東北のIT企業がDX人材を社内で育てる研修設計の考え方——「外から採る」前に「中から育てる」戦略
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東北のIT企業がDX人材を社内で育てる研修設計の考え方——「外から採る」前に「中から育てる」戦略

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東北のIT企業がDX人材を社内で育てる研修設計の考え方——「外から採る」前に「中から育てる」戦略

「DX人材が欲しい。でも、仙台の市場にはそもそもDX人材がほとんどいない。いたとしても、うちの給料では採れない」

仙台のあるSIer(システムインテグレーター)の社長が、率直にこう語りました。DX(デジタルトランスフォーメーション)の波は東北にも確実に押し寄せています。製造業のIoT化、農業のスマート化、自治体のデジタル化——DXの案件は増える一方です。しかし、その案件に対応できる人材が圧倒的に不足している。

経済産業省の試算では、2030年にはIT人材が最大79万人不足するとされています。東北においては、東京への人材流出が加わり、状況はさらに厳しい。仙台のIT企業が東京の大手と同じ給与を出すことは現実的ではなく、「採用で勝つ」戦略には限界があります。

だからこそ、「外から採る」前に「中から育てる」。既存の社員をDX人材に育て上げる研修設計が、東北のIT企業にとって最も現実的で持続可能な戦略です。


DX人材とは何か——定義を明確にする

「DX人材が欲しい」と言うとき、具体的にどんな人材を指しているかを明確にすることが第一歩です。「DX人材」は漠然とした言葉であり、求めるスキルセットは企業によって大きく異なります。

DX人材を大きく4つの類型に分類します。

DXアーキテクト。クラウド、API、データ基盤などの技術アーキテクチャを設計できる人材。技術の全体像を俯瞰し、最適な技術選定ができる。

データエンジニア・データサイエンティスト。データの収集・加工・分析を行い、ビジネス上の意思決定を支援できる人材。統計学、機械学習、SQLなどのスキルが求められる。

DXコンサルタント。顧客企業の経営課題を理解し、デジタル技術を活用した解決策を提案できる人材。技術知識とビジネス理解の両方が必要。

DXプロジェクトマネージャー。DXプロジェクトの企画・推進・管理ができる人材。ステークホルダーとの調整力、アジャイル開発の知見が求められる。

東北のIT企業が育成するDX人材は、このうちどの類型なのか。あるいは、複数の類型を兼ね備えた人材なのか。まずは、自社の事業戦略に基づいて「必要なDX人材像」を定義することが出発点です。


DX人材育成を「経営数字」で語る

DX人材の育成を経営者に提案する際、数字で語る必要があります。

仙台のあるIT企業(従業員80名)の試算です。

DX案件の単価は、従来のSI案件の1.5〜2倍。年間売上に換算すると、DX人材1名が対応できるDX案件の売上は、従来型の人材の売上より年間約500万円高い。

一方、DX人材を中途採用する場合のコスト。人材紹介手数料は年収600万円×30%=180万円。仙台で年収600万円を出せるIT企業は限られており、そもそも候補者が見つからないケースも多い。

社内育成の場合のコスト。研修費用(外部研修+社内OJT)は1名あたり年間約50〜80万円。育成期間(従来のSIエンジニアからDX人材へ)は約1〜2年。育成期間中の生産性低下は、年間約100万円(研修時間の分だけ稼働が減る)。

つまり、社内育成のコストは1名あたり150〜180万円(研修費+生産性低下)。中途採用のコストとほぼ同等。しかし、社内育成には3つのメリットがあります。自社の業務知識や顧客関係をすでに持っている。会社のカルチャーに馴染んでいる。育成のノウハウが社内に蓄積される。

DX人材5名を社内育成した場合、年間売上の増加は500万円×5名=2,500万円。育成コストの合計は150万円×5名=750万円。2年目以降は育成コストが大幅に減るため、投資回収は1年以内。


研修設計のフレームワーク——「3層構造」で段階的に

DX人材の育成研修は、一気に詰め込むのではなく、段階的に設計することが重要です。「3層構造」のフレームワークを提案します。

第1層(全社員対象):DXリテラシー研修。DXの基本概念、トレンド、事例を学ぶ。「DXとは何か」「なぜDXが必要か」を全社員が理解する。研修期間は1日(6時間)。対象は全社員。目的は、DXに対する共通言語と共通認識を作ること。

