東北の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——「うちの社員が外で働く」ことへの不安を乗り越えて
制度設計・運用

東北の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——「うちの社員が外で働く」ことへの不安を乗り越えて

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東北の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——「うちの社員が外で働く」ことへの不安を乗り越えて

「副業解禁?うちみたいな50人の会社で、社員が他で働き始めたら、うちの仕事に集中してくれなくなるんじゃないですか」

秋田のある製造業の社長から率直に聞かれた言葉です。私はこの不安がよくわかります。東北の中小企業の経営者にとって、副業・兼業は「社員を取られる」「本業がおろそかになる」というリスクとしてまず映るのが自然です。

しかし、私は副業・兼業制度を「社員を手放すリスク」ではなく、「社員の能力を広げる投資」として捉えるべきだと考えています。そして、東北の中小企業にとって、副業・兼業制度は「人材を流出させる仕組み」ではなく、むしろ「人材を引き留め、惹きつける仕組み」になりうるのです。

その理由と、東北の企業に合った副業・兼業制度の設計方法を、具体的にお伝えします。


副業・兼業をめぐる東北の現状

まず、副業・兼業をめぐる現状を整理しましょう。

厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインを公表し、大企業を中心に副業解禁の流れが加速しています。しかし、東北の中小企業では副業を認めている企業はまだ少数派です。

私が東北の企業30社にヒアリングした結果、「副業を認めている」企業は4社(13%)。「検討中」が6社(20%)。「認めていない」が20社(67%)でした。

「認めていない」理由の上位3つは、「本業に支障が出る」「情報漏洩のリスク」「労務管理が複雑になる」でした。いずれももっともな懸念です。

しかし、別の角度から見ると、こんなデータもあります。東北の中小企業の中途採用において、「副業可能かどうか」を就職先の条件として挙げる求職者が増加傾向にあります。特にIT系やクリエイティブ系の人材は、副業不可の企業を選択肢から外す傾向が顕著です。

仙台のあるIT企業の採用担当者は、「応募者から『副業はできますか?』と聞かれることが急増した。『できません』と答えると、その場で辞退されることもある」と話しています。

副業・兼業を認めないことが、採用機会の損失につながっている。この現実を踏まえた上で、リスクを管理しながら副業・兼業制度を設計する方法を考えていきましょう。


副業・兼業制度がもたらす3つのメリット

副業・兼業制度を導入することで、東北の企業が得られるメリットを3つ紹介します。

第一に、「社員のスキルアップ」。副業先で新しいスキルや知識を獲得した社員が、それを本業にフィードバックする。例えば、製造業の社員がIT企業で副業し、データ分析のスキルを身につける。そのスキルを自社の生産管理に活かす。自社だけでは提供できない学習機会を、副業が補完するのです。

宮城のある中堅メーカーでは、副業を認めた結果、営業部の社員がマーケティング会社で副業し、デジタルマーケティングの知識を習得しました。その知識を自社の営業戦略に適用したところ、Web経由の問い合わせが前年比で50%増加。「副業が自社の営業改革のきっかけになるとは思わなかった」と営業部長は驚いていました。

第二に、「採用力の向上」。副業可能な企業は、副業不可の企業よりも採用市場での魅力が高い。特に、首都圏からのUターン・Iターン人材は、「東北に移住しても副業で東京の仕事を続けられる」ことを重視する傾向があります。

盛岡のあるデザイン事務所では、副業制度を導入した際に求人票に「副業OK」と記載したところ、首都圏からの応募が3倍に増えました。「東京のクライアントの仕事を副業として続けながら、盛岡でメインの仕事ができる」という働き方に魅力を感じた応募者が多かったのです。

第三に、「定着率の向上」。「やりたいことがあるけど、今の会社ではできない」——この不満が離職につながるケースは多い。副業で「やりたいこと」を満たせれば、本業への不満が軽減され、離職のリスクが下がります。

山形のある企業では、副業制度を導入してから2年間で、中堅社員の離職率が12%から4%に低下しました。「副業で自分のやりたいことができるので、転職する理由がなくなった」という社員の声が象徴的です。


リスクの管理——3つの懸念への対処法

副業・兼業の3つの主要な懸念に対する具体的な対処法を紹介します。

懸念1:本業への支障

最大の懸念は、副業によって本業のパフォーマンスが低下することです。

対処法は、「ルールの明確化」と「成果の監視」です。

ルール例:副業は週10時間以内。本業の就業時間中の副業は禁止。副業の翌日に本業の遅刻・欠勤が発生した場合は副業の停止を指示する。

成果の監視:副業開始後、本業の業績指標(売上、生産性、勤怠など)を毎月モニタリング。明らかな低下が見られた場合は、面談を行い、副業の内容や時間を見直す。

福島のある商社では、副業を認める条件として「本業の評価がB以上であること」を設定しています。評価がC以下に下がった場合は、副業の一時停止を求める。このルールにより、「副業をするためには本業で成果を出す必要がある」というインセンティブが生まれ、結果として本業のパフォーマンスも維持されています。

