
東北の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——「求人票を出すだけ」の採用から脱却するために
目次
東北の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——「求人票を出すだけ」の採用から脱却するために
「求人を出しても応募が来ない。出しても出しても、反応がない。うちみたいな知名度のない会社は、どうすれば人が来てくれるんでしょうか」
宮城のある食品加工会社の総務部長から受けた相談です。私はこの悩みを聞いて、東北の中小企業に共通する採用の構造的な問題を感じました。それは、「採用広報」という発想がそもそも存在しないことです。
東北の中小企業の多くは、採用活動を「求人票を出す→応募を待つ→面接する→採否を決める」という一方通行のプロセスとして捉えています。しかし、この「待ちの採用」では、労働人口が減少し続ける東北で必要な人材を確保することは年々困難になっています。
採用広報とは、「自社の魅力を能動的に発信し、求職者に『この会社で働きたい』と思ってもらうための活動」です。大企業では当たり前の取り組みですが、東北の中小企業では「うちみたいな会社に広報する材料なんてない」と思い込んでいるケースが大半です。
私はその認識は間違っていると断言します。東北の中小企業には、大企業にはない魅力が必ずあります。それを見つけ、言語化し、届けること。それが採用広報の本質であり、ゼロから始めることは十分に可能です。
私がこれまで東北の企業で採用広報の立ち上げを支援してきた経験から、具体的な方法をお伝えします。
なぜ東北の企業に採用広報が必要なのか——数字で見る現実
まず、東北の採用環境の厳しさを数字で確認しましょう。
東北6県の有効求人倍率は上昇傾向が続いており、特に製造業、建設業、介護・福祉の分野では求職者よりも求人の方が圧倒的に多い状況です。つまり、求職者は「選ぶ側」であり、企業は「選ばれる側」です。
私が仙台で中途採用の求職者30名にヒアリングした結果、「応募する前に企業の情報をどこで調べるか」という質問に対して、「企業のホームページ」が1位(87%)、「SNS」が2位(53%)、「口コミサイト」が3位(47%)でした。求人票だけを見て応募を決める人は、わずか12%。
つまり、求職者の大多数は「求人票以外の情報」を基に応募するかどうかを判断しています。企業のホームページに採用に関する情報がほとんどない。SNSアカウントがない。口コミサイトに情報がない。この状態では、求職者の判断材料がなく、「よくわからない会社には応募しない」という結論になる。
秋田のあるサービス業(従業員40名)の事例です。自社のホームページには会社概要と事業内容しかなく、採用ページは「募集要項」が1枚あるだけでした。年間の応募者数はわずか5名。しかし、採用広報に取り組んで自社サイトを充実させた結果、1年後には応募者が22名に増加しました。求人媒体の費用は変えていません。変わったのは「自社の発信力」だけです。
採用広報の第一歩——「自社の魅力の棚卸し」
採用広報を始める最初のステップは、「自社の魅力を発見し、言語化する」ことです。
「うちに魅力なんてない」——東北の中小企業の経営者からよく聞く言葉ですが、これは謙遜ではなく、自社の魅力を客観的に見る機会がなかっただけです。
私が東北の企業で実施している「魅力棚卸しワークショップ」の方法を紹介します。
参加者は社長、管理職、若手社員の5〜8名。所要時間は2時間。以下の5つの質問に対して、全員がポストイットに答えを書き出します。
質問1:「あなたがこの会社で働き続けている理由は何ですか?」 質問2:「この会社で一番好きなところは何ですか?」 質問3:「友人にこの会社を紹介するとしたら、何と言いますか?」 質問4:「入社して驚いたこと、想像と違って良かったことは何ですか?」 質問5:「東北のこの場所で働く良さは何ですか?」
山形のある製造業でこのワークショップを実施したところ、出てきた回答の一部はこうでした。「社長が毎朝工場を回って声をかけてくれる」「定時で帰れるのが当たり前」「山形の四季を感じながら通勤できる」「取引先と長年の信頼関係がある安定感」「若手でも意見を言える雰囲気」。
経営者は「そんな当たり前のことが魅力なのか」と驚きましたが、これらは大企業や東京の企業では得られないものばかりです。「当たり前」が「魅力」であることに気づくのが、採用広報の出発点です。
採用広報の3本柱——「メディア」「コンテンツ」「発信リズム」
魅力を棚卸ししたら、次はそれを求職者に届ける仕組みを作ります。私が東北の企業に提案している採用広報の3本柱は、「メディア」「コンテンツ」「発信リズム」です。