第2層(選抜メンバー対象):DXスキル研修。クラウド技術、データ分析、AI活用、アジャイル開発などの実践的なスキルを学ぶ。研修期間は3〜6ヶ月(週1回の座学+実践)。対象は、DX案件に携わる予定のエンジニア10〜20名。

第3層(少数精鋭対象):DXリーダー育成。DXプロジェクトのリーダーとして、顧客のビジネス課題を理解し、デジタルソリューションを企画・推進できる人材を育てる。研修期間は6ヶ月〜1年。対象は3〜5名。外部研修への参加や、先進企業への短期派遣も含む。

この3層構造のメリットは、全社員のDXリテラシーを底上げしつつ、重点的に育成するDX人材にリソースを集中できること。全員を同じレベルに引き上げようとすると、コストが膨大になりますが、層に分けることで投資の効率が上がります。


第1層:DXリテラシー研修の実践

第1層のDXリテラシー研修は、全社員が対象です。目的は、DXに対する「腹落ち」——「自分の仕事にDXがどう関係するか」を理解してもらうこと。

岩手のあるソフトウェア開発会社で実施したDXリテラシー研修の内容です。

午前(3時間)。DXの定義と事例。東北の企業のDX事例を中心に紹介。製造業のIoT導入で生産性が20%向上した事例。農業のスマート化で収穫量が15%増加した事例。自治体のデジタル化で住民サービスの待ち時間が半減した事例。——身近な事例を使うことで、「DXは自分たちにも関係がある」という実感が生まれる。

午後(3時間)。ワークショップ。「自社のお客様が抱える課題をDXでどう解決できるか」をチームで考えるグループワーク。4〜5人のチームで、実際の顧客の課題を題材にしたアイデア出しを行う。最後にチームごとにプレゼンテーション。

この研修の反応は非常に良かったそうです。「DXって遠い話だと思っていたけど、うちのお客さんの課題を解決する手段なんだとわかった」という声が多数。研修をきっかけに、「自分もDXのスキルを身につけたい」と手を挙げた社員が15名いたとのこと。

研修コストは外部講師費を含めて約30万円。この投資で、全社員のDXへの意識が変わり、第2層への参加候補者が自発的に手を挙げてくれた。


第2層:DXスキル研修の具体的な設計

第2層のDXスキル研修は、実際にDX案件に携わるエンジニアが対象です。ここでは、「学ぶ」と「実践する」を交互に繰り返す設計が重要です。

仙台のあるIT企業が実施しているDXスキル研修のプログラム(6ヶ月間)です。

月1:クラウド基礎。AWSやAzureの基本サービスの理解と操作。ハンズオン形式で、実際にクラウド環境を構築する演習。

月2:データエンジニアリング基礎。SQLの高度な操作、データウェアハウスの設計、ETLの基本。自社の過去プロジェクトのデータを題材にした演習。

月3:データ分析・可視化。Pythonを使ったデータ分析の基礎。BIツール(Tableauなど)を使ったダッシュボード作成。

月4:AI・機械学習入門。機械学習の基本的な概念とアルゴリズム。「AIで何ができるか、何ができないか」を理解する。過度な期待を防ぎ、現実的な活用方法を学ぶ。

月5:アジャイル開発実践。スクラム開発の基礎。実際のプロジェクトにアジャイルの手法を適用する演習。

月6:総合演習。実在する顧客課題をテーマに、チームでDXソリューションを企画・設計・プレゼンテーションするプロジェクト型の演習。

各月の構成は、「座学2時間+ハンズオン4時間+振り返り1時間」を週1回。業務時間内に実施し、残りの4日は通常業務。「研修ばかりで仕事ができない」という状態を避けつつ、着実にスキルを積み上げる。

講師は、社内のDX経験者が務める部分と、外部の専門家を招く部分を組み合わせる。社内講師のメリットは「自社の文脈に即した教え方ができる」こと。外部講師のメリットは「最新の技術トレンドや他社の事例を学べる」こと。


「OJT」と「研修」のハイブリッド——実案件で学ぶ

研修だけでDX人材は育ちません。実際のプロジェクトで経験を積むOJTが不可欠です。

しかし、いきなりDX案件のリーダーを任せるのはリスクが高い。研修で基礎を学んだ後、実際のDX案件に「見習い」として参加し、先輩DX人材の下で実践経験を積む。この「研修→OJT→独り立ち」のステップが重要です。