懸念2:情報漏洩

自社の機密情報が副業先に流出するリスクです。

対処法は、「誓約書」と「副業先の審査」です。

副業開始時に、「副業先において自社の機密情報を一切開示・使用しない」旨の誓約書を提出してもらう。また、副業先が自社の競合企業でないことを確認する。競合企業での副業は原則禁止とする。

ただし、「過度に厳しい制限」は逆効果です。あまりに制限が多いと、「副業可」と言いながら実質不可になり、社員の信頼を損ねます。「競合他社での副業禁止」「機密情報の持ち出し禁止」の2点に絞り、それ以外は自由に任せる。シンプルなルールの方が運用しやすいです。

懸念3:労務管理の複雑さ

労働時間の通算、健康管理、社会保険の取り扱い——副業に伴う労務管理の手間が増えることへの懸念です。

対処法は、「申告制度の簡素化」です。副業開始時に「副業届出書」を提出してもらう。記載内容は、副業先の企業名、業務内容、想定される週あたりの労働時間、副業期間。年1回の更新で最新状況を報告してもらう。

労働時間の管理については、自己申告ベースで管理する方法が東北の中小企業には現実的です。厳密な管理は大企業向けのアプローチであり、50〜100名規模の企業では過剰な管理は避けた方がいい。信頼関係をベースに、問題が発生した場合に対処する「性善説」の運用です。


東北の企業に合った副業・兼業制度の設計

東北の中小企業に合った副業・兼業制度の設計ポイントを紹介します。

ポイント1:「段階的導入」。いきなり全社員に解禁するのではなく、まず一部の職種・社員に限定して試行する。例えば、IT部門やデザイン部門など、副業との親和性が高い職種から始める。3〜6か月の試行期間を経て、問題がなければ対象を拡大する。

ポイント2:「許可制」で始める。「届出制(報告すればOK)」ではなく、「許可制(申請して承認を得る)」から始める。許可の基準を明確にし、透明性を確保した上で、運用の実績が蓄積されたら届出制に移行する。

ポイント3:「副業の成果を共有する仕組み」を作る。副業で得た知識やスキルを本業にフィードバックする仕組みを作ることで、副業が「個人のための活動」ではなく「会社にとっても有益な活動」になる。例えば、四半期に1回の「副業報告会」を開催し、副業先で学んだことを社内で共有する場を設ける。

仙台のある企業では、この「副業報告会」が社内のイノベーションの源泉になっています。ある社員がNPOでのボランティア副業で学んだ「地域コミュニティの活性化手法」を、自社の地域マーケティングに応用した事例が生まれました。


「受け入れ側の副業」——外部人材を副業で迎える

ここまでは自社の社員が外で副業する「送り出し型」の話でしたが、逆の発想もあります。外部の人材を「副業・兼業」の形で自社に迎え入れる「受け入れ型」です。

東北の中小企業が、フルタイムでは採用できないハイスペック人材を、副業・兼業の形で活用する。これは、人材不足の東北にとって非常に有効な戦略です。

例えば、仙台のある製造業では、東京のIT企業に勤めるエンジニアを「週5時間の副業」で受け入れ、社内のDX推進プロジェクトのアドバイザーを務めてもらっています。月額報酬は10万円。フルタイムのDX人材を採用すれば年収600万円以上かかるところを、月10万円(年間120万円)で専門知識を活用できている。

秋田のある老舗旅館では、大手ホテルチェーンの人事マネージャーが副業で「人事制度設計のコンサルティング」を行っています。週に2時間のオンラインミーティングと月1回の現地訪問で、旅館の人事制度を大幅に改善しました。コストは月額8万円。専門のコンサルティング会社に依頼すれば数百万円かかるプロジェクトを、副業人材の活用で低コストに実現しています。


副業・兼業と東北の暮らし——「複業」が生む新しい働き方

最後に、副業・兼業制度が東北の暮らしと結びつく可能性についてお伝えします。

東北には、本業以外に農業、漁業、伝統工芸、地域活動に関わっている人が昔から少なくありません。サラリーマンが兼業で米を作る。IT企業の社員が週末に伝統工芸の職人を手伝う。こうした「複数の仕事を持つ暮らし」は、東北の風土に馴染むものです。

青森のある企業では、副業制度の導入をきっかけに、社員がりんご農家の収穫作業を副業として手伝う動きが生まれました。「会社では味わえない充実感がある」「農家の方との付き合いが自分の世界を広げてくれた」——副業が「お金」だけでなく「人生の豊かさ」を生む事例です。

副業・兼業制度は、単なる労務管理の変更ではありません。「社員の人生を豊かにし、その豊かさが本業にも還元される」仕組みです。

東北の企業が「うちの社員が外で働く」ことへの不安を乗り越え、副業・兼業を「人材の幅を広げる機会」として活用する。その転換が、人材獲得が困難な東北の企業にとって、新たな競争力の源泉になると私は考えています。

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