メディア選定——東北の企業に合ったチャネルを選ぶ
東北の中小企業が取り組みやすい発信メディアは、大きく3つあります。
第一に、「自社ウェブサイトの採用ページ」。これが最も重要な基盤です。求人媒体に掲載するにしても、求職者は必ず企業のホームページを確認します。ここに魅力的な採用情報がなければ、応募には至りません。
第二に、「SNS」。Instagram、X(旧Twitter)、Facebook——どれを使うかは、ターゲットとする人材層によって選びます。20〜30代の若手にはInstagram、ビジネス層にはFacebook、幅広い層にはXが効果的です。
第三に、「note」。長文の記事を発信するプラットフォームとして、採用広報に活用する企業が増えています。社員インタビューや社長メッセージなど、じっくり読んでもらいたいコンテンツに適しています。
仙台のあるIT企業(従業員30名)は、採用ページのリニューアル+Instagram運用の2本で採用広報を始めました。初期費用はサイトリニューアルに30万円。Instagramの運用は社内の若手社員が担当し、追加費用はゼロ。1年間で応募者数が2倍に増えました。
コンテンツ企画——「何を発信するか」
採用広報のコンテンツには、いくつかの定番があります。
第一に、「社員インタビュー」。実際に働いている社員の声は、最も信頼性が高いコンテンツです。「なぜこの会社を選んだか」「実際に働いてみてどうか」「一日の流れ」——求職者が知りたい情報を、社員の言葉で伝える。
岩手のある建設会社では、入社3年目の女性技術者のインタビュー記事を採用ページに掲載したところ、女性からの応募が前年比で3倍に増加しました。「女性でも活躍できる会社なんだ」と知ってもらうことが、応募のきっかけになった。
第二に、「仕事の裏側」。日常の仕事風景、社内イベント、プロジェクトの舞台裏——求人票には載らない「会社のリアル」を見せる。Instagramでの発信に適したコンテンツです。
第三に、「社長メッセージ」。経営者がどんな想いで会社を経営しているか。東北の中小企業の社長には、地域への想いや事業への情熱がある。それを言語化して発信する。
第四に、「福利厚生・働き方の詳細」。求人票の「社会保険完備」だけでなく、「実際にどういう働き方ができるか」を具体的に伝える。「残業月平均○時間」「有給取得率○%」「育児休暇取得実績あり」——数字で示すことで、信頼性が高まります。
第五に、「地域の魅力」。東北で働く・暮らす魅力を伝えるコンテンツです。特にUターン・Iターンの採用を狙う場合に効果的です。「会社の近くにこんな美味しいランチスポットがある」「通勤途中に見える蔵王の景色」——こうした情報が、「東北で働いてみたい」という気持ちを後押しします。
発信リズム——「続けること」が最重要
採用広報で最も大切なのは、「継続すること」です。完璧なコンテンツを月に1本出すより、そこそこのコンテンツを週に1本出す方が効果的です。
私が東北の中小企業に推奨している発信リズムは以下の通りです。
自社サイトの採用ページ:四半期に1回の更新。社員インタビューの追加、数字データの更新。
SNS(Instagram等):週2〜3回の投稿。日常風景、社員の紹介、イベントの様子。1投稿あたりの作成時間は15〜20分を目安にする。完璧を求めず、「リアルな姿」を発信する。
ブログ・note:月1〜2回の記事投稿。社員インタビュー、社長メッセージ、仕事の紹介。1記事2,000〜3,000文字を目安にする。
採用広報の担当者問題——「誰がやるのか」
東北の中小企業で採用広報を始める際の最大の壁は、「担当者がいない」ことです。人事の専任者がいない企業が多い中で、採用広報の担当者を確保するのは容易ではありません。
私がこの問題に対して提案しているのは、「採用広報チーム」を社内に作る方法です。専任者ではなく、複数の社員が少しずつ分担する。
具体的には、3〜4名のチームを編成します。メンバーの内訳は、「取りまとめ役(人事または総務)」1名、「撮影・投稿担当(若手社員)」1〜2名、「コンテンツ監修(管理職)」1名。
各メンバーの負担は、週に1〜2時間程度。撮影・投稿担当は、スマートフォンで写真を撮り、Instagramに投稿する。取りまとめ役は、月1回のチームミーティングで企画を確認し、コンテンツの方向性を調整する。管理職は、記事の内容に問題がないかを確認する。
福島のある食品メーカー(従業員60名)では、20代の事務職社員2名を「採用広報サポーター」に任命し、業務時間の一部(週2時間)を採用広報に充てることを認めました。2名がスマートフォンで工場の様子や社員の表情を撮影し、Instagramに投稿する。半年間で120件の投稿を行い、フォロワーは800人に達しました。「求人サイトではなく、Instagramを見て応募しました」という候補者が出始めています。