仙台のあるIT企業では、「DXアプレンティスシップ」(DX見習い制度)を導入しています。

第2層のDXスキル研修を修了した社員を、実際のDX案件に「サブ担当」としてアサイン。メイン担当の先輩DX人材の下で、要件定義、アーキテクチャ設計、顧客折衝などを実際に経験する。アプレンティスシップの期間は6ヶ月〜1年。

期間中は、月1回の「振り返り面談」で、上司と本人がスキルの習得状況を確認し、次のステップを計画する。「今月はクラウド環境の構築を担当した。次月はデータ分析のパートを担当したい」——こうした計画的なスキル獲得が進みます。


東北大学・東北のIT企業との連携

DX人材の育成を自社だけで完結させる必要はありません。東北のリソースを活用する手があります。

東北大学は情報科学の研究で全国トップクラス。東北大学の社会人向けリカレント教育プログラムや、共同研究への参加を通じて、社員のスキルアップを図ることができます。

また、仙台のIT企業同士が合同で研修を実施する動きもあります。1社だけでは講師の確保や研修プログラムの設計が難しくても、複数社で共同開催すれば、コストを分担しつつ充実した内容を提供できる。

仙台のIT企業5社が共同で開催している「仙台DXスクール」は、月1回の勉強会形式で、各社のDX事例を共有しています。「うちではこの技術をこう使った」「この案件ではこんな課題があった」——同業者間の率直な情報交換が、各社のDX推進力を底上げしている。

参加費は1社あたり月額3万円(会場費と運営費の分担)。年間36万円の投資で、他社の知見を吸収し、自社のDX人材のスキルアップにつなげている。


DX人材の評価と処遇——育成した人材を「引き留める」

DX人材を社内で育てても、育てた後に東京の大手企業に引き抜かれては意味がありません。育成した人材を自社に定着させるための評価と処遇の設計が必要です。

秋田のあるIT企業は、DXスキルを持つ社員に対して「DXスキル手当」を設けています。取得した資格(AWSの認定資格、データサイエンティスト検定など)や、DX案件の経験に応じて、月額1〜3万円の手当を支給。年間で12〜36万円。

また、DX人材のキャリアパスを明示しています。「DXエンジニア→DXリード→DXアーキテクト→DX事業部長」という技術系のキャリアラダーを設け、各レベルの期待される役割と報酬レンジを公開。「自分がどこにいて、次にどこに向かうか」が見えることが、DX人材のモチベーションを維持します。

東京と同じ給与を出すのは難しい。しかし、東北の生活コストの低さ、通勤ストレスの少なさ、自然環境の豊かさ——こうした「仙台で働く価値」を含めたトータルリワードの設計が、DX人材の定着を支えます。


「学び続ける組織」を作る

DX人材の育成は、一度の研修で完了するものではありません。デジタル技術は日進月歩で進化するため、継続的な学びが不可欠です。

「学び続ける組織」を作るためのポイントを3つ挙げます。

第一に、学びの時間を業務として認める。「業務時間外に自己学習してください」では、学びは続きません。業務時間の10〜20%を学びに充てることを制度として認める。Googleの「20%ルール」は有名ですが、東北の中小IT企業でも同様の仕組みは導入可能です。

第二に、学びの成果を発表する場を作る。月1回の「テックトーク」で、社員が自分の学びを5〜10分で発表する。「こんな技術を試してみた」「こんなツールを見つけた」——こうした発表が、他の社員の学びの刺激になる。

第三に、外部カンファレンスへの参加を支援する。国内外の技術カンファレンスへの参加費と交通費を会社が負担。最新のトレンドに触れ、社外のエンジニアとネットワークを作る機会を提供する。

DX人材の育成は、東北のIT企業の競争力を左右するテーマです。「中から育てる」戦略を、経営の中核に据えること。それが、東北のIT企業が持続的に成長するための鍵です。


もし「DX人材育成を含め、経営に貢献する人事の力を高めたい」と感じたなら、人事のプロ実践講座への参加を検討してみてください。

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また、東北でIT人材育成に取り組む仲間とつながりたい方は、人事図書館へ。

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