東北の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方——「何年いれば偉くなる」の仕組みを見直す
評価・等級制度

東北の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方——「何年いれば偉くなる」の仕組みを見直す

#評価#組織開発#経営参画#制度設計#マネジメント

東北の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方——「何年いれば偉くなる」の仕組みを見直す

「うちの等級制度は、正直よくわからないんです。給与テーブルがあって、毎年少しずつ上がる。何をすれば等級が上がるかの基準が曖昧で、社員に聞かれても説明できない」

宮城のある食品メーカーの人事担当者から聞いた言葉です。私はこの「説明できない等級制度」が、東北の中小企業の人事における大きな課題だと感じています。

等級制度は人事制度の背骨です。評価制度は等級ごとに求める基準を定め、報酬制度は等級に紐づく給与テーブルで運用される。等級制度が曖昧であれば、評価も報酬も曖昧になります。

東北の中小企業の等級制度に多いのは、「年功的に自動昇格する」仕組みです。入社して3年経てば2等級、5年経てば3等級——年数の経過が等級の上昇と連動している。この仕組みは安定感がある一方で、「頑張っても頑張らなくても同じ」「若くて優秀な社員が報われない」という不満を生みます。

等級制度の再設計は、人事制度全体の見直しの中で最も影響が大きく、慎重に進める必要があります。しかし、「難しいからやらない」では問題は悪化するばかりです。


等級制度の3つの類型を理解する

等級制度には大きく3つの類型があります。自社にどの類型が合うかを理解することが再設計の出発点です。

類型1:職能資格制度(能力ベース)

「人の能力」に基づいて等級を決める仕組み。「この等級の社員はこのレベルの能力を持っている」という考え方。日本企業で最も一般的な等級制度です。

メリットは、能力が上がれば等級も上がるため、社員の成長意欲を促しやすいこと。デメリットは、能力の評価が主観的になりやすく、結果的に年功序列と区別がつかなくなりがちなことです。

類型2:職務等級制度(仕事ベース)

「仕事の内容と重さ」に基づいて等級を決める仕組み。ジョブ型雇用の基盤となる等級制度です。

メリットは、同じ仕事をしている人は同じ等級・報酬になるため、公平性が高いこと。デメリットは、中小企業では一人が複数の仕事を兼務するため、「この人の仕事の等級はどれか」が決めにくいことです。

類型3:役割等級制度(役割ベース)

「組織の中で果たす役割」に基づいて等級を決める仕組み。職能資格制度と職務等級制度の中間的な位置づけです。

メリットは、「役割」は「能力」よりも具体的で「仕事」よりも柔軟。中小企業の実態に合わせやすいこと。デメリットは、「役割」の定義と評価の方法を明確にしないと、結局曖昧になること。

私が東北の中小企業に最も推奨しているのは「役割等級制度」です。理由は、東北の中小企業の特徴——社員が複数の業務を兼務する、事業環境の変化に応じて柔軟に役割が変わる——に最も適合するからです。


役割等級制度の設計——具体的なステップ

東北の中小企業が役割等級制度を設計するための具体的なステップを紹介します。

ステップ1:等級数を決める

従業員100名以下の中小企業であれば、等級数は4〜6が適切です。それ以上に細分化すると、等級間の違いが曖昧になり、運用が複雑になります。

私が推奨する基本構成は以下の通りです。

G1(一般職):指示を受けて定型業務を遂行する。入社1〜3年目が目安。 G2(中堅職):自律的に業務を遂行し、後輩の指導もできる。入社3〜7年目が目安。 G3(管理職・専門職):チームや部門のマネジメント、または専門分野でのリーダーシップを発揮する。 G4(上級管理職):経営に近い立場で、組織全体に影響を与える意思決定を行う。

「入社○年目が目安」はあくまで参考であり、年数ではなく「役割の遂行能力」で等級を決定するのが原則です。

ステップ2:各等級の役割定義を作成する

各等級で求められる「役割」を具体的に定義します。定義する項目は以下の4つです。

  1. 業務の範囲と自律度(どの範囲の仕事を、どの程度の自律性で遂行するか)
  2. 意思決定の範囲(どのレベルの意思決定を自分で行えるか)
  3. 対人影響力(誰に対して、どのような影響を与えるか)
  4. 成果への貢献(組織の成果にどのように貢献するか)

岩手のある建設会社(従業員70名)で作成した役割定義の例を紹介します。

G2(中堅職)の場合:「日常業務を自律的に遂行し、品質と効率を維持する。新人や若手の業務指導を行い、チームの生産性向上に貢献する。日常的な業務上の判断は自分で行い、重要な判断は上位者に相談する。担当する業務の改善提案を積極的に行う」。

ステップ3:等級ごとの給与レンジを設定する

各等級に対して給与のレンジ(上限と下限)を設定します。等級間のレンジは一部重複させることで、「等級は上がっていないが、現在の等級内で給与が上がる」余地を作ります。

例えば:G1=月給18万〜24万円、G2=月給22万〜30万円、G3=月給28万〜38万円、G4=月給35万〜45万円。

G1の上限(24万円)とG2の下限(22万円)が重複しています。これにより、G1からG2への昇格が「必ず昇給を伴う」わけではなく、現在の給与水準に応じた処遇が可能になります。

