東北の企業が「社内公募制度」で人材の適材適所を実現する方法——「会社が決める配置」から「自分で選ぶキャリア」へ
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東北の企業が「社内公募制度」で人材の適材適所を実現する方法——「会社が決める配置」から「自分で選ぶキャリア」へ

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東北の企業が「社内公募制度」で人材の適材適所を実現する方法——「会社が決める配置」から「自分で選ぶキャリア」へ

「うちの若手が『やりたい仕事がここにはない』と言って辞めていきます。でも、実は社内に彼が活躍できるポジションがあったんです。彼がそれを知らなかっただけ。私たちがそれを伝えなかっただけ」

仙台のある中堅商社の人事課長から聞いた言葉です。私はこの話を聞いて、東北の企業が抱える「もったいない離職」の本質を見た気がしました。

東北の中小企業では、社員の配置は「会社(社長や人事部長)が決めるもの」という認識が一般的です。入社時の配属、その後の異動——すべてが会社主導で行われ、社員本人の意思は「参考程度」にしか考慮されない。

しかし、この「会社が決める配置」が、人材のミスマッチと離職を生んでいるケースが少なくありません。本人がやりたい仕事と、実際に任されている仕事のギャップ。本人が発揮したい能力と、今のポジションで求められるスキルのズレ。このミスマッチが蓄積すると、優秀な人材ほど「自分の力を活かせる場所」を求めて社外に出ていきます。

この問題に対する一つの解決策が「社内公募制度」です。社内の空きポジションや新規プロジェクトのメンバーを社内で公募し、希望する社員が自ら手を挙げて応募できる仕組みです。

大企業では一般的な制度ですが、東北の中小企業で導入しているケースはまだ少ない。しかし、私は東北の中小企業にこそ、社内公募制度が効果を発揮すると考えています。その理由と具体的な導入方法をお伝えします。


なぜ東北の中小企業に社内公募が必要なのか

東北の中小企業で社内公募制度が必要な理由は3つあります。

第一に、「転職市場が小さい分、社内異動の重要性が高い」。東京であれば、「今の仕事が合わない」と思ったら転職先の選択肢が豊富にあります。しかし、東北では転職市場が限られている。同業他社も少ない。だからこそ、「社内で自分に合ったポジションを見つけられる」仕組みが重要なのです。社内公募は、社員に「辞めなくても、やりたい仕事に挑戦できる」という選択肢を提供します。

第二に、「人材の流出を食い止める」。先ほどの仙台の商社の例のように、社内に活躍できるポジションがあるのに、それが見えないために辞めていく社員がいます。社内公募制度は、社内のポジション情報を「見える化」し、社員と社内の機会をマッチングする仕組みです。

第三に、「社員の主体性を育てる」。「自分のキャリアは自分で決める」という意識を持つ社員は、モチベーションが高く、成果も出しやすい。社内公募制度は、社員に「自分でキャリアを選択する」経験を提供し、主体性と当事者意識を育てます。


社内公募制度の経営的効果——数字で語る

社内公募制度がどれだけの経営的効果を生むか、私が関わった東北の企業の事例をお話しします。

福島のある電機メーカー(従業員200名)で、3年前に社内公募制度を導入しました。導入前後で比較した数字です。

入社5年以上の中堅社員の離職率が、導入前の年間8%から導入後は年間3%に低下。年間の離職者数にして10名減。1名あたりの退職・再採用コストを150万円として、年間約1,500万円のコスト削減効果です。

社内公募で異動した社員の「仕事満足度」は、異動前と比べて平均35ポイント上昇(5段階評価で1.4ポイント上昇)。エンゲージメントサーベイの全社平均スコアも、制度導入後に8ポイント上昇しました。

さらに、「社内公募で異動できる可能性がある」という制度の存在自体が、社員の定着意欲を高めています。アンケートで「社内公募制度があることが、この会社で働き続ける理由の一つだ」と回答した社員が全体の42%にのぼりました。


社内公募制度の設計——東北の中小企業向けのシンプルな仕組み

大企業の社内公募制度をそのまま持ち込んでも、東北の中小企業では機能しません。規模に合った、シンプルな仕組みが必要です。

私が東北の中小企業向けに設計している社内公募の基本フレームは以下の通りです。

「公募対象」:欠員補充、新規プロジェクトのメンバー、新設部署の担当者。すべての空きポジションを公募にするのではなく、「社内の人材で埋めたいポジション」に限定する。

「応募資格」:入社1年以上、現在の部署に1年以上在籍。短期間での異動の繰り返しを防ぐための条件です。

「応募方法」:人事部門(または総務部門)に応募書類(志望動機と自己PR、A4用紙1枚)を提出。現在の上司への事前報告は不要とする。これが非常に重要です。上司への事前報告を義務付けると、「上司が引き留める」「上司の機嫌を損ねる」ことを恐れて応募をためらいます。

「選考方法」:受入先部署の責任者と人事担当者が面談。現在の部署の責任者は選考に参加しない。

「異動時期」:公募決定から2〜3か月後に異動。現在の部署での引き継ぎ期間を確保する。

「公表方法」:社内掲示板やメール。公募のポジション、業務内容、求める人材像を明記する。


社内公募導入の「壁」と乗り越え方

東北の中小企業で社内公募制度を導入する際に出てくる「壁」と、その乗り越え方を紹介します。

壁1:「部下を取られたくない」という管理職の抵抗。これが最大の壁です。優秀な部下が社内公募で他部署に異動したいと言ったら、現在の上司は「困る」と感じます。「人手が足りないのに、さらに減るのか」という反応は、東北の人手不足の企業では当然です。