採用広報の効果測定——何を指標にするか
採用広報の効果を測るための指標を紹介します。
私が東北の企業に推奨している指標は5つです。
第一に、「採用サイトのアクセス数」。月間のページビュー数と、どのページが最も見られているかを把握する。Googleアナリティクスを使えば無料で計測できます。
第二に、「SNSのフォロワー数・エンゲージメント率」。フォロワー数だけでなく、「いいね」「コメント」「シェア」の数を追う。エンゲージメント率が高いコンテンツは、求職者の関心に合ったコンテンツです。
第三に、「応募者数の変化」。採用広報を始める前と後で、応募者数がどう変化したかを比較する。
第四に、「応募経路の分析」。「どこでうちの会社を知りましたか」を応募者に必ず聞く。採用サイト経由、SNS経由、口コミ経由——どの経路が効果的かを把握する。
第五に、「内定辞退率」。採用広報によって企業理解が深まると、入社後のミスマッチが減り、内定辞退率も下がる傾向があります。
青森のある運送会社(従業員50名)では、採用広報の効果を半年ごとに集計しています。採用広報開始前と比較して、サイトアクセス数は3倍、応募者数は1.8倍、内定辞退率は35%から15%に改善しました。
採用広報でやってはいけないこと——3つの失敗パターン
東北の企業が採用広報で陥りがちな失敗パターンを3つ紹介します。
失敗パターン1:「盛りすぎる」。実態以上に良く見せようとして、美辞麗句を並べたコンテンツを発信する。「働きやすい環境」「風通しの良い社風」——抽象的な美辞麗句は、求職者の心に響きません。むしろ、「本当にそうなのか?」と疑われます。リアルであることが、採用広報の信頼性を高めます。
失敗パターン2:「始めて3か月でやめる」。採用広報は即効性のある取り組みではありません。効果が見え始めるのは、早くても半年後。「応募が増えない」と焦って3か月でやめてしまう企業が多い。最低1年は継続する覚悟で始めてください。
失敗パターン3:「誰に届けたいかを考えない」。「とにかく多くの人に見てもらおう」ではなく、「どんな人に入社してほしいか」を明確にしてからコンテンツを作る。ターゲットが定まっていないコンテンツは、誰にも刺さりません。
東北の中小企業が持つ「伝えられていない魅力」
最後に、私が東北の企業の採用広報を支援する中で感じていることを述べます。
東北の中小企業には、伝えられていない魅力がたくさんあります。地域に根差した安定経営。社員同士の距離の近さ。自然豊かな環境での暮らし。地域への貢献実感。若手でも裁量のある仕事。
これらは大企業や都市部の企業では得られないものです。しかし、その魅力は「言わなければ伝わらない」。採用広報は、その「言う」ための仕組みです。
特別なスキルも莫大な予算も必要ありません。必要なのは、「自社の魅力を見つける目」と「それを伝え続ける意志」です。求人票を出して待つだけの採用から、自社の魅力を能動的に発信する採用へ。この転換が、東北の中小企業の採用力を根本から変える第一歩になると私は考えています。
関連記事
採用・選考東北の企業が「採用候補者体験(CX)」を向上させる方法——応募者が「この会社を受けてよかった」と思う採用活動を設計する
面接に来た学生さんに御社の印象はどうですかと聞いたら、面接の連絡が遅くて不安でしたと言われました。こちらは忙しくてつい後回しにしていたんですが、応募者にとっては大きなことだったんですね
採用・選考東北の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善——「内定を出しても来てくれない」の悪循環を断ち切る
今年の新卒採用は5名に内定を出して、入社したのは2名。内定辞退率は60%です。毎年こんな感じで、内定を出してからが勝負なんです。でも何をすればいいかわからない
採用・選考東北の中小企業が「人材紹介会社」との付き合い方を最適化する方法——「高い手数料を払ったのに合わない人が来た」を防ぐために
人材紹介会社を使ったんですが、紹介された人がうちに全然合わなくて。3か月で辞めました。紹介料の120万円はほぼ丸損。もう使いたくないというのが正直な気持ちです
採用・選考東北の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法——「事務作業に追われて戦略的なことが何もできない」を解消する
毎月の給与計算、社会保険の手続き、年末調整、入退社の事務処理。これだけで手一杯で、本当にやりたい採用戦略や人材育成の企画に手が回りません