ステップ4:昇格の基準と手続きを明確にする

「何ができれば次の等級に上がれるか」を明確にします。

昇格の基準は「役割定義の充足度」で判定します。次の等級の役割定義を概ね遂行できるレベルに達しているかどうか。この判定は、直属の上司の推薦と人事担当者(または経営者)の審査で行います。

秋田のある製造業では、昇格候補者に「昇格プレゼンテーション」を行わせています。「自分がこの1年間で達成したこと」「次の等級でどのように貢献するか」を10分間で発表する。この仕組みにより、昇格の根拠が本人にも周囲にも明確になりました。


既存制度からの移行——不利益変更を避ける

等級制度の再設計で最も注意すべきは、既存の社員の処遇に不利益変更が生じないようにすることです。

新しい等級制度に移行する際、「現在の給与が新制度の等級レンジを超えている」社員が出る可能性があります。この場合、給与を下げるのではなく、「現給保障」の経過措置を設けます。現在の給与を維持しつつ、新制度の等級レンジ内に収まるまで昇給を抑制する、あるいは長期的にレンジを調整する。

青森のある商社では、新等級制度への移行に「3年間の移行期間」を設けました。移行期間中は旧制度と新制度を並行運用し、社員に「新制度ではあなたの等級はこうなり、給与にはこう影響します」という個別説明を行いました。丁寧な移行プロセスが、社員の不安を最小化しました。


管理職と専門職の「複線型等級」

等級制度の再設計では、管理職と専門職の「複線型等級」を検討することを勧めます。

「管理職にならないと等級が上がらない(=給与が上がらない)」仕組みでは、管理職に向いていない社員が無理に管理職になり、マネジメントがうまくいかないという問題が起きます。

G3の等級を「管理職コース」と「専門職コース」に分け、それぞれ同等の処遇(給与レンジ)を設定する。管理職コースはチームマネジメントを担い、専門職コースは技術や専門知識でチームに貢献する。

仙台のある製造業では、この複線型等級を導入した結果、「管理はやりたくないが技術は極めたい」というベテラン技術者が「専門職G3」として活躍するようになりました。無理に管理職を任せていた頃よりも、チーム全体のパフォーマンスが向上しています。


等級制度の運用——「作って終わり」にしない

等級制度は作って終わりではなく、継続的な運用と見直しが必要です。

運用のポイントは3つです。

第一に、「年1回の昇格審査」を確実に実施する。スケジュールを固定し、全管理職に昇格候補者の推薦を求める。昇格のチャンスが定期的にあることが、社員のモチベーションを維持します。

第二に、「等級と報酬の連動を明確にする」。等級が上がったら報酬がどう変わるかを社員が理解できるようにする。

第三に、「3年に1回は制度を見直す」。事業環境の変化、組織構成の変化に応じて、等級の要件や給与レンジを調整する。


社員への説明——「なぜ変えるか」を経営者の言葉で伝える

等級制度の再設計で見落とされがちなのが、社員への丁寧な説明です。

「新しい等級制度を導入します」と通知するだけでは、社員は不安と疑念を感じます。「自分の等級は下がるのか」「給料が減るのか」「何が変わるのか」——この不安に正面から応える説明が必要です。

説明のポイントは3つです。

第一に、「経営者自身が説明する」。人事担当者ではなく、社長が「なぜこの制度変更を行うのか」「会社としてどこに向かいたいのか」を自分の言葉で語る。制度変更は経営判断です。経営者が自ら語ることで、社員は「会社として本気なのだ」と受け止めます。

第二に、「個別の影響を説明する」。全体説明会の後に、個別面談で「あなたの場合はこうなります」と一人ひとりに影響を説明する。特に、現行制度からの変化が大きい社員には、丁寧な個別対応が必須です。

第三に、「質問を受け付ける機会を複数回設ける」。一度の説明では理解しきれない社員もいます。質問受付の機会を複数回設け、「わからないことは何度でも聞いていい」という姿勢を示す。

宮城のある製造業では、等級制度の改定時に「社長による全体説明会」「人事による個別面談」「匿名の質問箱」の3つを設けました。匿名の質問箱には「自分は何年後に次の等級に上がれるのか」「給与テーブルの上限に達したらどうなるのか」といった具体的な質問が寄せられ、一つずつ回答を全社に共有しました。


等級制度は「経営のメッセージ」である

最後に、等級制度の本質について述べます。

等級制度は「何を重視する会社なのか」を社員に伝えるメッセージです。年功を重視するのか、能力を重視するのか、役割を重視するのか。その選択が、社員の行動を方向づけます。

「年数を重ねれば上がる」等級制度は、「長くいてくれることが大事」というメッセージ。「役割を果たせば上がる」等級制度は、「貢献が大事」というメッセージ。

東北の企業がどのようなメッセージを社員に伝えたいか。等級制度の再設計は、その根本的な問いに向き合う作業です。それは、「この会社はどうあるべきか」という経営の根幹に関わる問いだと私は考えています。

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