します。自社で採用できなくても、地域のネットワークを活かして情報を提供するだけでも、大きな支えになります。


自治体の支援制度を活用する

東北の各県・市町村は、Uターン・Iターン促進のためのさまざまな支援制度を設けています。これらを活用しない手はありません。

移住者への住宅補助(家賃補助、住宅取得支援金など)。引っ越し費用の補助。子育て世帯への特別支援。起業支援金(Iターンで起業する場合)。移住相談窓口での個別サポート。

これらの支援制度を、採用活動の中で求職者に情報提供することは、「東北への移住のハードルを下げる」効果があります。

ある宮城の企業では、求人情報の中に「仙台市の移住支援制度のご案内」というコーナーを設け、利用可能な補助金や支援制度をリストアップしています。「この制度を使えば、引っ越し費用の一部が補助されます」「この地域では、子育て世帯への住宅補助があります」——こうした具体的な情報が、移住の決断を後押ししています。

自治体の支援制度は頻繁に更新されるため、定期的にチェックして最新情報を把握しておくことが大切です。人事担当者が地元の自治体の移住担当課と関係を築いておくと、最新の制度情報を入手しやすくなります。


Uターン・Iターン人材の「成功体験」を発信する

最も効果的な採用ツールは、「すでにUターン・Iターンして活躍している人の声」です。

先輩のリアルな体験談は、これから東北への転職を考えている人にとって、最も信頼性の高い情報源です。「東京から来て、最初はこんな苦労があったけど、今はこんなに充実している」——こうした等身大のストーリーが、次のUターン・Iターン人材を呼び寄せます。

岩手のある建設コンサルティング会社では、Uターン・Iターン社員のインタビュー記事を自社の採用ページに掲載しています。「転職の決め手は?」「東京との違いは?」「今の仕事のやりがいは?」「休日の過ごし方は?」——こうした質問に、本人の言葉で答えてもらっている。

このインタビュー記事が、次の応募者の獲得に直結しています。「○○さんのインタビューを読んで、自分も同じような経験ができると思った」——応募者の多くがこう語るそうです。

成功体験の発信は、社外だけでなく社内にも効果があります。「Uターンで来た○○さんが、こんな成果を出している」という情報は、既存社員にとっても「外部人材の受け入れは会社にとってプラスだ」という認識を深める材料になります。


受け入れは「投資」であり、「経営判断」である

Uターン・Iターン人材の受け入れにかかるコスト——オンボーディングプログラムの運営、メンターの時間、生活サポートの提供——これらを「余計な出費」と見るか、「人材への投資」と見るかで、対応の質は大きく変わります。

Uターン・Iターン人材は、首都圏での業務経験という「外部知識」を社内に持ち込んでくれます。この知識が、新しい業務プロセスの導入、取引先の拡大、DXの推進——さまざまな形で事業の成長に貢献する可能性があります。

受け入れのためのコストを、「その人材が3年間で生み出す価値」と比較してみてください。受け入れに100万円かけても、その人材が年間500万円の付加価値を生み出すなら、投資回収は3ヶ月以内です。

経営数字から逆算して、受け入れの質と投資規模を決める。これが、Uターン・Iターン採用を成功させる経営判断のフレームワークです。

東北には、帰りたい人、来たい人が確かにいます。その人たちを迎え入れ、活躍してもらい、定着してもらう。そのための組織づくりが、東北の企業の未来を拓きます。


もし「Uターン・Iターン人材の受け入れを含め、経営に貢献する人事の力を高めたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。

人事のプロ実践講座 — 詳しくはこちら

また、東北の企業でUターン・Iターン採用に取り組む仲間とつながりたい方は、人事図書館へ。

人事図書館 — 入会はこちら

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