対処法は、「社内公募による異動は会社全体のメリットである」と管理職に繰り返し伝えること。そして、異動元の部署には「欠員補充の優先権」を与える。「部下を公募で出した部署は、次の採用で優先的に人員を充当する」というルールを設ければ、管理職の抵抗は和らぎます。

壁2:「応募しても落ちたら気まずい」という社員の不安。社内公募に応募したことが上司に伝わり、しかも落選した場合、現在の部署で気まずくなるのではないか——この心配が応募をためらわせます。

対処法は、「応募情報の機密性」を徹底すること。応募した事実は人事部門と受入先部署の面接官だけが知る。落選した場合、応募の事実は現在の上司に伝えない。このルールを明文化し、全社に周知する。

壁3:「公募しても誰も手を挙げない」。導入初期に起きがちな問題です。社員が「本当に応募していいのか」「実は出来レースなのではないか」と疑念を持っている。

対処法は、「最初の成功事例を作る」こと。第1回の公募で実際に社員が異動し、異動後に活躍している姿を社内で紹介する。「本当に手を挙げれば異動できるんだ」と社員が実感すれば、2回目以降の応募は増えます。

盛岡のある建設会社では、第1回の社内公募で応募があったのは1名だけでした。しかし、その1名が異動後に大きな成果を出したことが社内に伝わり、第2回の応募は5名、第3回は8名と増加しました。


社内公募の運用ルール——「骨抜き」にしないために

社内公募制度は、運用ルールが曖昧だと形骸化します。私が東北の企業に推奨している運用ルールを紹介します。

ルール1:年に2回以上の定期公募を行う。不定期では社員が「いつ公募があるかわからない」ため、計画的にキャリアを考えられません。4月と10月など、時期を固定する。

ルール2:公募結果は2週間以内に通知する。選考が長引くと、応募者のモチベーションが下がります。迅速な意思決定が重要です。

ルール3:不採用の場合、理由をフィードバックする。「何が足りなかったか」を伝えることで、次回の公募に向けた成長のヒントになります。

ルール4:公募を経て異動した社員には、3か月後と6か月後にフォローアップ面談を実施する。「異動してみてどうか」「期待と現実にギャップはないか」を確認し、必要なサポートを提供する。

ルール5:社内公募の実績データ(応募数、異動数、異動後の満足度、離職率との相関)を記録し、経営会議で年1回報告する。データに基づいて制度を改善するサイクルを回す。


社内公募と「キャリア面談」の組み合わせ

社内公募制度の効果を最大化するためには、「キャリア面談」との組み合わせが有効です。

私が推奨しているのは、社内公募の1か月前に全社員に対して「キャリア面談」を実施し、「今後のキャリアの希望」「挑戦してみたい業務」「身につけたいスキル」をヒアリングすること。この情報を人事部門が把握しておくことで、公募ポジションと社員の希望を事前にマッチングできます。

山形のある製造業では、キャリア面談の結果を踏まえて「この公募ポジション、○○さんが興味を持ちそうだ」と予測し、公募情報を個別に案内する運用をしています。もちろん、最終的な応募の判断は本人に委ねる。しかし、「あなたに合いそうなポジションがある」と伝えるだけで、応募のハードルは大きく下がります。


東北の中小企業だからこその社内公募の強み

社内公募制度は大企業のためだけの仕組みではありません。東北の中小企業には、中小企業ならではの強みがあります。

第一に、「全員の顔が見える」。従業員50〜100名規模であれば、社内の人材の能力と適性を人事担当者がほぼ把握できます。大企業では数千人の中からマッチングする必要がありますが、中小企業ではマッチングの精度が高い。

第二に、「異動のハードルが低い」。大企業では異動に半年以上かかることもありますが、中小企業であれば2〜3か月で異動を完了できます。スピード感のある人材配置が可能です。

第三に、「経営者と社員の距離が近い」。社員の「やりたいこと」を社長が直接聞き、それに応えることができる。「社長が自分のキャリアを考えてくれている」と感じることが、社員の帰属意識を高めます。

仙台のある中堅メーカーの社長は、社内公募制度を導入した際にこう言いました。「うちの社員に『この会社にいれば、やりたいことに挑戦できる』と思ってもらうことが、採用活動の何倍も重要だ」と。


適材適所は「静的」ではなく「動的」に実現する

最後に、私が社内公募制度について考えていることを述べます。

「適材適所」という言葉は、「正しい人を正しい場所に配置する」ことを意味します。しかし、人も組織も変化します。3年前にはAさんに最適だったポジションが、今は最適でないかもしれない。Aさん自身が成長し、新しい挑戦を求めているかもしれない。

適材適所は、一度決めたら終わりではなく、継続的に更新し続ける必要があります。社内公募制度は、この「動的な適材適所」を実現するための仕組みです。

東北の企業から人材が流出する理由の一つは、「この会社にいても、自分のキャリアに変化がない」と感じることです。社内公募制度は、社員に「変化の機会」を提供します。辞めなくても、新しいことに挑戦できる。同じ会社にいながら、キャリアを自分で切り拓ける。

この仕組みがあるかどうかが、東北の中小企業の人材定着力を大きく左右すると私は考えています。

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